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シニア犬・シニア猫と暮らす

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.16

  • 橋本家の犬猫たち
  • vol16

    ノンちゃん(柴犬) 推定10歳(女の子)

    ミーちゃん(三毛猫) 推定13歳(女の子)

    ピッピちゃん(茶トラ猫) 推定9歳(女の子)

    ボーダー

    犬猫がいない暮らしは、これまで考えたことがなかった―。
    長い人生の中で、当然のように寄り添ってくれた、
    犬と猫との穏やかな暮らしとは・・・

千葉県佐倉市に住む橋本一さん(78)と妻の明子さん(78)は、夫婦ともに動物が大好き!
特に明子さんは、幼いころから70年以上もの歳月を犬・猫と当たり前のように暮らし続けてきました。
現在、暮らしているのはシニアになる一頭の柴犬・ノンと、三毛猫のミー、茶トラのピッピです。

目の見えないシニア犬、柴犬・ノンとの出会い

橋本さん夫妻がそれまで可愛がっていた愛犬・ミックスの風(ふう)を天国に送ったのは、務めていた職場の定年前―。
その後、70歳近くになった橋本さん夫妻は、自身の年齢のことも考えて、以降、犬の飼育を断念しようと夫婦で話し合っていました。

そんな橋本さん夫妻が、柴犬のノンと運命的な出会いをしたのは、2024年9月のことです。千葉市動物保護指導センターの飼い主募集サイトを見たのがきっかけでした。

「風を見送って10年以上経っても、やっぱり犬が恋しい・・・。私は大型犬が好きで、風も体重が20キロ以上ありました。でもさすがにこの年齢で大型犬は無理。かといって小さな小型犬じゃ物足りなくて・・・」

  • そんな明子さんの気持ちを知った一さんが、千葉市の飼い主募集サイトを開いたところ、目に入ったのが柴犬のノンでした。

    ノンは、車通りの激しい交差点でリードもつけず、ひとりでウロウロしていたところを警察官に保護され、千葉市動物保護指導センターに収容。

    収容当時は両目が見えず、特に右目がひどく腫れていたため、手術で義眼装着(右目)後に飼い主募集を開始した障がいを持つシニア犬でした。

    何気に気になり、橋本さん夫妻がセンターに面会に行くと、ノンはとてもおっとりとして、人懐こい性格。80歳を目前にした橋本さん夫妻には、いいパートナーになるだろうと、即家族に迎え入れることにしたのです。

    (*高齢者譲渡の為、娘さんを後見人とする条件付き譲渡で、ノンちゃんは千葉市動物保護指導センターからの直接譲渡ではなく、保護犬・猫ボランティア団体経由で譲り受けた犬)

  • 植松さんと散歩するなつきちゃんと光くん

    ▲センターから引き取った時のノンちゃん

「ノンが収容された千葉市動物保護指導センターは、風が亡くなった後に、犬を譲渡してもらおうと、以前、行ったことがあるのですが、10年以上前のことです。当時は野良犬の収容も多く、他の自治体同様、殺処分を定期的に行っていると聞き、本当に心が痛みました。」と一さん。

時代の変化で、現在、殺処分がゼロとなった当施設では、橋本さん夫妻がノンに会いに訪れた時も犬の収容はわずか2頭だけだったと言います。
ノンの譲渡希望者は他にもいたようですが、緑内障(左)と義眼(右)で、視力がほとんどないことから、もっと若く活発な犬がいいと、譲渡には至らず、橋本さん夫妻にお鉢が回ってきたのです。これも何かの縁を感じずにはいられません。

  • 「捨てられたのか、迷子犬だったのかはわかりませんが、以前、飼われていたことは間違いないと思います。ノンは目が見えない分、音には相当敏感。特にお菓子の袋を開ける時の音や、みかんが好きだったのかみかんの匂いがすると、近づいてきて催促するんです。きっと、誰かに飼われていたからでしょう。我が家の家にもすぐに馴染みました。
    目が見えなくても、ウォーターボールのある場所もわかっていて、自力で水も飲むことができる。家の中では何不自由なく生活できています。それにしても・・・目も不自由で、飼われていた犬がどうして、交差点の真ん中にひとりでいたんでしょう・・・もし、捨てられたとしたら、あまりにも酷すぎます・・・本当に・・・、交通事故に遭わず、よく無事に我が家に来てくれました」

