
現在歯磨きを行っていない飼い主さんの95%が「成猫から歯磨きを始めるのは難しい」と回答。その中で過去に歯磨きに挑戦したけど断念した飼い主さんも61%という結果に。そこで、多くの方が悩みを抱えている成猫の歯磨きとその方法について、愛玩動物看護師の山城さんにお話を伺いました。
まずは知っておこう!大事な歯と病気のこと。 
愛猫の歯磨きを始める前に口腔内がどうなっているかを理解しましょう!
歯の本数について
猫の歯は乳歯が26本、
永久歯が30本あります。
特に上顎の第4前臼歯と下顎の第1後臼歯は
食べ物を噛み切る時に使う歯で裂肉歯(機能歯)と言い、とても重要な歯になります。

口腔内環境について
猫の口腔内はph7.5~8.5のアルカリ性の環境になっています。
アルカリ性の環境の中では歯石ができやすく、細菌の住処となるため歯周病菌が過ごしやすく、活発になりやすいので歯周病になりやすくなります。
猫は唾液中にアミラーゼという炭水化物を糖に分解する酵素がないので口腔内に糖がとどまりにくく虫歯にはなりにくいとも言われています。
※ちなみに猫での虫歯の報告はありません。
プラーク(歯垢)から 歯石に変わる日数は?
猫は7日ほどでプラークから歯石に変わると言われています。
歯石になってしまうとブラッシングでの除去は非常に難しくなります。また歯石が付着し歯の表面がデコボコになると、プラークが付着しやすくなるだけではなく、除去が困難となり口腔環境の悪化を招くことになります。

歯周病の原因とは?
歯周病の主な原因はプラーク(歯垢)で、プラーク内のバイ菌が体に入ろうとする時に、体が防御反応を起こし、歯肉 (歯茎)に炎症が起きます。このプラークは物理攻撃に弱く、ブラッシングで除去が可能です。
猫の歯磨きについて 
皆さんは猫の歯磨きと言えばどのようなイメージを持つでしょうか?
「難しそう・・・」、「嫌がるからしたくない」、「そもそも猫に歯磨きが必要?」などいろんなイメージを持っていると思います。
先に結論から言うと猫にも歯磨きは必要なのです!!なぜかというと口腔内の環境を整えるという事は全身の健康維持に必要不可欠だからです。
2歳以上の約70%の猫が歯周病にかかっていると言われていて、更に猫では進行した歯周病が慢性腎臓病のリスクを1.5倍も高めてしまうとも言われています。
その他にも心臓や肝臓、糖尿病の管理が難しくなるなど全身のあらゆる臓器や病態にまで悪影響を与えてしまうため、口腔内を清潔に保つことがとても大切です。

成猫から歯磨きを始める事について

実際のご家族からの質問で「いつから歯磨きの練習を始めたらいいですか?」と聞かれることがよくあります。
一番は子猫の時期から歯磨きの練習をすることがベストです!それはなぜかというと、子猫の時期は良いことも悪いことも何でも吸収する時期になります。
それだけでは無く、まだまだ未経験の事が多く、顔周りや口周りを触ったり、歯ブラシやデンタルシートなどの道具に対して悪いイメージもついてないので、吸収の早いこの時期にご褒美をたくさん使って「歯磨きの練習=楽しいこと、嬉しい事」と印象付けることがとても大切だからです。
一方、成猫から歯磨きの練習を始めようとすると苦戦することがほとんどです。
大人になってたくさんの事を経験している分、恐怖心や警戒心が練習に影響してくることが多いので、子猫の時よりもしっかりと時間をかけて練習する必要があります。
既に顔周りや口周りを触る事に対して嫌なイメージがついている子は特に時間がかかります。そのため、練習する側(ご家族)の根気が続かずに諦めてしまうパターンも多いように感じます。
普段のスキンシップの中に歯磨きの練習を織り交ぜて行うことで愛猫との良好な関係づく りにも繋がります。
猫の歯磨き練習を失敗せずに行うためには、ご家族も猫もリラックスした環境でお互いに 練習を楽しみながら行うことがとても大切なポイントです。
歯磨きの練習方法 
歯磨きの練習には様々なメリットがあります。
顔周り、口周りを嫌がらずに触れるようになることでお家での健康チェックや獣医師による歯科検診や顔周りの診察がスムーズになります。それだけでなく顔周り、口周りを触ることに対するストレスを軽減することができます。
顔や口周りを触る前に手を見せた時の猫の反応を見ます。
手に怖がったり、警戒する様子がある場合は手に対して慣れる練習が必要になります。
手の平からおやつをあげたり、手を見せてからご褒美をあげることで手に対するイメージを良くしていきましょう。
手を見せる時は猫が怖がらない距離から始めるようにし、少しずつ近づけていってください。


