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動物愛護センターに行ってきました!

VOL.17 人と動物の未来センター・アミティエ
(鳥取県動物愛護センター) 編

「犬や猫は、人間と心が通じ合う大切なパートナー」
ペットと人の「信頼関係の礎を築く」施設。



2013年9月に設立した鳥取県倉吉市に位置する「人と動物の未来センター・アミティエ」は、鳥取県および、鳥取市とコラボし、鳥取県内の保健所に収容された犬や猫たちを引き取とり、新しい飼い主さんを見つける動物保護施設です。

  • ▲服を着せてもらった、正門の猫のオブジェ

    ▲多くの方にご支援いただいて出来たドッグラン

  • ▲猫がストレスなく過ごせる工夫された屋内飼養モデルルーム

    ▲2022年4月24日に開設した子ども図書館

広さ16000㎡の広大な敷地に、330㎡の動物愛護施設と新猫舎、雨天時の犬の運動場、子ども図書館も兼ねた研修施設があり、建物のすぐそばの敷地内には、芝生を敷き詰めた大きな2つのドッグランがあり、一日に数回、保護犬たちがのびのびと遊ぶ姿が見られます。
開所以来、一日も休むことなく運営し、2023年5月までの約10年間で、譲渡した犬猫の数は、犬が236頭、猫が406頭。
この施設の特徴は、スタッフが個々の動物の状態に合わせ、獣医師が健康管理を行いながら、丁寧に観察し、馴化のためにトレーニングを行っていることです。
今回は、動物と人との信頼関係の構築に、最も力をいれているアミティエの取り組みをご紹介します。

目次

アミティエのここがポイント
動物のプロとの連携で、より良い譲渡への道しるべを拓く

アミティエのここがすごい
様々な犬たちの性格を見極め、丁寧な馴化トレーニングで譲渡の道を切り拓く

アミティエの動物たちと、「命を預かった責任」
「生き物」を世話することの思いを、主任の高木達夫さんに聞きました

フランス語で「友情」を意味する「人と動物の未来センター・アミティエ」を運営しているのは、動物医療の向上と人と動物との真の共生を目指すために設立された公益財団法人動物臨床医学研究所矢印(以下、動臨研)です。

動臨研は、獣医師らが集まって作られた財団です。
アミティエは鳥取県動物愛護センターとしての役割も果たし、鳥取県内の保健所に保護されている犬猫を受け入れています。
アミティエへの受け入れ時には、獣医師による健康診断やワクチン接種などを行い、病気や怪我が見つかれば治療を開始しています。
また、全頭不妊去勢手術を行い、マイクロチップ装着も行っています。

 

子犬子猫の飼い主捜し等応援プロジェクト ▲別棟のネコ部屋
動物たちがアミティエに来るまでと、譲渡までの流れ

※1アミティエのHP内の譲渡制度ページ

https://www.haac.or.jp/fp_system.aspx矢印
  • ドッグランで遊ぶ保護犬パタ

    ▲ドッグランで遊ぶ保護犬パタ

  • アミティエは、この動臨研が直接的な動物愛護活動を行うために設立した施設で、理事長を務める獣医師の山根義久先生が出張先の青森県で、東日本大震災(2011年)に見舞われたことが設立のひとつのきっかけでした。
    自身も被災し、甚大な被害を受けた被災犬猫の現状をその後に知った山根先生は、現地を視察。地元鳥取県に犬・猫の保護施設を建てる決意をし、一年半後に東日本大震災で被災した犬・猫10頭を受け入れることにつながりました。

    その後、アミティエでは現在に至るまで、地元、鳥取県内保健所に収容された犬・猫の保護・譲渡活動を中心にフェスタや犬のしつけ方教室、チャリティーコンサート、セミナーを開催矢印するなど、動物愛護普及啓発活動も積極的に行っています。昨今では地域でもアミティエの存在は広く認知され、開所以来、年間3000名~4000名の人々が訪れるようになりました。