    明子さんは、愛しそうにノンを撫でながら語ります。

  • 自分で水を飲みに行くノンちゃん

    ▲自分で水を飲みに行くノンちゃん

ノンは一さんが大好きで、一さんの足音が聞こえると、その音を頼りにトコトコ後ろをついて回るほど。
ノンの散歩も、もっぱら一さんの担当で、一さんの健康維持にも一役買ってくれます。

  • 「先住犬の風が亡くなってからは、猫しかいませんでしたから、あっちこっちが痛いと言って、ほとんど外に出なかったんですよ。それが今では一日三回はノンと一緒に散歩に出るようになりました。
    目が見えないせいで、最初は真っすぐ歩くことができず、右にひょいっといったかと思えば、左にクルンと回ったり、ジグザグと歩いていました。でも、そのうちボクの足音をたよりにまっすぐ歩くことができるようになった。目が見えなくても、ノンは散歩が大好きで、そんな姿を見ていると、ボクも歩くのが楽しくなるんです」

  • 先住犬・風(ふう)くん

    ▲先住犬・風(ふう)くん

  • 高齢犬で目の不自由なノンとの暮らしは、高齢の橋本さん夫妻に犬との「いい塩梅」の穏やな暮らしをもたらしてくれたようです。

    「それにしても、殺処分ゼロの時代がこんなに早く来るなんて想像できなかった・・・。もし、あの時代にノンが収容されていたら、目に障がいのあるノンは、殺処分対象になっていたかもしれない・・・。こんないい子なのにね。うちに来てくれて本当によかった!センターからノンを譲り受けた記念日には、元気いっぱいのノンの姿をセンター職員さんや、飼育員さんに見てもらうため、千葉市動物保護指導センターを訪れる予定です」

  • 散歩するノンちゃん

    ▲散歩するノンちゃん

野良猫から家族になった三毛猫のミーと、茶トラ猫のピッピ

ノンを迎える以前から橋本家にいた先住猫、ミーとピッピも保護猫です。
ピッピと明子さんが出会ったのは、今から9年前。
ある日、自宅庭のデッキ下で、野良猫が子猫を産んだことがきっかけでした。

  • 「父猫が茶トラで、母猫が三毛。よく庭に来ていたのですが、ある日子猫の鳴き声が聞こえて、デッキ下をのぞいたら6匹いたんです」

    放っておくことなどできず、明子さんは悪戦苦闘の末、親猫がいない間に6匹を無事保護。その日から授乳して育て、離乳を機に貰い手を探すことにしたのです。

    同時に気になったのは、親猫たちです。
    思い立った明子さんは、親猫二匹も保護し、これ以上野良猫が増えないように不妊手術をして、地域猫として見守ることにしました。

  • 保護した6匹の野良猫

    ▲保護した6匹の野良猫

  • その後、世話をしていた可愛い子猫にはすぐに貰い手が見つかり5匹が無事譲渡。最後に残った茶トラの長毛猫がピッピだったのです。

    「ピッピは、人に全く懐かなかったから最後まで売れ残ったんです(笑)。で、気が付いたらうちの子になって早9年。今も気ままで懐くような猫ではありません」

    見ていると確かにピッピは気ままです。
    リビングの引き戸を開けるのもお手の物。器用に前足でドアを開けて自由気ままに出入を繰り返したり、出窓にデンと居座ってそこから道路を眺めたり・・・。

  • 出窓が居場所のピッピちゃん

    ▲出窓が居場所のピッピちゃん

抱っこしようものならとたんに不機嫌になり、猫パンチを繰り出そうとします。
「人との付かず離れずの距離感が猫の最大の魅力的。それに、犬と違って散歩がないから、私達みたいな高齢者には、断トツ飼いやすい。世間ではまだまだ野良猫があちこちにいるから、うちに余裕があれば、一匹でも幸せにしてあげたいと思っていました」

  • その言葉どおり、三年ほど前にやってきたのが、地域猫として公園で世話をされていた三毛猫のミー。

    ミーは子猫の時に公園で捨てられ、その後明子さんの知り合いが地域猫として不妊手術を施し、以来10年間に渡り公園で面倒を見てきた猫で、手術を終えた印の耳カットの後もはっきりとあります。