まずは触ることに慣れてもらうために、ご褒美をあげながら顔や口を触ります。
触られることに慣れてきたら、顔や口を触ってから褒めてご褒美の順で練習をし、触られる事=嬉しいこと」とイメージ付けていきます。
練習中は顔周りの日常的なケア(目ヤニ取り、耳掃除、口を拭くなど)も楽しくご褒美を使いながら行うようにしましょう。





顔周り、口周りを嫌がらずに触れるようになったら唇をめくっていきます。
いきなりめくらず、顔を撫でながらさりげなく唇をめくって嫌がらずにめくれたら褒めてご褒美をあげます。





唇がめくれるようになったら歯を指で触っていきます。
何事もいきなり始めるとびっくりしてしまうのでまずは顔を撫でながら唇をめくり、一瞬だけ指で歯を触り、嫌がらずに出来たら褒めてご褒美をあげます。





次は歯ブラシ自体に慣れる練習です。
練習方法は色々あります。
ご飯の横に歯ブラシを置く
いつでも見える環境に歯ブラシを
置くことで警戒心を取り除いていきます。
好みの歯磨きジェルやペーストをつける
歯ブラシのヘッドに好みの歯磨きジェルやペ
ーストをつけて舐めさせることで歯ブラシは
怖くないものと教えていきます。





歯ブラシ自体に慣れたら顔周りをブラッシングしてあげましょう。
猫は猫同士で顔を舐めグルーミングしあいます。その時の舌のザラザラとした感触が歯ブラシと似てると言われています。
顔を撫でながらブラッシングをし、気持ちよさそうにしていたら褒めてご褒美をあげます。





歯ブラシで顔周りをブラッシングができるようになったらまずは一番練習しやすい犬歯から始めていきます。
顔回りをブラッシングをしながら唇をめくり歯ブラシを歯に当て、嫌がらずにできたら褒めてご褒美をあげます。歯ブラシが歯に当たったらいいことがあると教えていきます。





最後は磨く練習をしていきます。
まずは歯ブラシを歯に当てたときに1往復だけ磨いてみます。
嫌がらずに出来たら褒めてご褒美をあげ、磨くといいことがあると教えていきます。
1本磨けるようになったら少しずつ磨ける本数を増やしていきます。



歯磨き練習を失敗しやすい人はどんな人? 
必死になりやすい人
必死になりすぎて嫌がっていることに気づかず無理やり練習を続けてしまうことが有ります。
イライラしやすい人、せっかちな人
イライラや焦りや必死さは猫が察知し、警戒心、恐怖心に変わることが有ります。
歯磨き練習を成功させるポイント 
嫌がったら止めて、できたらご褒美をあげて褒める

猫ちゃんのペースでゆっくり練習する
少し慣れてきたからと言ってご家族のペースで練習をすすめないようにしてください。 急いで練習する必要はありません。
最後に 
歯磨きの練習のお話をたくさんさせていただきましたが、すべての子が歯ブラシで磨けるようになることがゴールではありません。
猫の性格と練習の仕方によってはいくら練習しても歯ブラシで磨けない子もいます。
その子に合ったケア方法で一生涯続けることが一番大事なことになりますのであきらめずにまずは顔・口周りを触る練習から始めてみてください。
困ったことがあればいつでも動物病院にご相談下さい。




































