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シニア犬・シニア猫と暮らす

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.5

  • トラちゃん(三毛猫)
  • vol05

    トラちゃん(三毛猫)

    1997年生まれ(女の子) 享年20歳7ヶ月

    143頭の猫を保護し、多くの命を看取ったからこそ、
    命の最期をこう思う―。一番いいのは、
    高齢を迎え、枯れるようにそっと、天国に旅立つこと。
    それは、飼い主にとっても、猫にとっても最高のお別れ。

  • 現在、13匹の保護猫と暮らす長谷川深雪さん(70)。
    深雪さんは、飼い主のいない猫を保護し、新しい飼い主を探す活動を20年以上続けています。

    深雪さんが飼い主のいない猫を保護し、新しい飼い主さんを探すボランティアを始めたのは、20歳半まで生きたシニア猫、トラちゃんとの出会いがきっかけでした。

    「トラは、姉妹のプクと一緒にスーパーの白いごみ袋に入れられ、草むらに捨てられていました。鳴き声がしなければ気づかれることなく死んでいたでしょう」

    二匹とも目も開いていない生まれたばかりの子ねこでした。
    深雪さんは二匹をミルクから懸命に育て、その甲斐あって二匹は元気になり、深雪さんの家族となりました。

    「それから、外で猫の鳴き声がするたび、トラやプクのことを思い出して、見過ごすことができなくなった・・・。だからと言ってすべてをうちで飼うわけにはいきません。そこで、保護した猫の新しい飼い主さんを探すボランティアを始めました」

  • 長谷川 深雪さん

    ▲長谷川 深雪さん

深雪さんが保護した143頭のうち、自分の家族にすると決めたのは、トラちゃん、姉妹のプクちゃん、その後、保護したノンちゃんとかんぺい君の4匹のみ。

「自分の猫と保護猫を自分の中できちんと線引きするのは、私自身が独り暮らしで、保護活動を始めた時はすでに57歳。猫の寿命が20年と考えると、安易に家族として迎えることなどできない。
でも、保護して新たな飼い主を探すということであれば、自分の年齢を気にする必要なく、多くの命を救えると考えたからです。人馴れできず、飼い主さん探しが困難で長い間うちにいる子もいますが、数年たってやっと馴れてくる子もいますからね。あきらめず、がんばります」

  • 深雪さんが今まで保護し新しい飼い主さんのもとへ送り出したのは124匹。飼い主さんを見つける前に、病気で亡くなった子も少なくありません。

    「保護活動を始めたとき、トラはのんきな性格で新しい猫がきても我関せずでした。保護猫たちがちょっかい出そうが、甘えてこようが、怒ったり嫌がったりもしませんでした。それが大きな救いとなり、多くの命を救うことができたんです。
    今思えば、どんな気持ちで次々やってきては、出ていく猫たちを見ていたんでしょうね・・・」

    多くの命を迎えるだけではなく、トラちゃんは保護猫や家族の命の旅立ちも見送りました。
    深雪さんの家族となった姉妹のプクちゃん、のんちゃんも腎不全で15歳で天国へ。
    かんぺいちゃんはFIP(猫伝染性腹膜炎)に罹患し、5歳という若さで逝ってしまいました。

  • プクちゃん(左)とトラちゃん(右)

    ▲プクちゃん(左)とトラちゃん(右)

「15年という年齢は飼い主としても見送るのにある程度、納得できる年齢かなとも思います。
それと違ってFIPで5歳という早すぎる若さで亡くなっていったかんぺいの時は、本当に辛かった・・・。
最期がとても苦しんでいていて、安楽死も考えました。早く苦しみから解放してあげたい・・・そんな思いで見送ったんです」

3匹が旅立ち、残ったのは、最初から一緒にいるトラちゃんひとり―。
その後も、トラちゃんは大きな病気もせず、持って生まれた性格のまま、のんびりマイペースに保護猫たちを受け入れては見送り、時に看取り、深雪さんとの日常を送っていました。

  • 気が付けば20年-。
    トラちゃんの20歳のお誕生日を迎えた時の心情を深雪さんはこう語っています。

    「うれしいの一言だった。スーパーの袋に入れて捨てられていたトラとプクを見つけたとき、トラはすでに低体温で死んでいると思ったほど弱り切っていた。それが20歳!
    ほかの子たちの分まで長生きしてほしい。トラには“ありがとう”の感謝の気持ちしかない」

  • ▲トラちゃん(上)とプクちゃん(下)

    ▲トラちゃん(上)とプクちゃん(下)

  • ペットが老いるのは一見さみしいように周りは思いますが、飼い主にとっては、老犬・老猫の長寿を祝うのは、ある意味、飼い主として大きな誇りを感じるもの。

    20歳を迎え、よろけたり、足元がふらついたりするトラちゃんでしたが、次々とやってくる保護猫たちに甘えられたり、追いかけられたりしながらも、相変わらずのんびりやさん。
    老猫なりに上手に保護猫たちと同居してくれたのです。

    「保護猫たちから解放され、大好きなソファーの背もたれの上で気持ちよさそうに寝ている姿に一番癒される」と深雪さん。
    20歳のお誕生日を境に、トラちゃんとの愛おしい日々をこれからも過ごしたいと切に願ったのでした。

  • ▲プクちゃん(奥左)、トラちゃん(奥右)、のんちゃん(中央)

    ▲プクちゃん(奥左)、トラちゃん(奥右)、のんちゃん(中央)