    地域猫といってもミーはとても大切に世話されていたらしく、外猫とは思えないほどの肥満っぷり。朝晩の給餌の徹底から、冬場は寝床にホッカイロを入れてあげるなど、みんなから可愛がられていたのです。

  • 耳カットされている三毛猫のミーちゃん

    ▲耳カットされている三毛猫のミーちゃん

そんな知り合いから明子さんに声がかかったのは今から三年ほど前のこと。

「子猫の時から公園で世話をしている猫がいるんだけど、9歳になってシニア猫になる。高齢になると外の生活は厳しいし、とても人懐こい三毛猫なので、もしよければ家族として迎え入れてくれないか、と言われたんです。その時我が家には犬もいなかったし、猫もピッピだけだったので、もう一匹なら大丈夫かなと思い、早速公園まで会いに行くことにしました。見に行くと外猫とは思えないほどきれいな猫・・・ノミやダニもいるようには見えませんでした」

知り合いの言葉通り、警戒心などまるでなし。
ミーは、ニャーと猫なで声を出しながら明子さんにすり寄ってきて、あっけなく「御用」。キャリーバッグに入れられ、そのまま橋本さんの自宅に引き取られることになったのでした。
問題だったのは、10年近く外で暮らしてきた猫を室内飼育に慣れさせることができるかどうかでした。外猫なので感染症も心配です。明子さんはまず自宅の一室のみでミーを飼育し、家飼いに慣らすことから始めたのです。

「何しろずっと公園暮らしでしたからね・・・。外に出たがるかなと思ってみていましたが、以外にも外に対する未練はなかったようです。とりあえず三か月はそこで様子を見ていました。その後は慣れてきたようなので、フリーにしましたが、全く問題はありません」

  • それから3年。ミーは、橋本さん夫妻に自分の老後を託し、すっかり馴染んで寛いでいます。生まれてからずっと自宅にいるピッピより、ミーの方がずっと懐こいようです。

    これまで、ミーのような外猫を我が子として迎え入れることも積極的に検討してきた橋本さん夫妻ですが、自身で面倒を見られるキャパシティをきちんと把握しているため、安易な多頭飼育に走ったことは一度もありません。

    「保護猫活動で、多頭飼育になったり、そのために多額のお金を使ったり、猫のために新たに部屋を借りたりする人が、自分の周りにもいますが、そこまでの活動をしたいと思ったことはありません」

  • 橋本さん夫婦と犬猫たち

それでも自分にできることはある、と明子さんは言います。
「近所では花壇や家庭菜園への糞尿被害をはじめ、野良猫への苦情がたくさん出ている。繁殖制限をしないで餌をやりっぱなしの人もいる。せめて私ができることは、近所の人たちと話し合って、みんなでお金を出し合って、不妊去勢手術をして地域で猫を見守って行こうと呼びかけることでしょうか」

  • 現在、橋本さん夫妻の家では、シニア犬・猫が三匹三様、同じ居住空間の中で、自分の居場所を見つけ、心地良さそうに暮らしています。後から来たノンに対しても、ピッピ、ミーは気にする様子もありません。ノンも気にならないようです。

    「ネコは散歩もいらないし、気ままな性格だから飼育はとても楽!逆に犬は、人との関わりがすごく深い生き物。やっぱり犬猫の両方と一緒に暮らすのが、我が家にとっては一番自然なんだと思います」

    今後の課題は、高齢である橋本さん夫妻の健康と、三匹のお世話の問題ですが、その点については橋本さんの娘さんとの話し合いで、すでに解決済み!
    シニア世代がペットを飼う場合、豊富な知識と経験と、万が一の時のサポートを必要とします。

    橋本さん夫妻は、そのすべてをクリアした、シニア世代がシニア犬猫と元気に穏やかに暮らす、モデルケースと言えるでしょう。

    *飼い主さんのお名前は、ご本人の希望により仮名となっております

    (取材:2025年7月)

  • 橋本さん夫婦と犬猫たち

    ▲橋本さん夫婦と犬猫たち

取材・記事:今西 乃子(いまにし のりこ)

児童文学作家/公益財団法人 日本動物愛護協会常任理事

主に児童書のノンフィクションを手掛ける傍ら、小・中学校で保護犬を題材とした「命の授業」を展開。
授業の回数を300回を超える。
主な著書に子どもたちに人気の「捨て犬・未来シリーズ」(岩崎書店)「犬たちをおくる日」(金の星社)など他多数。

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