
【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.17

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ジョンくん
(ラブラドル・レトリーバー)
15歳(男の子)
施設への訪問、10年―。 一生涯セラピー犬として、
多くの子どもに勇気と感動を与え続けた犬、ジョン。
その最期の時まで、セラピー犬らしく過ごさせてあげたい。
セラピー活動の最高のパートナーだった、
飼い主さんの願いと思いとは―?
セラピー犬・ジョンとの出会い
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動物愛護推進員として、ボランティア活動を続けてきた、茨城県水戸市在住の飯塚みどりさん(70)のもとに、盲導犬協会のPR犬・ジョン(ラブラドル・レトリーバー)がやってきたのは、今から11年ほど前。ジョンが4歳になった時のことでした。
ジョンは盲導犬になるための訓練をすべて受けていて、その素質が十分にある優秀な犬でしたが、雷などの大きな音だけが苦手。そのため、盲導犬にはならず、盲導犬の啓発活動を担うPR犬やセラピー犬として活動していたのです。
その頃、みどりさん自身も盲導犬協会のボランティア活動をしていたため、自宅近くの「こども病院」で年二回ほど行われる盲導犬協会のセラピー活動「Animal Assisted Therapy」に一緒に参加していました。
入院している子どもたちの多くは、学校にも行けず、友達にも会えず、辛い治療に耐ええる日々・・・。 -
▲こども病院を訪れた飯塚さんとジョンくん(2016年)
ところが、セラピー犬が病院のプレイルームにやってくると、そこはまるで別世界のように笑い声が響き渡り、セラピー犬とのふれあいで、子どもたちは一瞬で笑顔に変わっていくのです。その姿を見たみどりさんは、犬には人間には決して与えることができない特別な癒しの力があるのだと実感したと言います。
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みどりさんと同じことを思ったのでしょうか?
その様子をずっと見ていた当時の病院の院長が、「もっと、セラピー犬が頻繁に来てくれるといいのに」と、独り言のようにつぶやきました。でも、他県にいる盲導犬協会の犬がセラピー活動のために遠路、水戸市までたびたび訪れることは簡単ではありません。すると院長が「飯塚さんがセラピー犬と暮せば、ご近所だから、もっと来てもらえるのになあ」と、みどりさんに冗談交じりで言いました。
その言葉にみどりさんは一念発起!
盲導犬協会との幾度にも重なる交渉の末、PR犬だったジョンをセラピー犬として自宅で預かることに成功したのです。 -

みどりさんの自宅から病院までは車で30分。
その後、ジョンはみどりさんと共に、子ども病院に週に一度のペースで訪れ、数えきれないほど多くの子どもたちを笑顔にしてきました。
「ジョンは、子どもが好きなだけではなく、子どもたちに思いやりを持って行動できる犬。子どもたちがジョンに会って癒されるように、子どもたちを笑顔にすることで、ジョン自身も自分の使命感を感じ、大きな遣り甲斐を感じているのだと思います」
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ジョンが来ると、子どもたちは病院のプレイルームに集い、30キロほどあるジョンの大きな体を枕にして寝転がったり、抱きついたり、撫でたりしながらふれあいを楽しみます。苦しい治療に耐えて歩くのもやっと、という子もいますが、ジョンを見ると、たちまち笑顔へと変身し、元気になっていくのです。
ジョンはまるで、魔法の薬を持っているかのよう―。
子どもだけではなく保護者の人達も、看護師さんも、お医者さんもジョンとのふれあいを楽しみに待っていました。 -

