症状から見つける猫の病気「多飲多尿、尿が出にくい、排尿時の痛みなど…泌尿器系の病気」
排泄は食べることと同じく生きていく上で大切な営みです。ゆえに、「尿の回数や量が多い」「尿が出にくい」「尿に何か混じっている」「排泄時に痛みがあるよう」など排泄にかかわる異常から病気を発見することがあります。猫には泌尿器系の病気がよく見られるので、泌尿器に関連する症状から考えられる病気を知っておきましょう。
排泄は食べることと同じく生きていく上で大切な営みです。ゆえに、「尿の回数や量が多い」「尿が出にくい」「尿に何か混じっている」「排泄時に痛みがあるよう」など排泄にかかわる異常から病気を発見することがあります。猫には泌尿器系の病気がよく見られるので、泌尿器に関連する症状から考えられる病気を知っておきましょう。
目次
膀胱炎
尿石症(尿路結石症)
猫下部尿路疾患(FLUTD)/猫泌尿器症候群(FUS)
慢性腎臓病(慢性腎不全)
猫には泌尿器系の病気が多いと言われますが、それは“イエネコ”の起源に関係があるようです。
私たちが目にするイエネコのルーツは、中東に生息したリビアヤマネコにあるとされています(*1)。そのネコたちは半砂漠地帯という水に乏しい環境に暮らしたことから、水分をあまり摂らずとも体内の水分を利用することで濃縮した尿を排出するような体になっており、そのことがひいては現代のイエネコにおいても腎臓に負担をかけ、結石もできやすくなっていると考えられています。
ですから、猫では泌尿器系の病気には気をつけたいものですが、その症状としては主に以下のようなものがあります。
以上のような様子が見られた時には、何らかの泌尿器系の病気に罹っているのもかもしれません。では、その病気にはどんなものがあるのか次に見ていきましょう。
「泌尿器」とは尿の排泄に関連する器官を指し、「腎臓」「尿管」「膀胱」「尿道」が含まれます。
膀胱が炎症を起こした状態を膀胱炎と言います。
膀胱炎は「細菌性膀胱炎」と「無菌性膀胱炎(突発性膀胱炎)」とに大別できますが、細菌性膀胱炎は大腸菌やブドウ球菌、レンサ球菌、パスツレラ菌などの細菌類が原因となります。
一方、無菌性膀胱炎は細菌とは関係なく、ストレスや尿石症、腫瘍、内分泌疾患、また飲水量や排尿回数の減少などが関係すると考えられています。
犬では細菌性膀胱炎が多いのに対し、猫では無菌性膀胱炎が多く見られます。
膀胱炎では主に次のような症状が見られます。
原因によって治療法は違ってきますが、細菌が原因の場合は抗生剤や消炎剤などを投与します。
尿石症や内分泌疾患、腫瘍など他の病気が原因と考えられるのであれば、根本の病気の治療が必要です。
また、ストレスが原因と思われる場合にはストレス要因を極力遠ざけるよう努めつつ、出ている症状に合わせた対症療法を行います。
その他、それぞれに発熱があるならば解熱剤、血尿には止血剤など状況に応じた薬剤が選択されます。 膀胱炎は再発することがあるので、膀胱粘膜が良い状態に戻るまで尿検査を行いつつ、経過を確認する必要があります。
腎臓~尿管~膀胱~尿道に至る尿路のいずれかに結石ができた状態を尿石症(尿路結石症)と言います。
その中で腎臓にできた場合は腎結石、尿管にできたものを尿管結石、膀胱では膀胱結石、尿道の場合は尿道結石と呼んでいます。
なぜ結石ができるのか、その原因としては以下のようなことが挙げられます。
飲水量の不足や尿の量・回数の減少によって尿が濃縮されると結石を構成する成分自体も濃縮されることから結石ができやすくなります。
また、食事中の成分や細菌感染などによって尿のpHバランスが崩れると同様に結石ができやすくなってしまいます。
結石にはその結晶成分によってストルバイト結石、シュウ酸カルシウム結石、尿酸塩結石、シスチン結石などがあり、犬や猫ではストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石がもっとも多く、およそ9割を占めますが、尿のpHがアルカリ性に傾くとストルバイト結石が、酸性に傾くとシュウ酸カルシウム結石ができやすいと言われています。
ちなみに、ストルバイト結石は比較的若い猫に多く、シュウ酸カルシウム結石は中年期~高齢期の猫に多く見られます。
尿石症では結石ができた場所によって症状に少々違いがあり、腎結石では症状らしいものがあまり見られないこともあるのですが、尿石症としては主に以下のような症状が見られるようになります。
特に、尿管や尿道が閉塞して尿が出ない場合は急性の腎障害を起こし、尿毒症に陥ると危険な状態となるため、まる一日尿が出ないようであればすぐに動物病院を受診するようお勧めします。
尿石症の治療には食事療法と薬物療法、手術があります。
食事療法はストルバイト結石のような溶かすことが可能な結石に対して採用されますが、結石を溶かす、またはできにくくすることを目的とした療法食を用います。
食べ物なので体に優しい反面、当の猫が食べない場合や、結果が出るまで時間がかかり、その間は症状が続く可能性がある、溶かすことができないシュウ酸カルシウム結石のようなタイプには使えないというデメリットもあります。
薬物療法は、細菌感染や炎症がある場合に抗生剤やステロイド剤、鎮痛剤、尿量を増やす目的の点滴など状況に合わせて選択されます。
また、食事療法や薬物療法では反応しない場合や結石が大きい場合などは手術が選択肢となり、状況に応じて患部を切開、またはカテーテルを用いて結石を取り出したり、尿道を広げたりします。
猫下部尿路疾患(Feline lower urinary tract disease / FLUTD)は以前には猫泌尿器症候群(Feline Urologic Syndrome / FUS)と呼ばれていましたが、尿路の中でも膀胱~尿道口に至る下部の尿路組織に障害が生じた状態を指し、一つの病名というわけではなく、尿石症や膀胱炎、尿道炎などが含まれます。
