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症状から見つける犬の病気「水をたくさん飲む」

症状から見つける犬の病気「水をたくさん飲む」

犬がいつもより水をたくさん飲む時は喉の渇き、食べ物による影響、ストレスなど理由はいろいろありますが、時にその裏に病気が隠れていることもあります。症状の一つとしての「多飲」、それに伴う「多尿」。病気に気づくきっかけでもあり、見逃したくないサインです。この記事では、そんな「多飲・多尿」が症状として出る病気にはどんなものがあるのか代表的な病気を簡単に解説します。

1.子宮蓄膿症

原因:

子宮蓄膿症とは、子宮に細菌感染が起こり、子宮内膜が腫れ、膿が溜まってしまうメス犬特有の病気です。通常、メス犬の膣には大腸菌やブドウ球菌、レンサ球菌、サルモネラ菌などの常在菌がいますが、健康体であれば免疫の力によって感染を起こすことはありません。

しかし、発情中は子宮に通じる子宮頚管が緩んで細菌が子宮内に侵入しやすくなるのに加え、発情終了頃からは子宮内の免疫力も低下するため細菌感染が起こりやすくなってしまうのです。

この病気は発情終了後~3ヶ月の間に発症しやすく、出産経験がない、または何年間も子犬を産んでいない高齢犬に多いと言われますが、若い犬でも発症することがあり、多くは5歳以降のメス犬に見られます。

症状:

子宮蓄膿症の初期には症状らしいものは見られないことが多いのですが、膿が子宮内に溜まってくると徐々に次のような症状が見られるようになります。

  • 多飲多尿
  • 元気消失
  • 食欲減退
  • 吐き気、嘔吐
  • 発熱
  • 陰部の腫れ
  • 膿の排出(膿が外に出てこないケースもある)
  • 陰部を気にして舐める
  • 腹部の膨らみ など

子宮蓄膿症で注意が必要なのは、治療が遅れると敗血症になってショック状態に陥ることがある他、陰部から膿が出てこないケースの場合、膿が充満して子宮が破裂すると漏れ出た細菌によって腹膜炎を起こし、命の危険に晒されることがある点です。

したがって、子宮蓄膿症の放置は禁忌です。

治療:

子宮蓄膿症の治療は子宮と卵巣の摘出手術が最善とされています。ただし、状態が悪い場合は予後に心配も残ります。
他に、抗生剤や膿を排出させるための薬類を用いた内科的治療もありますが、膿がうまく排出されない、再発することがあるなどのデメリットがあります。

予防:

早期に避妊手術を受けておくことは子宮蓄膿症の予防となります。

2.慢性腎臓病(慢性腎不全)

慢性腎臓病(慢性腎不全)

原因:

慢性腎臓病(慢性腎不全)は、3ヶ月以上にわたって腎機能がゆっくりと低下していき、やがて腎不全に至る病気です。

誘因となるものには細菌やウイルスの感染、炎症性疾患、免疫性疾患、先天性疾患、急性腎臓病、尿路閉塞、歯周病、中毒、腫瘍、外傷などいろいろありますが、加齢にともなって腎臓が持続的にダメージを受けていきます。

そのため、高齢期での発症が多いとされます。

症状:

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS / The International Renal Interest Society)では慢性腎臓病の状態を4つのステージに分けています(*1)

ステージ1

初期では症状らしいものはほとんど見られず、飼い主さんが愛犬の腎機能の低下に気づくのは難しいでしょう。

ステージ2

依然として症状らしいものがないか、もしくは軽い多飲多尿、食欲不振、なんとなく元気がないといった症状が見られる程度です。

しかし、この段階で腎臓がすでに4分の3ほどの機能を失っているのですが、それでもやっと症状らしいものが出るかどうかという点が慢性腎臓病の怖いところです。

ステージ3

やがてステージ3になるとはっきりとした症状が見られるようになってきます。

  • 多飲多尿
  • 脱水
  • 貧血
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 血尿
  • 口内炎
  • 体重減少 など

ステージ4

ステージ4では腎機能が5%程度しか残っておらず、末期の腎不全の状態となり、尿毒症を起こす危険が高まります。その場合には次のような症状が見られます。

  • 食欲減退
  • 口臭(アンモニア臭)
  • 意識障害
  • 呼吸障害
  • 重度の脱水
  • 痙攣 など

治療:

壊れてしまった腎臓は元に戻すことができないため、慢性腎臓病は完治を望むことはできず、いかに進行を遅らせるかに重点が置かれます。

タンパク質やリン、ナトリウムなどを制限した食事療法が主となりますが、その他、犬の状態によって水分補給のための点滴、リンの吸収を抑制するリン吸着剤、胃炎を抑える胃薬、毒素を吸着するための活性炭、貧血に対応するエリスロポエチン注射(ホルモン剤)などが必要に応じて用いられます。