しかし、セラピー活動を続けていくうちに、犬のジョンは猛スピードで年をとっていきます。
病院を訪れるには、定期的な健康診断に加え、訪問前には必ずシャンプーをして、出かけなければならないため、週一回の訪問はジョンにとっての負担も小さくはありません。
そのため、ジョンはシニアと言われる7歳で「こども病院」でのボランティアから卒業することとなりました。
ジョンがみどりさんと「こども病院」を訪れたのは2015年から2018年までの三年間で計118回。病気と闘う多くの子どもたちとの出会いがありました。
セラピー犬としての使命が、シニア犬・ジョンを元気で長生きに―
ジョンが引退してからも、「こども病院」で出会った子どもからの年賀状や、知り合ったお母さんとの交流は続きます。それほど、ジョンが子どもたちに与えた勇気や力は偉大なものでした。
そのことをジョン自身も感じているのでしょうか?
天職を失ったジョンは、疎外感を感じているのか、急に元気がなくなったようにも見えました。
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その様子を心配したみどりさんは、ジョンの元気を保つ上で、セラピー活動は欠かせないと考え、ジョンに負担のかからないセラピー活動の再開を決意。同居犬のレオ(キャバリア)と共に、月に一度、重い知的障害や肢体不自由がある重症心身障がい者施設「あけぼの学園」でのセラピー活動を開始したのです。
子ども病院の月4回の訪問と比べ、月一回の訪問は、ジョンにそれほど負担になりません。また、「こども病院」では、子どもたちがジョンに抱きついたり、体をクッションに寝転んだりすることがあったため、シニア犬には負担が大きいですが、障がい者施設では、対象者はほとんどが車いすに乗っているため、ふれあいも頭を少し撫でる程度に収まり、体力的な負担もありません。 -
▲水戸市動物愛護センターにて(2024年)
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さらに助っ人として、同行してくれるレオが、対象者の膝の上で、存分なふれあいを担ってくれるため、対象者もふれあいが物足りないということもありません。
みどりさんは、こういったところまで配慮し、対象者とジョン、双方が楽しい時間を過ごせるよう、常に考えてセラピー活動を行ってきたのです。
「ジョンは人が大好きで、人とコミュニケーションをとることで元気になります。心地よい疲れもあって、夜はぐっすりと寝てくれるので、できる限り連れて行きたいと思っています」
そんな中、前向きなみどりさんにも、ジョンのセラピー活動を断念するか否かの瀬戸際がやってきます。 -
▲レオくん 水戸市動物愛護センターにて(2024年)
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ジョンは14歳を過ぎた頃から後ろ足の筋力が急速に衰え、秋からは前脚も弱って立てなくなってしまったのです。その頃から排泄もオムツを使用するように・・・。
施設訪問前に排泄を済ませておくことは、セラピー犬の基本です。
以前は、トイレット・トレーニングの「ワン・ツー」の合図で、排泄を完璧に済ませていたジョンですが、シニアとなった今では当然、それもできません。
衛生上の問題もあるため「訪問を断念せざるをえない」と考えていたみどりさんでしたが「あけぼの学園」のスタッフさんは、ジョンの訪問を継続してほしいと懇願しました。
「ジョンの粗相くらい施設側は気にしないので、とにかくジョンに来て欲しいといってくださいました。ジョンのことを、スタッフのみなさんは本当に大切に思ってくれています」 -
▲カートで訪問先に訪れたジョンくん
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15歳を過ぎた今では、自分の顔を上げるのもやっとという状態のジョン。
筋力が落ち、30キロあった体重は18キロにまで減り、軽い認知症も患っているため夜鳴きも始まりました。それでも、ジョンはカートに乗ってみどりさんと月に一度、「あけぼの学園」に出かけていきます。
ジョンは、もう動くこともできませんが、人のいる場所がとても好きなのです。しっかりと目を開き、頭を起こして、できるだけコミュニケーションを取ろうと必死です。どんなに高齢になっても、ジョンはセラピー犬の使命を全うしたいと考えているようです。 -

