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災害派遣獣医療チーム 第7回福岡VMAT(ブイマット)の活動と想い

みなさんは被災した飼い主さんと動物達をサポートするために結成された「VMAT(Veterinary Medical Assistance Team)」をご存知ですか?今回は日本初のVMAT(ブイマット)を作った船津敏弘先生に成り立ちやこれからの動物防災についてお伺いしました。

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船津敏弘先生

お話くださった先生
船津敏弘先生

獣医師であり、動物環境科学研究所所長。
福岡県獣医師会としてVMAT(ブイマット)を発足。

VMAT(ブイマット)とは

VMAT(災害派遣獣医療チーム)とは?

福岡VMAT(ブイマット)による災害動物救護体制

獣医師、動物看護士、動物トレーナー、トリマーなど1チーム4~5名で構成。大規模災害や多くの傷病動物が発生した事故などの現場で急性期(概ね48時間以内)に活動できる機動性を持ち、専門的な訓練を受けた獣医療チームのこと。

被災動物の健康管理や人間と動物の関係をスムーズにする活動をします。

※行政の指示に従って活動しています。

  • 被災地に取り残されたペットの保護

    1.被災地に取り残されたペットの保護。

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  • 動物病院への搬送をサポート

    2.負傷したペットたちの応急処置をおこない、動物病院への搬送をサポートします。

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  • ペット達のスムーズな避難をサポート

    3.動物に関するNPOや各ボランティア団体の連携をはかり、ペット達のスムーズな避難をサポートします。

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  • 様々な問題に対処します

    4.避難所などにペット相談コーナーを設け、様々な問題に対処します。

VMAT(ブイマット)を始めたきっかけ

VMAT(ブイマット)設立のきっかけ

「もっと早く助けなければ」
東日本大震災で保護活動を経験したことが始まりでした。

2011年の東日本大震災発生の4ヵ月後、船津先生は原発から20㎞圏内に取り残された動物の救援プロジェクトに参加し、犬猫の捜索に協力する活動をおこないました。

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その時にいくつもの白骨化した動物の遺体を発見。
「被災した犬猫達は、元は家族として人に飼われていた子が多かったんです。なので、発災直後は人が恋しくて自分から寄ってくる子や、車に飛び込んでくる子もいました。ボランティアさんがごはんを与えられる地域の子はまだ大丈夫でしたが、そうでない地域では飢えて亡くなることに…。」と現地で知り合ったボランティアさんから聞き、救援活動の時間的遅れを痛感。
誰が何をすればよいかを落とし込めていない現状のまま再び災害が起きたら、救助体制を整える時間がかかり、また間に合わない恐れがあります。

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  • 「本当はどう動けばよかったのか。今後に備えて、今、何をするべきか。」
    平常時から救援体制を準備しておく必要性があると考え、救援プロジェクトを終えて帰宅して早々に、災害時に動物を助けるチームについて調べました。
    すると、米国に獣医師がチームを組んで被災地でボランティアをおこなう『VMAT(ブイマット)』があることがわかりました。

    「福岡県にも作ろう!」と、すぐに福岡県獣医師会に提案し、2013年6月に日本で最初の『福岡VMAT(ブイマット)』を設立。現在は獣医師40名、動物看護師31名が所属し、熊本地震を始め、九州を中心に活動を続けています。

熊本地震の体験を通して

熊本地震・活動レポート

船津先生

船津先生

大変な状況だからこそ、飼い主さんと犬猫達を助ける
専門チームが必要だと実感しました。

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    ▲益城町の公共施設のテラスに繋がれた犬

  • 2016年4月の熊本地震は震度7の地震が14日と16日の2度起こり、小さな地震も頻発。「3度目の震度7があるのでは…」という緊張感を多くの被災者が持ち、高齢者の被災者が多かったことも特長です。

    発災直後、福岡VMAT(ブイマット)では熊本県獣医師会と連絡が途絶えたため待機状態でしたが、2度目の本震で出動を決意。まずは調査隊が現状を調べに行くことになりました。

現場で体感した被災直後のサポートの難しさ。

小型犬が多かったこともあり、同行避難は比較的スムーズでしたが避難所での同居避難には課題が残りました。
発災直後は、地震のショックから被災者の緊張とストレスは限界に近い状態で、放心状態の人もいて正常な判断が難しい状況でした。犬猫も怖がって静かに過ごす傾向にあり、飼い主さんが不安から動物を自分から離さなかったこともあって避難所を巡回しても見つけづらかったそうです。
そんな時、船津先生は避難所の外にケージと布団があることに気付きました。「周囲への配慮から飼い主さんが外を選ばれたそうです。まだ雨や雪が冷たい時期だったので中に誘いたかったのですが、避難所の中は混雑していて動物が苦手な人もいます。被災によるストレスも大きい状況を考えると誘えませんでした。3日後に帰宅できたと聞いた時はホッとしました。」