保護施設「アミティエ」では、ドッグトレーナーを含む、数名のスタッフと数十名のボランティア矢印さんが犬や猫のお世話をしています。
施設内には、大小さまざまな犬舎が7部屋、犬猫舎が6部屋、猫舎が3部屋、観察室が1部屋、ふれあいなどに使う部屋が1部屋、そして別棟に猫部屋が3部屋あり、収容できる頭数は動物の大きさで異なりますが、最大で犬約40頭、猫50匹です。
今いるのは、成犬6頭と、猫が15匹ほど。保護するうえで大切なのは、マンパワーです。どんなにスペースに余裕があっても、世話が行き届かなければ、保護犬猫のQOL(生活の質)は確実に下がります。それは、絶対にあってはならないことです。

ドッグランで遊ぶ保護犬とスタッフの杉島さん

▲ドッグランで遊ぶ保護犬とスタッフの杉島さん

例えば、犬の場合、馴化トレーニングも含めると、一人のスタッフが世話できるのは数頭くらいです。当施設では、毎日数人が出勤するローテーションで、犬と猫の世話をしています。犬たちはスタッフをまるで飼い主かのように慕い、信頼しているようです。しかし保護される犬の中には、野犬の子犬がいたり、前の飼い主さんとの関係がうまくいかなかったりしたのか、人馴れできず、怯える犬、咬む犬なども少なくありません。そんな時には、「怖がる理由」「咬む理由」が何なのかを探ることから馴化トレーニングに取り組むと言います。

ミックス犬・マーブル 提供写真 : アミティエ

▲ミックス犬・マーブル 提供写真 : アミティエ

ここに保護された体重20キロのミックス犬マーブルは、極端なまでに臆病なメス犬でした。
怖がる原因を探ろうと、毎日の世話の中でマーブルを丁寧に観察した結果、マーブルは不規則な日常が苦手だということがわかったのです。いつもと違う何か特別なことがあると「怖がり」がピークに達するようです。
マーブルが「イレギュラーなことが苦手」とわかったため、マーブルのペースに合わせて、馴化トレーニングを少しずつ行いましたが、保護施設である以上、大勢の人がやって来るし、施設内がにぎやかになることもしばしば。そのたびに恐怖心が復活し、トレーニングもなかなか前に進みません。
スタッフの指示に従い、ようやく簡単な「おすわり」ができるようになったのは、トレーニング開始からなんと、半年もの月日が過ぎた頃でした。

 

そんなマーブルですが、新しい飼い主さんがマーブルの性格を理解して、家庭内で飼育してくれれば、これらの問題はすぐ解決すると思われました。「家の中にいるのは基本、家族という決まった人間だけです。飼い主さんが決まれば、毎日、同じ人間の中でマーブルは暮らすことになる。それは規則正しい日常の第一条件です。そして、その家族がマーブルのことをよくわかって規則正しい日常を送っていれば、マーブルが怖がる理由はなくなります」
何とかマーブルのことを理解してくれる飼い主さんはいないかと、譲渡希望者が来るたびに、スタッフ一同、アンテナを張っていましたが、マーブルの赤い糸はなかなか見つかりません。

 

こうしてマーブルがアミティエに来て4年もの歳月が過ぎた頃、マーブルのことを気にかけてくれる譲渡希望者さんが現れたのです。
「その方は、マーブルの性格も良く理解してくれた上で、マーブルとまず仲良くなろうと毎週、会いに来てくれたんです」結果、4年という気が遠くなるような年月を経て、マーブルは無事、新しい飼い主さんのもとへと旅立っていきました。
その後、飼い主さんは、家の中にマーブル専用のお部屋をつくり、規則正しく、マイペースに生活できる日常をマーブルに提供してくれました。マーブルは4年をかけてようやく信頼できる飼い主さんと自分の城を手に入れたのです。
現在、マーブルは、信頼できる家族と変化のない日常の中で、怯えることもなく、実に心穏やかに過ごしていると言います。

  • ▲子犬・マナ 提供写真 : アミティエ

    ▲子犬・マナ 提供写真 : アミティエ

  • ▲マナ(一番後ろ) 提供写真 : アミティエ

    ▲マナ(一番後ろ) 提供写真 : アミティエ

 

