
VOL.25 札幌市動物愛護管理センター あいまる さっぽろ編
こぼれ落ちる命の蛇口を閉め、受け皿をいかに拡大するか―?
新センターの強みを最大限活かし、命を繋ぐ!
JR札幌駅から車で8分。JR八軒駅から徒歩15分。
抜群なアクセスを誇る札幌市動物愛護管理センター「あいまる さっぽろ」は、令和5年11月にオープンした、ぬくもり溢れる木造建築の親しみやすい動物愛護管理行政施設です。
これまで別々の地区にあった本庁施設と動物収容施設を一体化させた新センターに期待される主な役割は、犬猫の譲渡推進と動物の適正飼養に関する啓発事業の強化です。様々な問題にしっかりと向き合いながら、「人と動物が幸せに暮らせるまち・さっぽろ」を目指す動物愛護管理センターの取り組みをご紹介いたします。
▲令和5年11月にオープンした同センター
▲ぬくもり溢れる木造建築の内観
札幌市動物愛護管理センターのここがポイント
471の公募から、「動物にとって幸せな施設を」、との願いを込められた「あいまる さっぽろ」は、「愛+アニマル」や「愛+まるっと」など、動物への愛情がたっぷりと込められ命名された、札幌市動物愛護管理センターの愛称。
新センターオープン以降、「適正譲渡」と「動物愛護の啓発事業」が当センターの主な事業の柱となっています。
「新センターがオープンする前も、犬猫を収容していた支所で積極的に譲渡活動を行っていましたが、市中心部からのアクセスが悪く、積雪がある冬場は思うように人が集まらず苦労しました。新施設になってからは抜群のアクセスに加え、親しみやすく明るいアットホームな施設に変わったことで、譲渡の幅がうんと広がったと思います」
そう語ってくれたのは、新センターで働く獣医師の近藤悠太さん。
新センターでは、犬15頭、成猫56頭、子猫約30頭を収容できるスペースをはじめ屋内外運動場、検疫室、トリミングルーム、処置室に加え、デジタルレントゲンも導入されています。
しかし、アクセス抜群で、設備が整った新センターは、オープン当初猫の飼育放棄相談が一気に増加するという思わぬ反響も呼びました。新センターオープンのニュースが飼育放棄の相談を増やす一因ともなったのです。
中には「自分の家より、新しくてきれいなセンターで飼われていた方が幸せそうだから」という問い合わせもあったそうです。
▲処置・検査室
▲吹き抜けの屋内運動場
多頭飼育者への対応も重なり、オープン直後は、収容頭数が犬猫合わせて100頭超えに・・・。
センター内で多くの犬猫を抱えている事例は、他の自治体でも多く見受けられますが、誤解してはならないのは、ここは行き場のない命の一時の受け皿として機能している施設であって、「犬猫の終の棲家ではない」ということ。
また、民間の保護施設とは異なり、行政施設であるセンターのすべては税金で賄われているため、獣医療、飼育にも様々な制限がある、ということ。
家庭で家族として飼われている状態とは大きく異なるのです。
最も忘れてはならないのは、犬や猫が一番必要としているのは、自分を大切にかわいがってくれる飼い主さんの愛情だということ。そのことを忘れることなく、私たちは、犬猫を家族として迎える前も、迎えた後もしっかり向き合い続けなくてはならないのです。
▲屋内運動場で遊ぶ保護犬
猫の多頭飼育崩壊問題に取り組む
センターの猫の収容数は令和6年度は380頭で、そのうちの約7割が所有者からの放棄により収容された個体です。
その背景について、近藤さんはこう話してくれました。
「過去5年間、収容された猫は飼育放棄に起因するものが多数を占めています。野外で繁殖した野良猫に起因する引き取りは本州に比べると少ないといえます。考えられる理由はいくつかありますが、ボランティアさんがTNR活動を地道に継続してくれたことに加え、何より冬の寒さも影響しているかもしれません」
本州の動物愛護センターに収容される猫の多くが野外で生まれた幼齢猫なのに対し、札幌市では多くが飼育放棄に起因する個体というのも、注目すべきポイントです。
▲猫の部屋で譲渡を待つ保護猫
▲譲渡可能な猫を見学できる「猫の遊び場」
「多頭飼育者からの引き取りについては施設の収容能力をひっ迫させる要因となっています。また、「引っ越しをすることになってペットを飼えなくなった」「亡くなった親や施設に入居することになった親が飼っていたペットを親族や知人等が継いで飼うことが困難」「離婚、失業」など・・・、飼育放棄の理由は様々あります。ペットの飼育を継続することが難しいという相談を受けた際には「飼い主側の責任」を念頭に各職員が対応にあたっています」
また、多頭飼育の問題では周辺住民とのトラブルに加え、動物自身が過酷な状況に置かれていることもあるそうです。
こういった多頭飼育の現状がわかり次第、飼い主自身が管理できる頭数まで飼育頭数を減らすよう避妊去勢手術も進めるなど、積極的に関与していく姿勢を心掛けていると言います。
「犬猫をはじめとしたペットは飼い主の所有物であり財産です。私たちから見てペットの飼育状況が良くないからと、勝手に取り上げることはできません。飼育の方法が著しく不適切である場合、例えば、“その飼い方は動物愛護管理法に定義されているネグレクトにあたり、この状況は法に違反している状態ですよ”と、きちんと説明し、まずは飼い主自身で事態を改善するよう促します。もし改善することが難しそうな場合は飼い主に所有権を手放すよう説諭することもあります。
私たちにできることは動物に関する限られた一部のことだけです。
例えば、飼育放棄の犬猫を受け入れることはできても、飼い主の社会的背景や抱えている問題に踏み込んだりすることはできません。人の側から見れば動物の問題は無数にある問題のうちの一つにしかすぎません。高齢化社会や貧困・孤立といった社会問題と動物の問題が複雑に絡み合う多くの事例では福祉関係部局との連携を強化していくことが必要かと思います。」
特に多頭飼育者への対応は、関係部署が互いの役割を勉強し、理解し、連絡を取り合って、プロセスを順送りしていかなくては、決して解決しない社会問題。
現在、近藤さんはじめ、職員さんたちは、関係部局とのスムーズな連携を模索しながら日々、多頭飼育問題と格闘を続けています。
▲譲渡を待つ保護猫
新センターの強みを生かし、こぼれた命を次に繋ぐ!
