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シニア犬・シニア猫と暮らす

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.15

  • なつきちゃん
  • vol15

    なつきちゃん(ミックス)

    推定2005年生まれ 20歳(女の子)

    ボーダー

    老犬が元気に暮らすための、QOL(生活の質)って何だろう―?
    刺激があること、程よいストレスがあること、
    そして経年変化にあった食事。
    20歳を迎える愛犬と向き合った介護の集大成とは―?

道路で徘徊していた犬を保護したことから始まったなつきとの生活

ピラティスと筋肉トレーニングのパーソナルトレーナーとして働く植松雅美さん(49)が仕事の傍ら、行き場のない捨て犬や猫を自宅で預かり、新しい飼い主を探す「一時預かり保護ボランティア活動」を開始したのは2000年のこと。

このボランティアは、動物保護ボランティア団体が、動物愛護センターから引き取った犬猫を団体に登録しているボランティアたちに振り分けて、新しい飼い主が見つかるまで一時的に預かってもらうという取り組み。預かった犬猫に治療が必要であれば、治療費も団体から支給されます。

「ずっと犬を飼いたいと思っていたんですが、当時は、金銭的余裕もなく、飼育費用のことを考えると、犬を飼うという決心がなかなかつかなかった。でもこのボランティアなら治療費も団体から支給してもらえるし、一時預かりとはいえ、犬との暮らしを実現できると思いました」

  • 犬との暮らしだけではなく、行き場のない命を救うことに魅力を感じた雅美さんは、すぐに保護団体の登録ボランティアとして活動を開始しました。

    そんな中、保護団体から預かってほしいと依頼されたのが、「宝」と名付けられた一頭のミックス犬。

    宝は気に入らないことがあるとすぐに咬みつくという問題行動があり、多くのボランティアが音を上げて、転々とした末に雅美さんのところにやってきたのでした。

    当然、噛み癖のある犬に新しい飼い主を見つけることなどできず、結局、宝はそのまま雅美さんの家族として飼われることに・・・。

    「私も何度も宝に咬まれました。本当に、こんな大変な犬は他にいない。だからボランティア宅を転々とたらいまわしになったんだと思います。・・・でも・・・、やっぱり犬ってかわいいんですよね。今でも宝を家族にしたことは後悔していません」

  • 植松さんと散歩するなつきちゃんと光くん

    ▲植松さんと散歩するなつきちゃんと光くん

それから3年が経った2008年の夏-。
雅美さんが車で道路を走っていると、二頭の犬がフラフラと歩いているのが目に入りました。保護活動もすっかり板についた雅美さんは、二頭をすぐに保護。

一頭はメスのミックス犬で、もう一頭はオスの柴犬です。
「二頭とも首輪がついていたので、庭で飼われていた犬が逃げてきたのかなあ・・・メスの方がヒート中だったので、近くにいたメスを追いかけてオスも一緒についてきたんでしょうね・・・。でも、飼われていたにしては、汚くて、手入れなんか一切されていない感じでした」

雅美さんは二頭を自宅に連れて帰り、元の飼い主を探しましたが、結局飼い主は見つからず、新しい飼い主を探すことになりました。

自身のブログで飼い主を募集すると、純血種のオスの柴犬にはすぐに飼い主希望者が現われ譲渡が成立。メスへの譲渡希望者も2名ほど現れましたが、雅美さんはなぜか、譲渡する気になれなかったと言います。

「その子は咬みつき犬の宝とはまるで正反対・・・。性格もとても穏やかで、すごくいい子。いたずらもまったくなかった。同居していた猫とのトラブルも一切なし。宝を見てきたせいか、犬ってこんなに可愛いんだって、しみじみ思えて、手放せなくなったんです」

  • 雅美さんはその犬に「なつき」と命名。

    宝に次いで家族として迎えることにしたのです。
    保護当時にヒート中だったため、雅美さんは妊娠の心配もしていましたが、結果は陰性。

    ホッとして、かかりつけの動物病院で不妊手術をお願いした雅美さんは、獣医師が「子宮の状態からどんなに若くても三歳は超えている」と判断したことから、なつきが生まれたのは遅くても2005年と推定しました。

