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写真:浜田一男

ボーダーライン・オレンジドット

命の「光」と「影」に向き合う獣医師。
その「小さな命」に対するその思いとは何なのだろう―?

ボーダーライン・オレンジドット

行政での仕事を選んだきっかけは、
テレビでみた“犬・猫の殺処分”

幼いころから動物が大好きで、正義感が強かった二井谷さん。
目指していたのは、小動物の獣医師になることでした。ところが、学生時代に見たテレビのニュースがきっかけで、獣医師でも命を救うこととは全く逆の命を殺処分する側に。
「高校生の頃、行政機関で犬や猫が次々と殺処分されることを知り、これが現実なのだとショックを受けました。命を簡単に捨てる人間がいるから殺処分される命がある。 そして、ほとんどの人はこういった辛い仕事からは逃げたがる。命を絶つより、命を救う方がかっこいいし、命を救う仕事は自分にとってもやりがいがあります。」
しかし、捨てられる命がある限り、収容される犬・猫がいる限り、誰かがこういった仕事に就かなくてはなりません。二井谷さんは大学を出た後、千葉県千葉市の職員(獣医師)として、動物保護指導センターで働きはじめました。

誰からも愛されない、必要とされない“命”と向き合う

「何より辛かったのは、子猫の処分でした。」
通常、犬の殺処分は処分機の中に犬を追い込んで二酸化炭素ガスを流して窒息死させますが、子猫は呼吸が浅いため、同じように処分すると長く苦しみます。
そのため、二井谷さんは、住民によって持ち込まれる子猫に自ら注射を打ち、苦しまないよう処分をしていったのです。
「嫌だと逃げても、子猫が救われることはない。ならば逃げないでこの仕事の中で命について考えるべきことがあると思ったんです。」

命を繋げるチャンスが見えた!

転機が訪れたのは、2010年春-。
移動先からふたたびセンター勤務になった時のことでした。
収容された犬や猫たちを次々と引き出して、譲渡をする保護ボランティアの姿が二井谷さんの目に留まります。
「私の犬や猫に対する思いは、彼らの足元にも及ばない。行き場がない、と思っていた犬が次々と新しい家族をみつけて幸せになっていく。これから私がやるべきことは、殺処分ではなく、収容動物とボランティアさんの橋渡しだと、考えを180度切り替えました。」
その思いが功を奏して千葉市動物保護指導センターの犬猫の殺処分数は激減。
その秋以降、殺処分機は稼働していません。
しかしすべての問題が解決したわけではありませんでした。
「残るのは、飼い主がいない猫(野良猫)の問題でした。TNRという言葉が出始めたのもこのころからでしょう。」
TNRとは飼い主のいない猫を捕まえて(Trap)、避妊去勢主手術をし(Neuter)、もといた場所に戻して(Return)、一代限りの命をみんなで見守ろうという取り組みです。
手術をすれば、野良猫は繁殖しないので、今いる一代限りの命を見届ければ、自然と飼い主のいない猫がいなくなる、という原理です。
二井谷さんは、仕事と並行して飼い主のいない猫の保護やTNR活動にも積極的に乗り出します。命を絶つ側ではなく、命を護る側にとことん専念したいと思ったのです。

命の尊厳は、息さえしていればいいというものではない

命を助ける獣医師としてなら、飼い主のいない猫に対しても、病気の診断や治療も施さなければなりません。しかし、二井谷さんは、ここで大きな壁にぶち当たります。
「センター勤務の獣医師は、ほとんど臨床をやりません。日々、犬や猫に対する住民の苦情や対応に追われて、勉強する暇も治療に対する知識もあまりない。いわゆるペーパー獣医師になってしまうんです。」
動物の命を救うため、最も必要なのは正しい診断と的確な治療だと二井谷さん。
獣医師として、もう一度臨床を学ぶため、別の道を歩むことを決意します。
「処分機が稼働しなくなり、ボランティアさんが定着したことで、センターでやるべきことは終ったと区切りをつけました。」
こうして二井谷さんは21年間勤めた市役所を退職して、2015年から町の動物病院で働きはじめました。臨床の経験を積み、もう一度勉強しなおして、どうしても実現させたい獣医師としての使命があったからです。
「センター時代からずっと課題だった飼い主のいない猫・・・。その猫たちをどうケアしていくか、が、一番取り組みたい仕事です。 センター勤務のころは、TNRによって飼い主のいない猫の繁殖をいかに制限できるかだけを考えて、手術をした猫が健康で暮らしているかは頭になかったんです。 一代限りの命を見守るということは、生かしておくという意味では決してないはず。命の尊厳とは、ただ息をしているということではないということです。」

飼い主のいない猫を対象とした往診“のらねこクリニック”

仕事とは別に、二井谷さんは、地域猫ボランティアからの依頼があると、野良猫の治療にも往診専門で対応しています。
その名も「のらねこクリニック」-。
薬などの実費以外はすべてボランティアです。
野良猫対象の治療は、飼い主がいないぶん、診断に必要な情報も手薄になり、更なる知識と勉強が必要だと二井谷さんは言います。
「言葉を話さないペットの幸せは、面倒を見ている人間によって大きく左右されます。
飼い主さんも、自分の犬や猫を大切に思うのであれば、ペットの日常をよく観察してほしい。正しい診断のために、情報は多ければ多いほどありがたいです。 飼い主さんが犬や猫のことをよく勉強し、知識を身に着ければ、動物病院での診断・治療もスムーズにいきます。 結果、それが犬や猫の一番の幸せにつながるのです。」

飼い主さんに愛されているペットも、飼い主のいない猫も、その命を幸せに全うする権利があります。その権利にこたえられるのは私たち人間でしかありません。
私たち飼い主は、自分の愛犬・愛猫のことをどれだけわかっているでしょうか。
命を絶つこと、命を救うこと、そして命をただ救うだけではなく、その命を幸せにすること―。
命の光と影を見てきた二井谷さんは、獣医師という仕事に今、大きな遣り甲斐と誇りを感じていると、笑顔で応えてくれました。

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