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シニア犬・シニア猫と暮らす
  • 人生100年時代と言われる今、人と同じように、ペットの犬や猫の寿命も伸びてきました。
    2020年の犬全体の平均寿命は14.48歳。猫全体の平均寿命は15.45歳と、年々伸び続けています。
    (一社)ペットフード協会2020年全国犬猫飼育実態調査結果より

    その理由のひとつが飼育環境の変化と言えるでしょう。
    ペットは家族の一員。犬は、飼い主と寝食を共にするパートナーとして、猫も完全室内飼育が徹底され、住環境が格段によくなりました。
    食事の質や医療技術が上がったことも大きな原因です。
    (公財)日本動物愛護協会(※1)が毎年行っている「長寿表彰」では、25歳の犬(2015年度表彰)と27歳の猫(2019年度表彰)というご長寿さんもいたほど。
    とりわけ、猫に関しては、二十歳(はたち)越えも、最近では珍しくなくなってきました。

    【参考サイト】
    ※1⇒(公財)日本動物愛護協会

  • 「ずっと、ずっと一緒にいたい」
    大好きな愛犬・愛猫と一緒に健やかで長く暮らすことは、すべての飼い主さんの切なる願い。
    しかし、ペットの寿命が延びると同時に、年老いたペットの介護など、新たな課題も浮かび上がってきました。

    ゆりかごから天国に送るその日まで、ペットは永遠に子どものままです。
    十数年間―、長ければ20年間、そのすべての世話を飼い主さんが担わなくてはなりません。
    老いを迎えた愛犬・愛猫と暮らす中、「年老いた我が子が、どうしたら心穏やかに過ごせるのか」、飼い主さんは、毎日のように考えるでしょう。
    日常に様々な工夫を凝らし、少しでも我が子が快適に過ごせるよう、試行錯誤も続くでしょう。
    そして、いよいよ最期の時を迎える時、「これでよかったのか…」と何度も思い悩むことでしょう。

どんな決断が正しいのか―?
それはいかなる時でも、我が子のことを大切に思い、一所懸命お世話をしている「飼い主さんの決断」なのです。
その決断を、愛犬・愛猫は、迷いなく受け入れてくれるはず。

このコラムは、これまで多くの幸せをくれた老犬・老猫と過ごす、もしくは過ごしてきた、飼い主さんの暮らしを取り上げたコラムです。

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.1

  • モモちゃん(ゴールデンレトリーバー)
  • vol01

    モモちゃん(ゴールデンレトリーバー)

    16歳(女の子)2006年1月18日生まれ

    モモちゃんがいたから、引っ越し先の知らない街で、
    多くの友人ができた―。
    モモちゃんがつないでくれた、多くの絆。

  • 「引っ越し先の、全く知らない街で、不安だらけだった日を、モモが一瞬にして光に変えてくれた」

     そう語ってくれたのは、ゴールデン・レトリーバー、モモちゃんの飼い主、石垣昇子さん(68歳)。
    桃の季節に生後二ヵ月で石垣家の家族になったことから、モモちゃんと命名されました。

  • 生後2か月頃のモモちゃん

    ▲生後2か月頃のモモちゃん

三人の子どもたちが独り立ちしたのをきっかけに、ご主人の重男さん(72歳)とモモちゃんを連れて現在住む一戸建てに引っ越してきたのは16年ほど前。
まだ生後半年だったモモちゃんのために、広い土地を購入し、十分運動できる広い庭を作り、掃き出し窓には大きなウッドデッキを設置。新居にも様々な工夫を凝らしました。
「先代の犬、ロッキーが同じゴールデン・レトリーバー。男の子で、とにかく力が強くて、運動量も必要な子でした。その経験から、モモがたくさん遊んでストレスを十分発散できるよう広い庭を準備したんです」

ところがモモちゃんは先代のロッキー君とはまるで違い、おっとりとした性格の女の子。お散歩でリードを引っ張ることもまるでなく、お庭でものんびりお昼寝を楽しむなど、まったく手のかからない子だったと言います。
「犬友達と一緒にお散歩で歩けば、いつも他の犬の一番後をトコトコと歩くタイプ。ところが帰る時には、早く家に帰りたくて、いきなり先頭に立ってさっさと家に帰ろうとする。外より家の中が、いいみたいです」
モモちゃんは昇子さんべったりで家の中で過ごすのが大好きだったと言います。

そんなモモちゃんですが、おトイレは外派。お庭でも用を足さないため、排泄も兼ねて、一日4、5回昇子さんと一緒に近所を歩き回ります。
一見、大変かと思いきや、外に出る回数が多いと、ご近所とのコミュニケーションも増え、癒し系のモモちゃんは、たちまち人気者となり、犬友達だけではなく子どもたちや、ご近所の人にとても可愛がられる存在に。

癒し系のモモちゃん
  • 「わたしはずっと専業主婦でくらしてきたので、近所付き合いが主な社会となります。この町に来た時は、友達ができるかと、最初はかなり不安で仕方がなかったけど、モモとの散歩で、みるみるうちに友達が増えていきました。モモは、人も犬も大好き!どんな人でも犬とでも上手に挨拶ができるので、散歩で犬友達と会うたびに私は安心して井戸端会議楽しむことができました(笑)そんな時でも、モモはじっと隣でおとなしく待っていてくれました。朝の散歩の時は、登校中の小学生と挨拶したり、話をするのも楽しかった。子どもたちも、みんなが “ももちゃん!” と声をかけてくれました」
    気が付けば「モモちゃんマジック」で、昇子さん自身もご近所から慕われる存在になっていました。
    家にいる時も、散歩に行くときも、車で出かける時も、ほとんどの時間を昇子さんと過ごし、四六時中、昇子さんの後をくっついて回っていたモモちゃん。