  • 9歳当時、海岸を走るなつきちゃん

    ▲9歳当時、海岸を走るなつきちゃん

最高の愛犬・なつきの老後

  • その後も、なつきはまったく病気もせず、とても元気で、宝ともつかず離れず、いい関係を保っていました。

    時間を共にすればするほど、雅美さんのなつきへの愛情は増すばかりです。

    その頃には、以前の登録保護ボランティアを辞め、自らが代表を務める犬猫保護ボランティア団体(ココニャン一家の縁結び)を設立していたため、雅美さんの毎日は大忙し―。

    そんな中、宝が2017年に推定17歳で、老衰で天国に旅立っていきました。

  • ▲宝くんと植松さん

    ▲宝くんと植松さん

なつきは、12歳でシニア期に入っていましたが、相変わらず元気です。
更に13歳、14歳、15歳とおどろくほど元気な老後を送っていたなつきに変化が起こったのは、16歳を過ぎた頃のこと-。

前庭疾患を患い、めまいに苦しむこととなったのです。
「病院では、“様子を見ましょう”の一言。でもなつきは辛そうで、食事もまともに取ることができなくなった・・・。
何とかしてあげたくて、いろんな人に相談したところ、ステロイドがめまいに効くことがわかったので、病院で注射してもらうことにしました。すると1,2か月ほどで、外で散歩もできるほどに回復したんです」

  • 回復したと言ってもなつきはもう16歳。犬の平均寿命をとうに通り越した超高齢犬です。
    前庭疾患をきっかけに散歩量もうんと減ってしまいました。

    そんな中、雅美さんは、宝に似た一頭の保護犬と出会い、家族として迎え入れることを決意します。

    その後、「光(ひかる)」と名付けたミックス犬がやってきたことがきっかけで、なつきは目を見張るほど元気になっていったのです。

    「やっぱり犬も人間も元気で生きるためには、刺激が必要だと思うんですよ。それと、生きる基本となる食事ですね」

    パーソナルトレーナーを職業にしている雅美さんは、体にも心にも「ほどよい刺激」と「心地よいストレス(負荷)」そして「バランスのいい食事」の三つが人間にも犬にも必要だと熱弁します。

  • なつきちゃんと光くんそして植松さん

    ▲なつきちゃんと光くんそして植松さん

  • なつきにとっても光の存在が刺激となり、光とドッグランを駆け回る姿はとても16歳には見えません。さらに食事も光の食べっぷりを見ながら競争するように食べる方がなつきの食が進むのです。雅美さんの思惑通り、なつきは16歳という年齢にも関わらず、「光が家族に加わった刺激」によって、ピンピンした姿を取り戻していきました。

    しかし、超高齢となったなつきは、その二年後に今度は眼球癆(がんきゅうろう)という重篤な目の疾患を患い左目の激痛に悩まされるように・・・。

    すでに超高齢で手術をすることができないため、3種類の目薬を一日5回点眼し、痛み止めの薬を併用することにしました。

    最終的には、目の炎症や損傷によって眼球が委縮し、目の機能を失ってしまう「眼球癆」の状態になり、痛みは消えましたが、断続的な痛みは一年にわたって続いたと言います。

  • ▲眼球癆(がんきゅうろう)のなつきちゃんの目

    ▲眼球癆(がんきゅうろう)のなつきちゃんの目

20歳目前!なつきの介護は、これまでの集大成

それから更に二年が過ぎ、一進一退を繰り返しながらも、穏やかな老後を送っていたなつきですが、2024年の秋頃から原因不明のひどい下痢が続くようになりました。

  • 「仕事から帰ってきたら部屋中が糞便だらけ・・・。病院に連れて行っても原因がわからず、老化で胃腸が弱っているのでは、と薬を処方してもらいましたが、効き目もなく、それからは毎日、なつきのウンチと格闘する日々が続きました」

    下痢がひどくなれば体重も減少、体力も落ちてきます。どんどん痩せて弱っていくなつきを見て、雅美さんはこのまま天国に逝ってしまうのではないかといてもたってもいられなくなったと言います。

    元気になるために最も大切なのは食事です。
    雅美さんは、徹底的にフードにこだわりました。

  • ▲なつきちゃんに寄り添う光くん

    ▲なつきちゃんに寄り添う光くん

下痢をしているなつきの体質に合うものをと、試行錯誤の上、様々なフードを試し、二か月かけて、ようやく腸内バイオームと消化器サポートの缶詰を混ぜたものがなつきの体に合うことを見つけ出しました。与える量もかなり重要なポイントだと言います。