場合によっては透析が行われたり、再生療法(幹細胞療法)(*2)が取り入れられたりすることもあります。

注:再生医療(幹細胞療法)=健康体の犬から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする犬の体内に投与することで自然治癒力や自己修復能力を活性化させ、主に炎症の抑制を期待した療法のこと。

予防:

残念ながら慢性腎臓病を予防するのは難しいと言わざるを得ませんが、定期健康診断を受けることで早期発見早期治療に努めることがリスク軽減にはつながることでしょう。

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)によれば、犬での慢性腎臓病の有病率は0.5~1.0%と推定されるそうですが、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ボクサー、ブル・テリア、ミニチュア・シュナウザー、シー・ズー、ビーグル、ゴールデン・レトリーバーなどリスクのある犬種がいるとのことなので、そうした犬では日頃の飲水量や尿量などより気をつけたいものです(*3)

3.副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

原因:

副腎は腎臓のすぐ近くにある小さな臓器で、外側の皮質と内側の髄質で構成されています。副腎の皮質からはいくつかのホルモンが分泌されており、そのうちのコルチゾールと呼ばれるホルモンが過剰に分泌されることで様々な影響が出るのが副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)です。犬では中年期以降で多く見られます。

なぜコルチゾールの過剰分泌が起こるのか、その原因には以下があります。

脳の下垂体の腫瘍

コルチゾールは脳の下垂体から分泌されるACTHという別のホルモンからの指令を受けて分泌されるため、下垂体に異常が起こるとコルチゾールの分泌に影響します。

副腎の腫瘍

肝心の副腎に腫瘍ができることでACTHからの制御も効かず、コルチゾールの過剰分泌が起こってしまいます。

医原性

ステロイド剤の長期または過剰投与によって副腎皮質機能亢進症を発症することがあります。

症状:

コルチゾールはストレスを感じた時に分泌されるホルモンで、別名「ストレスホルモン」と呼ばれますが、そればかりでなく糖やタンパク質、脂肪をはじめとした栄養分の代謝、いず抗炎症作用、免疫抑制作用など生体にとって欠かせない大切な働きをしています。

そのため、コルチゾールが乱れることでいろいろな症状が見られるようになります。

  • 多飲多尿
  • 食欲の増加
  • お腹が膨れる
  • 毛艶が悪くなる
  • 左右対称性の脱毛
  • 皮膚の色素沈着
  • 皮膚が薄くなる
  • 筋肉の萎縮
  • 荒い呼吸 など

進行すると糖尿病を併発することがある他、下垂体の腫瘍では中枢神経を圧迫して認知症に似たような神経症状が出ることもあります。

治療:

治療は犬の状況により、コルチゾールをコントロールする内服薬の投与、腫瘍の場合は手術や放射線治療などが選択肢となります。

予防:

医原性以外では副腎皮質機能亢進症の予防は難しいため、定期健康診断を受けて早期発見早期治療に努めるのが一番でしょう。

4.副腎皮質機能低下症(アジソン病)

副腎皮質機能低下症(アジソン病)

原因:

副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、前出の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)とは逆に副腎皮質から分泌されるホルモンが低下してしまうことで発症します。

副腎皮質ホルモンには糖質コルチコイド(グルココルチコイド)や鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)、性ホルモンがあり、糖質コルチコイドは栄養分の代謝や免疫、ストレスなどに関係し、代表的なホルモンが副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)で出てきたコルチゾールです。

一方、糖質コルチコイドは水分や電解質、血圧などの調整を行い、代表的ホルモンはアルドステロンとなります。副腎皮質機能低下症(アジソン病)ではこれらのホルモンが低下してしまうのですが、その原因としては副腎自体に異常がある場合(原発性)と、他の器官の異常から二次的に発生する場合(二次性)とがあります。

それぞれ次のような誘因があります。

①原発性

  • 自己免疫疾患
  • がん
  • 感染症  など

②二次性

  • 下垂体または視床下部の腫瘍、炎症

この病気は犬では少ないようですが、原発性では幼年期~中年期のメス犬に多く発症が見られます。

症状:

副腎皮質機能低下症(アジソン病)では主に次のような症状が見られます。

  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢

さらに進行すると以下のような症状も見られるようになります。

  • 多飲多尿
  • 血便
  • 吐血
  • 脱水
  • 震え、痙攣
  • 虚脱
  • 急に倒れる  など

これは副腎クリーゼと呼ばれるたいへん危険な状態で、緊急の治療を必要とします。

治療:

副腎皮質機能低下症(アジソン病)は副腎皮質のホルモンが足りなくなる病気なので、糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドのホルモンを補充する内服薬や注射を用いた、内科的治療が行われます。

投与量が多いと逆に医原性の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を発症してしまうことがあるので、定期的に血液検査をしつつ治療を続けていくことになります。
その他、ナトリウムやカリウムをコントロールした食事管理も大切となります。