他にも馴化に時間がかかる犬は少なくありません。真っ白でくりくりした目が愛くるしいマナもその中の1頭です。
マナは野犬が生んだ子で、生後2か月でこの施設にやってきました。その美貌から飼い主希望者が殺到!しかし、マナは「かわいい」という気持ちだけでは飼えない犬でした。「この子は、極端に怖がりで、それがピークに達すると人を咬みます。ただ、犬との関係はとても良くて、兄弟犬とも他犬とも上手に遊べます」アミティエでは、保護された犬たちの長所も課題点もすべて伝え、ご納得いただいた上で、譲渡しています。その後、馴化トレーニングの成果もあり、マナの性格や問題行動を理解して受け入れてくれる家族が現れたのは、7カ月後のこと。飼い主さんは、「マナは、他犬との関係づくりが得意」というスタッフのアドバイスを受け、年齢も体格もマナに近い犬をもう一頭受け入れ、準備万端でマナを家族に迎えてくれたのです。

  • 犬舎にいる保護犬ショウタ

    ▲犬舎にいる保護犬ショウタ

  • 「この仕事はトコロテン式に、どんどん譲渡すればいい、というものではない。相手は心ある犬や猫です。いかにその子を幸せにしてくれる家庭に譲渡するか、が大切。そのため、マーブルのように譲渡にたどり着くまで、気が遠くなるような時間がかかる子もいる。それでもその子にぴったりの譲渡ができた時は、大きな達成感を感じます」
    命をいくつ救っても、その命が幸せにならなければ何の意味もありません。
    アミティエでは、どれほど時間がかかっても、最もその犬猫に適した飼い主さんのところへ譲渡できるよう毎日犬猫の様子を経過観察し、できるだけ詳細な情報を飼い主希望者さんに伝えることにしています。また犬には、家庭内でおちついた行動ができるよう「伏せ」「待て」「お座り」など基本トレーニングを行い、「怖がる」「唸る」「咬む」などの問題行動がある犬には、個々の課題にあった馴化トレーニングを行います。アミティエでは、きめ細やかなケアと様々なトレーニングを経て、年間約20頭の犬、約50匹の猫が譲渡され、新しい飼い主さんのもとで幸せに暮らしています。

アミティエ開設当時から、アミティエの仕事に関わり、犬や猫のお世話を担ってきた高木さん。
現在は75歳になる高木さんは、アミティエでの生活をこう語ります。「生き物相手ですからね、仕事に対する責任は大きいですよ。世話は大変ですが、やりがいもあるし、幸せです。特に、長い間、ここにいた子に飼い主さんが決まった時には、この仕事をやっていて本当に良かったと思う。
ここで10年間も犬や猫の世話をしているとわかるんですが、犬が人間に与える影響というのはすごく大きい。犬というとすぐに躾をしなきゃと思う人も多いですが、さあ、躾!ではなく、日常の世話をしていく中で互いの信頼関係ができると、犬は信頼している人の言うことをちゃんと聞くようになるんですよ。毎日、飼い主が愛情を持って世話をして、犬との信頼関係を構築してこそ、トレーニングが功を奏す。相手(犬)を顧みない飼い主の一方通行な飼い方の中で“躾”をしようとしても絶対にうまくいきません。まずは“信頼関係を築くことが大切だ”ということを飼い主さんたちには知ってほしいですね。」

施設主任の高木達夫さん

▲施設主任の高木達夫さん

様々なバックグラウンドを持つ保護犬と暮らすためには、犬についての知識が必要です。しかし、犬についての知識だけでは保護犬と仲良くすることはできません。
まず、人間が犬を信頼し、愛とやさしさを持って接する心が必要です。そのためには「犬への信頼」「思いやり」「犬への敬意」「犬との協調性」「活発なコミュニケーション」が大切だと高木さんは言います。
「相手(犬)を理解しようとする気持ちがあれば、犬は愛を持ってその気持ちに応えてくれます。犬の人に対する愛に嘘はないですね」
高木さんたちアミティエの目的は、すべての犬猫と人とがより良い関係を築くこと。
そのため高木さんは、犬猫の世話の合間にも勉強を欠かしません。
犬や猫の行動学に関する本や、トレーニングに関する本を取り寄せ、独学で勉強し、コミュニケーションを取るときの「声のトーン」や「行動」なども工夫して、犬や猫へ気持ちを伝える方法にも試行錯誤を重ね、学んでいます。
その成果があって、高木さんたちに世話をしてもらった犬たちの馴化はとてもスムーズ。