フードの量もグラム単位で量り、食事の内容と量にこだわった結果、これまでが嘘のようになつきの下痢は止まり、体調も改善し、ついに20歳になる年を迎えることができました。

ところが・・・年明けから間もない2025年1月24日、雅美さんが帰宅すると今度は部屋中がなつきの吐瀉物まみれ・・・。その夜は血も吐き、慌てて動物病院に連れて行くと肝機能障害が判明しました。「あとは、体力勝負」と獣医師から言われた雅美さんは、吐き気止めの薬の投薬と、点滴処置を毎日なつきに施しました。

  • 食欲も急激に低下したため、食欲増進剤も処方してもらいなつきに服用させました。

    「この食欲増進剤も、以前飼っていた二十歳の猫が、食欲がなく困っていた時に、いろいろ調べて知り合いに教えてもらった薬です。今では普通に処方されていますが、以前は獣医さんも知らなかった。飲ませるタイミングにもコツがいります。そのタイミングも猫の時の経験が役立ち、なつきの時には上手く投薬できました」

    食事も固形物ではなくドライフードと缶詰と水をミキサーにかけ、流動食にしてシリンジで一日4回に分けて食べさせることにしました。

    幸い、雅美さんの職場は原動機付自転車で5分の距離です。

  • ▲シリンジで食事をするなつきちゃん

    ▲シリンジで食事をするなつきちゃん

トレーニングの予約の合間を縫って、何度も自宅に戻り、なつきの介護を担います。
「なつきももうかなりの高齢・・・。以前は、自分の口から食べられなくなったら、自然に任せて天国に見送るのもいいなと思っていたんですが・・・やっぱり諦められないんですよね・・・。大好きななつきには、もっと、もっと側にいてほしい・・・。そのためには、何だってできる・・・」

すっかりおばあちゃんと化したなつきですが、散歩も大好きで、ゆっくりとした足取りで雅美さんと楽しそうに歩きます。

  • 左目に続き、右目も「眼球癆」を患ったなつきは、今では両目とも見えず、老化で耳もほとんど聞こえません。それでも、雅美さんの気配を感じ取るかのように、雅美さんの方にたえず顔を向け、側にいるのを確かめるかのように立ち止まります。

    そして、雅美さんがなつきのお尻をちょんちょんと指で押すと、それを合図にゆっくりと脚を前に繰り出します。
    普段なら5分ほどしかかからない道のりを30分ほどかけてポテ・・・ポテ・・・と歩く姿は、まるで、雅美さんとの信頼関係を確認しているかのよう・・・

    見ている方も目頭が熱くなります。
    老犬になって足腰が弱くなればお散歩なんて必要ないだろうと思う人もいるかもしれませんが、散歩は犬の世界のソーシャルネットワークです。運動だけではなくいろんな匂いや風を感じて情報を得ているため、とてもいい刺激になるのです。

    「今でも一日4回くらいは散歩に出ています。若い時からたくさん散歩をさせてきたのでなつきは足腰が鍛えられた!だから、この年になってもまだまだ歩けるのだと思います」

  • ▲植松さんと散歩するなつきちゃん

    ▲植松さんと散歩するなつきちゃん

まもなく20歳を迎えるなつきの体調は、一進一退-。
調子の悪い日もあれば、すこぶるいい日もあって、体調がいい時はお散歩もたくさん歩くと言います。

  • 食欲があるときは、今でも光や猫のゴハンも盗み食いしようとするほど―。

    「なつきの老犬介護は、ある意味、私が経験してきた介護やケアの集大成なんです。これまでたくさんの犬や猫の預かりや、宝や猫の介護があったから、その経験を更に応用していい結果に繋がったのだと思います。それがなつきの長生きに繋がったんだと思う。そう思うと、天国に逝った宝や猫たちが、なつきの長生きを手伝って、応援してくれていることになりますね!」

  • ▲なつきちゃんのオムツの交換をする植松さん

    ▲なつきちゃんのオムツの交換をする植松さん

  • 自らの保護犬猫団体「ココニャン一家の縁結び」を立ち上げ、多い時には仲間たちと年間300頭の犬や猫を保護・譲渡してきた雅美さん。

    なつきの介護は、ボランティアで携わってきた犬猫たちの飼育経験、病気のケア、介護経験のまさに集大成-。
    雅美さんの保護ボランティアとしての飼育の集大成が、なつきを20歳という大台に導いてくれたとも言えるのです。

    (取材:2025年3月)

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
授業の回数を300回を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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