また、この病気は何らかのストレスを受けた時に症状が強く出る傾向にあるので、極力ストレスを回避できるよう気配りすることも必要です。

予防:

残念ながら副腎皮質機能低下症(アジソン病)を予防するのは難しく、定期健康診断を受けて早期発見早期治療に努めるしかありません。

5.糖尿病

原因:

血中の糖(ブドウ糖)は体の細胞にとって大切なエネルギー源となりますが、本来は膵臓から分泌されるインスリンの働きによって過不足がないようコントロールされています。

ところが、インスリンの分泌や働きに障害が起きると糖を一定に保てなくなり、慢性的な高血糖状態となって糖尿病を発症します。糖尿病にはⅠ型とⅡ型の2つのタイプがあり、犬ではⅠ型が多いと言われ、中年期以降で多く発症が見られます。

原因・要因についてははっきりと解明されていないものの、それぞれ以下のような原因・要因が考えられています。

Ⅰ型(インスリン欠乏性) 膵臓の機能低下によるインスリン量の不足による。
原因・要因=遺伝、膵臓疾患、免疫異常など
Ⅱ型(インスリン抵抗性) 膵臓やインスリンには問題ないが、インスリンに対する体の反応に異常がある。
原因・要因=ホルモンが関係しており、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)のようなホルモン性疾患、ステロイド剤やプロジェステロン剤の長期使用、発情後、妊娠中など

症状:

犬の糖尿病では次のような症状が見られます。

初期

  • 多飲多尿
  • 食べるにもかかわらず体重減少

進行後、有害物質であるケトン体が増えると糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる危険な状態になり、症状が変化してきます。

  • 食欲不振
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 元気消失
  • 脱水
  • 衰弱
  • 昏睡  など

また、糖尿病では白内障や腎臓疾患、肝臓疾患、感染症など合併症を引き起こすことがある点には注意が必要です。

治療:

糖尿病の治療ではインスリン製剤の注射、および食事療法が基本となり、定期的に血糖値の確認を行います。糖尿病性ケトアシドーシスに陥っている場合には、状態に合わせた投薬や点滴などの対症療法が必要になります。また、基礎疾患がある場合は、その治療も同時に行います。

予防:

糖尿病では肥満、運動不足、ストレスなどはリスクになると言われるので、日頃から適度な運動、肥満予防、ストレス回避を心がけることは予防につながるでしょう。
また、糖尿病を併発しやすい基礎疾患がある場合は、その病気の治療に専念することも大事です。

6.犬の正常な飲水量

最後に、犬にとっての正常な飲水量、および尿の量の目安について記しておきましょう。

  正常 異常
一日の飲水量 体重1kgあたり20~90ml 体重1kgあたり100mlを超えた場合
一日の尿の量 体重1kgあたり20~45ml 体重1kgあたり100mlを超えた場合

(*4)公益社団法人 埼玉県獣医師会「水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!」より

特に尿の量を量るのは難しいと思うかもしれませんが、予めトイレシートの重さを調べておき、尿が出た後に重さを量り、シート分を引くことでおおよその尿量を知ることができますし、近年ではペットの検尿用採尿シートも販売されているので活用してみるのもいいでしょう。

検尿用採尿シート

⇒検尿用採尿シート
https://www.peppynet.com/shop/item/id/865001?srsltid=AfmBOoousFXWtzJzN9MLiWGAkRavKA0lzAVhliPT34KXHPLZbEAaICSC

暑い時期や遊んだ後、興奮した時、食後、寝起きなど犬が水を飲んだり、おしっこをしたりする機会は日々いろいろありますが、「いつもとは違う」と気づけるのはやはり飼い主さんの観察眼があってこそです。

それとは別に、異変があった時には診察時の貴重な情報にもなるので、毎日愛犬の食事内容や食べる時の様子、尿や便の回数や色、形、元気の度合い、出来事など記録に残しておくことをお勧めします。

生命が生きていくには欠かせない「水」、それが時には病気を知らせてくれるサインにもなることを頭の片隅に置きつつ、どうぞ愛犬との健やかな日々をお過ごしください。

(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)

【参照資料】
*1 IRIS / The International Renal Interest Society「IRIS Guidelines」
http://www.iris-kidney.com/guidelines/index.html

*2 動物再生医療技術研究組合「飼い主様向け – 再生医療(幹細胞療法)とは」
https://parmcip.jp/owner/

*3 IRIS / The International Renal Interest Society「CKD Risk Factors」
http://iris-kidney.com/education/education/risk_factors.html
*4 公益社団法人 埼玉県獣医師会「水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!」
https://www.saitama-vma.org/topics/%E6%B0%B4%E3%81%AE%E9%A3%B2%E3%81%BF%E9%81%8E%E3%81%8E%E3%81%AF%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%8B%E3%82%82%E3%81%97%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%EF%BC%81/

監修いただいたのは…

2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生

数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。

成城こばやし動物病院 獣医師 高柳 かれん先生

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