そんなトラちゃんに、変化が見られたのはトラちゃんが20歳を過ぎた夏のこと。
よくくしゃみをするようになったトラちゃんを注意深く観察していると、呼吸が少し荒くなっていることに気づきました。

すると、今度はシンクの中でおしっこ。ぴちゃぴちゃと水もよく飲みます。
ずいぶん前から慢性腎不全を患っていたこともあり、心配した深雪さんが病院でレントゲン検査をすると、胸水がたまり心臓が肥大。心筋症と肺水腫になっていることがわかりました。

  • 呼吸が苦しそうなので、深雪さんは酸素ハウス(部屋の空気から高濃度の酸素を作りだす酸素濃縮器と酸素を溜めるケージを組み合わせ、そこにペットを入れることで酸素吸入を助けるもの)をレンタル。
    これで呼吸が楽になるだろうと早速、トラちゃんをハウスの中に入れたものの、トラちゃんは狭いアクリル板のハウスに閉じ込められるのが嫌なのか、「ここから出して!」と言わんばかりに「ギャーギャー」鳴き続けました。

    トラちゃんが少しでも楽になればと借りた酸素ハウスですが、これでは、かえってトラちゃんに大きなストレスを与えてしまいます。心臓が弱っているため、興奮させるのはよくないと考えた深雪さんは、トラちゃんをハウスから出し、大好きなソファに上に寝かせました。

    今まで気ままに好き勝手家の中を自由に歩き回り、大きな病気もしたことがなかったトラちゃんには、狭い酸素ハウスは、苦痛以外の何物でもなかったのです。

  • パソコンで飼育データを管理(上)、酸素ハウス(下)

    ▲パソコンで飼育データを管理(上)、酸素ハウス(下)

しかし、呼吸はやはり苦しそう・・・。
考えた末、深雪さんは、酸素ハウスに送る酸素の管をそのままトラちゃんの口元に持っていき、酸素を送ることに。しかし、それも頑固に拒否。

犬や猫には「これがあれば、体が楽になる」ということを伝えることができません。
やむを得ず深雪さんは、酸素を断念して、投薬だけで様子を見ることにしました。

苦しくて眠れないのか、深雪さんの耳にはトラちゃんの荒い息遣いだけが聞こえてきます。どうか、早く薬が効いてくれますように―。
深雪さんはただ祈るしかありませんでした。

  • 丁寧な経過観察と薬が功を奏し、10日ほどで、トラちゃんの呼吸は次第に穏やかになり、食欲も出てきました。その後、一進一退と容体が入れ替わるたびに深雪さんは病院で検査を受け治療について獣医さんとよく相談し、薬を処方してもらいました。

    その甲斐あって体重が増え、呼吸も心拍数も正常に戻り回復へと向かっていったのです。

    「ほっとしました。これでしばらく様子を見ていれば大丈夫・・・」
    トラちゃんの体調はすこぶる良く、20歳を超えたとは思えないほど元気いっぱい。
    体重も減っていないし、呼吸、心拍数も問題はありません。

    「この調子なら次のお正月も一緒に迎えられる・・・そう信じて疑いませんでした。それくらい元気だったんです」
    しかし、20歳という年齢は静かに、確実にお別れへと時計の針を進めていきました。

  • のんちゃん(奥)とトラちゃん(手前)

    ▲のんちゃん(奥)とトラちゃん(手前)

  • 夏が過ぎ、晩秋が訪れたころ、トラちゃんの容体は悪化。水も飲めなくなりその数日後、深雪さんの腕の中で、まるでお花が枯れていくかのように静かに息を引き取りました。

    「何日も水が飲めなかったのに亡くなって30分が過ぎても、一滴、また一滴とおしっこがポタポタと落ちてきたんです。本当に死んでしまったの?そう思うと、また一滴・・・。
    そのおしっこまでが愛おしかった・・・でも、40分後にはそのおしっこも途絶えてしまって、とたんに私の涙が止まらなくなりました・・・」

  • トラちゃん(上)

    ▲トラちゃん(上)

深雪さんが大切な自分の家族と決めた4匹のうちの最後の家族、トラちゃん。
トラちゃんが大好きだったソファ。洗面ボール。食器棚。家の中のどこを見回してもトラちゃんとの思い出がぎっしりつまっています。

トラちゃんのアルバムには歴代の保護猫と一緒に寝ている写真ばかり。どの子が来ても意地悪することなく、どの保護猫からも好かれていました。

「子猫の時から甘えん坊で抱っこも好きで、私が忙しくしていると“抱っこ”ってよじ登ってくる子だったんです。でも、次々と保護猫がやってきて、忙しくて、我慢ばっかりだったね・・・」

  • 100匹以上の猫を自分のテリトリーに受け入れながら、家族として、深雪さんの側に寄り添い、20年以上の歳月を深雪さんとともに過ごしたトラちゃん。

    「お別れはとても悲しいけれど、ゆっくり年をとって、老いて、枯れるようにそっと静かに最期を迎えることが一番いいと思う。トラは幸せな最期だった」
    深雪さんはそんなことをポツンと言い、最後にこう続けました。
    「私も高齢なので、自分の家族として猫を迎えることはありません。あとは、今いる13匹の保護猫たちの行先が見つかるまで、自分にできることをただやるだけです」

    深雪さんの家には、家族だった猫たちのお骨がキャビネットの中にきれいに収まっていました。
    今頃トラちゃんは、先に逝った姉妹のプクちゃん、かんぺいちゃん、のんちゃんと天国で元気に走りまわっていることでしょう。

    (取材:2022年7月)

  • 猫ちゃん達の遺骨

    ▲猫ちゃん達の遺骨

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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