したがって、原因はそれぞれの病気の原因に準じます。
猫下部尿路疾患はどんな猫でも発症するリスクはありますが、比較的若い猫に多く見られ、病気が複数重なっていることが多いようです。
猫下部尿路疾患の症状には以下のようなものが見られます。
尿石症や膀胱炎など原因となっている病気それぞれの治療を行いますが、尿道が閉塞を起こして尿が出ない場合は尿道にカテーテルを挿入し、尿を排出させる処置が必要になります。
また、脱水がある時は点滴を、細菌感染があるのであれば抗生剤の投与など状況に合わせた治療を行います。
尿石症の項で述べたように、尿が出ない場合は急性の腎障害を起こし、尿毒症に陥って命にかかわる状態になることがあるので、猫下部尿路疾患では早めの治療開始が望まれます。さらに、猫下部尿路疾患は再発することが多いので、治療後も飲水量や食事、ストレスなどに配慮した生活を心がけましょう。
慢性腎臓病(慢性腎不全)は、3ヶ月以上にわたって腎臓の機能がゆっくりと低下していき、やがて腎不全に至る病気です。
誘因となるものには細菌やウイルスの感染、炎症性疾患、免疫性疾患、先天性疾患、急性の腎障害、尿路閉塞、歯周病、中毒、腫瘍、外傷などいろいろありますが、加齢にともなって腎臓が持続的にダメージを受けていきます。
そのため、中年期~高齢期での発症が多いとされます。
そもそも、なぜ猫には腎不全が多いのか?という疑問については、東京大学大学院医学系研究科の研究チームが血液中のAIM(apoptosis inhibitor of macrophage, CD5L)と呼ばれるタンパク質が猫ではうまく機能しないことを突き止めています(2016年)(*2)。
腎臓の機能が正常に働かなくなってくると尿細管(腎臓の中にある尿の通り道)に死んだ細胞が詰まっていきますが、血液中に存在するAIMはそれを察知すると尿中に移行して掃除する役目を担っているそうです。
通常はその働きによって多少ダメージを受けたとしても腎臓の機能は改善されていくところ、猫のAIMはなぜかうまく働かないため、腎臓が回復しにくくなっているようです。
慢性腎臓病(慢性腎不全)は4つのステージに分けられますが、初期には症状らしいものがほとんど見られず、飼い主さんが愛猫の腎機能の低下に気づくことは難しいと思われます。
やがて、次のような症状が見られるようになってきます。
そして、重度となり、尿毒症を起こすとさらに以下のような症状も見られるようになってきます。
壊れてしまった腎臓は元に戻すことができないため、慢性腎臓病ではいかに進行を遅らせるかに重点が置かれます。
タンパク質やリン、ナトリウムなどを制限した食事療法が主となり、その他、水分補給のための点滴、リンの吸収を抑制するリン吸着剤、胃炎を抑える胃薬、毒素を吸着するための活性炭、貧血に対応するエリスロポエチン注射(ホルモン剤)、血圧が高い場合は血圧を下げる薬剤などが必要に応じて用いられます。
場合によっては透析や再生療法(幹細胞療法)(*3)が取り入れられることもありますが、再生療法は慢性腎臓病のステージ2~3(軽度~中度)に対して行われます。
(*3)再生医療(幹細胞療法)=健康な個体から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする個体の体内に投与することで自然治癒力や自己修復能力を活性化させ、主に炎症の抑制を期待した療法のこと。
寒くなると必然的に飲水量が減り、ただでさえ水を飲む意識の低い猫ではより尿が濃縮されて泌尿器系の病気に罹りやすくなります。
逆に、多飲多尿の症状が出ている場合には気づきやすくなるとも言えるわけです。
いずれにしても愛猫の飲水量が少ないと気になる時には、ウェットタイプのフードを与える、ドライフードをお湯でふやかすなどして少しでも水分を摂取できるようにするといいでしょう。
併せて、水の温度や器の材質・形状、器の置き場所、器の数なども見直す必要があるかもしれません。特に、慢性腎臓病は症状に気づいた時にはすでに腎臓の機能の多くが失われていることがあるので、水分管理をしつつ、早めに症状に気づけるよう努めましょう。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 Driscoll CA, Clutton-Brock J, Kitchener AC, O’Brien SJ. The Taming of the cat. Genetic and archaeological findings hint that wildcats became housecats earlier—and in a different place—than previously thought. Sci Am. 2009 Jun;300(6):68-75. PMID: 19485091; PMCID: PMC5790555.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5790555/ *2 東京大学、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、宮崎徹「ネコに腎不全が多発する原因を究明 ―ネコではAIMが急性腎不全治癒に機能していない―」
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20161012.pdf *3 動物再生医療技術研究組合「飼い主様向け – 再生医療(幹細胞療法)とは」
https://parmcip.jp/owner/
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。