  • ドッグランでトレーニング中の高木さんと保護犬

    ▲ドッグランでトレーニング中の高木さんと保護犬

  • ▲高木達夫さん愛読書

    ▲高木達夫さん愛読書

譲渡希望者が見学に来ると「ここにいる犬たちは本当に幸せそう」と言いますが、「決してそんなことはない」と高木さん。
「犬はどこが自分の家なのかをちゃんとわかっている。信頼できる飼い主さんと自分の家で暮らすのが、犬にとっては一番の幸せです」
未来センターという名の通り、この施設は動物にとって「幸せな未来がある施設」であり続けなければなりません。しかしアミティエは民間が運営する施設。自治体が運営する他の動物愛護センターと違い、多くの人たちからの寄付とサポーターによる会費矢印によって、犬や猫たちの幸せな未来が約束されているのです。
自分で犬や猫を保護できなくても、犬や猫たちの未来を繋ぐ方法はいくらでもあるはず。
「できる人」が「できること」を「できる範囲で」―。
高木さんたちアミティエの願いです。

人と動物の未来センター・アミティエ
(鳥取県動物愛護センター)

住所:〒682‐0643 鳥取県倉吉市下福田706-127

電話:0858-33-5397

URL :https://www.haac.or.jp/amitie.aspx

人と動物の未来センター・アミティエ

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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Q.動物愛護センターって、どんなところ?

A.動物愛護センターは全国の各都道府県ににある行政施設で、動物に関する以下のお仕事をしています。

●動物保護や捕獲のお仕事

様々な事情で家庭で飼えなくなった犬や猫の引き取りや、迷子犬を保護して収容します。また狂犬病予防法に基づき野犬の捕獲収容などをしています。

●動物愛護のお仕事

人と動物が仲良く暮らすための情報提供やアドバイス、イベント、啓発などを行っています。
その他、引き取った犬や猫に新しい飼い主さんを探す譲渡活動を行っています。

●動物管理のお仕事

引き取った犬・猫や捕獲した野犬等の中で譲渡できない犬・猫の殺処分を行っているところもあります。

 
●動物取扱対策のお仕事

動物が適正飼養・飼育されているか(虐待などがないか、給餌は適正にされているか、飼育環境に問題はないか、など)を確認し、問題があれば指導を行います。
また動物を飼養・飼育している施設の管理状況の指導も行います。

●その他

各都道府県の動物愛護センターは災害時には動物救援本部として被災したペットの保護等、救援センターの役割も果たします。

Q.ミルクボランティアってなに?

A.生まれたばかりの赤ちゃん猫を離乳まで預かってお世話をする授乳専門のボランティアさんのことです。

生まれたばかりの赤ちゃんねこは、一日数回にわけてミルクを与えなくてはならず、知識も必要で、日中家にいることや、留守がないことなどの条件があるため、やりたいと思っても誰もができるボランティアさんではありません。

子ねこは、授乳期が終われば、次の預かりボランティアさんにバトンタッチしたり、保護された動物愛護センターに戻して、譲渡先を見つけます。
現在、全国の動物愛護センターで殺処分される猫の多くが子ねこであるため、子ねこが救われれば、殺処分数も激減することになります。

Q.地域猫活動ってなに?

A.地域猫とは、住まいの地域にいる「飼い主のいない猫」を地域で面倒をみる取り組みのことをいいます。

給餌やトイレの世話だけではなく、これ以上繁殖をしないようTNR(保護して、不妊手術をして、また元の場所に戻す)を行います。
猫の保護や手術のための動物病院までの運搬は、主に地域のボランティアさんが行います。手術をした猫はその印として耳の先をカット。(オスは右耳、メスは左耳)

手術のあとはボランティアさんが猫を病院から運搬して元いた場所に戻します。その後は、給餌やトイレの掃除などを行い、地域の猫として一代限りの命を見守る取り組みです。

Q.多頭飼育崩壊とは?

A.多頭飼育崩壊(たとうしいくほうかい)とは、ペットの動物を多数飼育した飼い主が、無秩序な飼い方で、不妊去勢をせず、異常繁殖の末、飼育不可能となる現象 。

英語ではアニマルホーディング(Animal Hoarding)といい、過剰多頭飼育者のことをアニマルホーダー(Animal Hoarder)という 。

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