「施設から帰る時 “ジョン、また来るからね!” とは、もう言えません。この年齢で、この状態ですからいつ何があってもおかしくない。そして、今日も元気で過ごしてくれたことに感謝の日々です。だから “あけぼの学園” に行く時も、その日の体調次第で、“今日もジョンは一緒に行けそうです”と、当日にスマートフォンからラインでお伝えするようにしています。それがまた、みなさんにとってのサプライズになるんでしょうか・・・。行くたびにみんなすごく喜んでくれて心からジョンの訪問を待ち望んでくれています。
15歳のジョンが元気で訪問することは、もう当たり前のことではなくなっているんですね。だからこそ、施設のみんなもジョンがまた訪問した時には、大感激!命の輝きや、尊さというものを、改めてジョンから教えてもらいました」
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ジョンは、今、訪問先でもカートの中で寝たままです。
ところが、カートに乗ったジョンは、車いすの乗った対象者さんとほぼ同じ高さになるので、対象者さんは手を伸ばせばすぐジョンの体に届き、以前より身近に撫でることができるのです。
四肢が不自由で、ジョンの顔を覗き込むことしかできない人もいますが、撫でようと一所懸命コミュニケーションを図ろうとするジョンと対象者さん双方の姿を見ていると、みどりさんは、ただ感動で胸がいっぱいになります。
ジョンが、ここまで元気に頑張ることができたのは、みどりさんの願いと、みんなを笑顔にしたいという「セラピー犬」の自負がジョンの心の中にあったからかもしれません。 -
▲あけぼの学園にて
セラピー活動だけでは終わらない「ジョン効果」
現在ではほぼ寝た切りのジョンですが、床ずれ等は一切ないと飼い主のみどりさん。
食事の時は、ハーネスを利用して体を起こした姿勢で食事をさせ、同じ姿勢にならないよう体位を変えることにも余念がありません。
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歩けなくても朝は必ずカートに乗せて、近所を30分以上散歩します。
痩せたとはいえ、大型犬のジョンを抱っこしてカートに乗せるのは、至難の業ですが、みどりさんはそれを怠ったことは一度もありません。
「歩けないのにカートに乗せてまでどうして散歩をするの」と、道行く人から声をかけられることも少なくありませんが、犬にとって散歩はSNSのようなもの。外の匂いや風で運ばれてくる他犬の嗅ぎながら、様々な情報を仕入れるための大切な日課なのです。 -
▲カートに乗ってお散歩中のジョンくんたち
また、朝日を存分に浴びることはセロトニンの分泌を促すために役立ち、精神安定にもつながるため、カート散歩はシニア犬にとってとても意味のあることだということを忘れてはなりません。
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夜も、みどりさんの寝床はジョンの隣。
「夜、夜鳴きが始まると、背中をトントンしてあげながら、添い寝をするんです。そうすると落ち着くのか静かになる。でも、寝た頃を見計らって離れるとまたすぐ鳴きだす。赤ちゃんと一緒です(笑)」
夜鳴きでみどりさんが寝不足になることもしばしば。
それでも、セラピー犬のパートナーとして10年以上、一緒に過ごしたジョンとの残された時間はみどりさんにとって、かけがえのない大切なものです。 -
▲ジョンくんを介護する飯塚さん
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「先日、SNSを通じて、9年前に “こども病院” でジョンに会ったという方からメッセージを受け取ったんです。それからお会いする機会があって、その時に9年前に撮影した娘さんとジョンの写真をプレゼントしていただきました。9年経っても、ずっとジョンのことを覚えていてくださって、ジョンとのふれあいが、忘れられなかったようです。ジョンのセラピー活動が、どれほど子どもたちに笑顔と勇気をあたえてくれたのか、感無量です」
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▲こども病院で出会い9年ぶりに再会を果たした元患者さん
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それだけではありません。「こども病院」で、ジョンと出会った当時小学校4年生児童だった女の子は、その後、大学生となり、自宅から600キロも離れた水戸市までジョンに会うためにやって来たこともあったのです。
どの子も願いはただひとつ―。
自分にたくさんの力と勇気をくれたジョンと、みどりさんに「ありがとう」-。
その一言を言うために、やってきたのでした。 -
▲ジョンくんに会うために遠くから訪れた大学生
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ジョンが、天国に行く日もそう遠くはないかもしれません。
それでも、ジョンがたくさんの子どもたちに残した勇気と笑顔は、彼らの心の中に永遠に刻み込まれ、決して忘れることのない宝物となって、生き続けていくはずです。(取材:2026年4月)
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▲ジョンくんと飯塚さんと同居犬たち

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)
児童文学作家/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事
主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
授業の回数を300回を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。