    家の用事でモモちゃんをペットホテルに預けた時のホームシックぶりは想像以上で、その後は、近所の犬友達に家の鍵を託し、散歩などシッターを頼むことにしました。これも昇子さんとご近所との信頼関係とコミュニケーションがあってこそ。日ごろのコミュニケーションの良さが功を奏したのです。

  • お花見をするモモちゃん

    ▲お花見をするモモちゃん

  • そのモモちゃんに老化の兆しが見え始めたのは、自宅の階段の上り下りが不自由になってきた14歳を過ぎた頃でした。
    ご夫婦の寝室が2階だったこともあり、寝る時は昇子さんについて一緒に階段を上ろうとするモモちゃんをふたりで補助しながら階段を上ります。朝は再び補助して階段から降ろしてリビングに―。
    その頃から、足取りもゆっくりになり、お散歩も道路を横断して、近くの公園まで行くのがやっとです。その後も徐々に歩行困難が進み、ついに道路の横断ができなくなって、公園にも行けなくなってしまいました。

  • ご主人の重男さんに補助されながら散歩するモモちゃん

    ▲ご主人の重男さんに補助されながら散歩するモモちゃん

「その頃からでしょうか…。モモの脚の様子がおかしいことに気づいたのは…」
病院に連れて行こうと思った昇子さんは、いつもかかっていた近所の病院ではなく、遠くで動物病院を営む、獣医師の長男にモモちゃんを見てもらうことにしました。
結果は悪性腫瘍。すでにモモちゃんは15歳になっていたため手術は考えず、息子さんからもらった薬とサプリメントで残された時間を一緒に過ごそうと決めました。
「年齢的に手術なんてとても考えられません。あとはただ穏やかに暮らせるよう、できることをできるだけやって、面倒を見てあげるだけです。腫瘍ができた左足がどんどん腫れてくると、痛いのかな…苦しいのかなと…。本人がどう感じているのかわからないのが、飼い主にとって一番辛いです」

15歳と半年を過ぎた頃からモモちゃんは全く歩けなくなり、ついに寝たきりになりました。
重男さんは現在も仕事をしているため、主に介護をするのは昇子さんの役目です。
昇子さんは、リビングの一番日当たりのいい場所にモモちゃんのベッドを設置。
昇子さんも寝床をリビングに移し、モモちゃんの隣で添い寝をするようになりました。
モモちゃんのベッドからは、昇子さんがモモちゃんのために作った広いお庭が見渡せます。そのお庭を見て一日を過ごすのが、年老いたモモちゃんの日課となりましたが、食欲は今でもとても旺盛です。

モモちゃんの介護をする昇子さん

▲モモちゃんの介護をする昇子さん

  • モモちゃんがときどき「ワン!」と吠えるたび、昇子さんは夜中でも「お水かな?」「オシッコ出たかな?」と優しく語り掛けながら、水を飲ませたり、トイレシートを交換します。

    「寝たきりになって心配なのは褥瘡(床ずれ)。定期的に体位を変えるんですが、本人は左下の体位でないと上体を起こせないらしくて、右下に体位を変えた時は不安定でずっと見ていなくてはいけません。だからといって、ずっと左下で寝かせていると、褥瘡がますますひどくなる…。体位の交換にはとても気を使っています。」

  • 床ずれ防止の為、定期的にされている体位変換

    ▲床ずれ防止の為、定期的にされている体位変換

夜通し添い寝をして、日中は排泄や排尿の記録も毎日きちんとつけてモモちゃんを見守る昇子さん。
リビングはダイニングと一体型になっているので、食事をしているときでもダイニングテーブルからモモちゃんを見守ることができます。食いしん坊は寝たきりでもまだまだ健在で、ご夫婦の食事時には、頭を上げて「何かちょうだい!」と、元気におねだり。
寝ている時間が多くなったモモちゃんですが、目が覚めて昇子さんの顔を見ると今でも笑顔いっぱいです。
「自分がモモを元気づけてあげなくちゃいけないのに、その笑顔に私たちが元気をもらっています。息子からもらった薬とサプリメントが効いているのか、今年、無事16歳のお誕生日を迎えることができて、本当にうれしい」

大型犬の介護は体力も必要で、決して楽ではありません。
それでも、昇子さんが頑張れるのは、モモちゃんからたくさんもらった幸せを、今度は自分が返す番だと思うからです。
「この子が寝たきりになって散歩に行けなくなってから、近所の人たちから “最近全然見ないけど元気なの?”と電話がよくかかってきます(笑)。モモの散歩で、どれだけ多くのお付き合いができたのか、今になってよくわかります。この子がいて、ただただ、癒された…。本当に、ありがとうって心から思う。残り時間を穏やかに過ごしてほしい。私たち夫婦の願いです」

16年という長い歳月が築いたモモちゃんとの「絆」―。
そして、モモちゃんが繋いでくれた多くの「絆」-。
モモちゃんは、自分のためにつくってもらった広いお庭を眺めながら、昇子さんの隣で、今日も笑っています。

(取材:2022年1月)

モモちゃんと昇子さん

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/特定非営利活動法人 動物愛護社会化推進協会理事/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
その数230カ所を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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