全国の自治体が殺処分ゼロを掲げるようになった昨今、新センター設立をきっかけに、以前にも増して動物たちの譲渡促進に力を注いでいます。
ポイントはやはり市民が気軽に訪問できるアクセスの良さ。そして、快適で明るい施設での動物たちとの出会いです。令和6年度からは第2、第4土曜日にも譲渡会を開催。休日を利用して来所できることも大きな魅力です。また、SNSや地元メディアを活用した広報にも力を入れることで認知度も高まりました。同時に、ボランティア団体(4団体)と連携して合同譲渡会を行うことで、多くの市民がより関心を寄せる行政施設になったのです。
その結果、令和6年度の当センターの猫の譲渡率は、107%で(昨年度の繰り越し分の数字が入っている)なんと、収容数より譲渡数が上回っているという結果に―。
普通では考えられない驚きの譲渡状況ですが、そこにはどんな工夫があるのでしょうか。
猫の部屋には譲渡対象の猫たちが、掃除の行き届いた清潔なケージに個々に入っており、それぞれのケージには、名札と共に、「甘口・中辛・辛口・激辛」と書かれたイラストのいずれかが、掲げられています。
このイラストは、「甘口は、人馴ればっちり!甘えん坊」「中辛は、やや警戒心あり」「辛口は、警戒心や威嚇あり」「激辛は、かなり威嚇あり」と個々の性格をユニークに表現したもの。
これを見れば、猫の性格が一目瞭然で、当然、「甘口猫」に希望者が殺到するかと思えば「そうでもない」と、近藤さん。
「シャーっと、威嚇する猫でも“その子のありのままでいい。そのうち慣れてくるでしょう”と言って、希望される方も多いです。
▲猫の性格を伝わりやすいようにカレーで表現
当然のことながら、譲渡の際は、面談を通じて家族構成や住宅事情などの飼養環境、先住動物の有無などを確認し、適正と判断できる方のみに譲渡を実施しています。」
▲保護猫情報に性格レベルを掲示
▲甘口猫のしまこちゃん
「動物愛護の啓発事業」と、「飼い主さがしノート」で、こぼれ落ちる命を予防する
1年間で受ける犬猫の引き取り相談は、300件ほど。
やむを得ない事情を除き、すぐに引き取りをするわけではなく、飼い主さん自身が、自分の犬猫の譲渡先を探すのが基本という姿勢を貫いています。そこで、飼い主探しのお手伝いとして案内しているのが、当センターが橋渡し役となる「飼い主さがしノート」※1です。これは市が運営している「飼っているペットを譲渡したい人と、譲り受けたい人」とをつなぐ支援システム。「飼い主自らが譲渡先を見つけることの重要性を自覚させ、ペットの無責任な飼育放棄を助長しないよう、積極的な利用を相談者には案内しています。」
また、新センターになって、達成できたことの大きな柱のひとつが「教育普及事業」です。
100名収容できるオープンスペースの多目的ホールでは、「犬猫はじめて講習会」や「犬猫適正飼養講習会」「子ども向けワークショップ」などが、年間十数回開催されるようになり、市民と動物たちをより身近に繋ぐことが実現可能となりました。
同時に、子どもたちへの啓発事業の一環として行っている保育園への出前授業では、命の大切さを継続的に子どもたちに伝えています。
さらに、テレビやマスコミなどのメディアを通じてセンターの取り組みや、動物愛護の精神を市民に幅広く伝え続けています。
▲各種啓発講習など実施する多目的ホール
札幌市動物愛護管理センターの獣医師 近藤悠太さんに聞きました!
今回インタビューを実施した職員の近藤悠太さんは愛知県出身。
関東の自治体でも公務員獣医師として動物愛護管理業務に従事していた経験をお持ちだそうですが、札幌市の強みについてこう話してくれました。
「札幌市近郊には、獣医学部のある大学が二つもあり、これらの大学と協力関係を築くとともに、地方獣医師会とも密に連携をしています。治療技術の指導を受けることで各職員が治療のスキルアップを図ることができるだけでなく、収容されている動物たちにも様々な恩恵があります。また、当センターのことを普段から応援いただいている動物愛護団体の皆さんやボランティアの皆さんと強固に連携できていることも札幌市の強みだと感じています。」
これまでの経験を十分に活かし、動物たちの幸せのために役立てていきたいと、近藤さんは笑顔で語ってくれました。
▲センター獣医師の近藤悠太さん
(取材:2025年10月)
札幌市動物愛護管理センター
あいまる さっぽろ
住所:〒060-0022 札幌市中央区北22条西15丁目3-6
電話:011-736-6134

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)
児童文学作家/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事
主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
授業の回数を300回を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。




