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    ▲避難所の外にあったケージと毛布。車中泊を続ける被災者も多かった。

  • 犬猫の診察を発災直後の緊張状態の中でおこなうことも簡単ではありませんでした。
    「ある避難所ではご夫婦が柴犬を挟んで座っておられました。犬の健康状態を診察したくて声をかけたのですが、最後まで2人の間から出すことはありませんでした。離れるのが不安だったのだと思います。しばらくして再度お会いした時は普通に診察させてくださったので、当時はそれだけストレスが大きかったのだと思います。」
    地震のショックの大きさには計り知れないものがありました。

飼い主さんの声を聞き、安心を増やす大切な役割。

状況が落ち着いてきた4月23日に福岡VMAT(ブイマット)を正式に派遣されました。フードやシーツを届け、ペットの健康相談所を開設。人間の救急チームのような華々しい活躍を想像していましたが、実際は飼い主さんの暮らしのサポートが活動の中心となりました。
自身の被災体験を話す飼い主さんが多かったことが船津先生には印象的でした。
「被災地の外から来た人には怖かった思いを話しやすく、聞いてもらえると安心できるようでした。」と船津先生。
また、災害という異常時でも、いつも通り美味しそうにごはんを食べたり気持ち良さそうに眠る動物達の姿は疲弊した被災者の安らぎになり、大きな支えとなりました。

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  • 支援者さんやボランティアさんの多大な協力もあり、人と動物が一緒に入れるテント村や動物の一時預かり所も作られました。

    被災生活が長引くと罹災証明書のために役所へ行ったり、後片付けのために家へ戻るなど、とても忙しくなります。その時に犬猫を一緒に連れて行くのは大変で、動きがとりにくくなってしまうからです。

もちろん医療面でのサポートも重要です。犬猫が吐いたり震えていても病気ではない場合がありますが、『この子は大丈夫』と言って飼い主さんを安心させてあげられるのは獣医師や動物看護師だけ。

「実際に活動してみてわかったことは、人の対策だけでも混乱している状況なので動物を優先して考えられる人がいないということでした。もちろん被災直後は人の救護が第一ですが、動物を優先して考えられる専門のスタッフがやはり必要だと思います。ただ、被災した獣医師やボランティアさんが自分たちの暮らしの復興をしながら、被災者を助けることも想像以上に大変。県外の人のサポートが大きな助けになりますし、VMAT(ブイマット)のような存在が役立つと考えています。

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    ▲ボランティアによりペット同居可能施設が作られました。

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    ▲九州災害時動物救護センターに保護された猫

犬猫達を助けることは飼い主さんを助けること。

福岡VMAT(ブイマット)では年2回開催されるVMAT認定講習会や原子力防災訓練、福岡県総合防災訓練などに参加して日々研鑽しています。また、全国各地のVMAT(ブイマット)も設立され始めています。土地勘のない人では道に迷ったり、地元の人の言葉がわからない場合もあるため、現地にVMAT(ブイマット)があればとても動きやすくなります。

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    ▲年2回開催されるVMAT認定講習会や原子力防災訓練、福岡県総合防災訓練などに参加して日々研鑽しています。

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    ▲被災動物は九州災害時動物救済センターにて一時収容されました。現在過ごす犬猫達も帰宅の目途がついています。

すぐに家へ戻れない被災動物は九州災害時動物救援センターにて一時収容されました。
熊本地震だけではなく、2018年の九州北部豪雨で保護された犬なども収容。飼い主さんが引き取れなくなってしまった場合は、譲渡先を探すこともありました。現在過ごす犬猫達も帰宅の目途がついています。

「飼い主さん自身が生き抜くために最低限の備えは必要ですが、福岡VMAT(ブイマット)も研鑽を積んで前進していきます。」と船津先生。
現在は人と動物が家族のように一体化しています。そのような現状の中、今後の防災を考えると、VMAT(ブイマット)だけではなくボランティアさんや飼い主さんが互いに助け合える環境作りが大切になり、行政の協力も必要になります。「自分が助かる最低限の準備をしながらも、ひとりひとりが防災と復興の重要なキーパーソンだということをみなさんに知っていただきたい。」と力強く話してくださいました。

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