犬種グループ別に見る気をつけたい病気②
一つの種でありながら数百という種類がある「犬」は、原産地や働く分野、歴史、ビジュアル、サイズ、特徴などによっていくつかのグループに分けることができます。そして、その犬種グループによって比較的見られがちな病気もあるので、愛犬の健康を守るために予め知っておくといいでしょう。
一つの種でありながら数百という種類がある「犬」は、原産地や働く分野、歴史、ビジュアル、サイズ、特徴などによっていくつかのグループに分けることができます。そして、その犬種グループによって比較的見られがちな病気もあるので、愛犬の健康を守るために予め知っておくといいでしょう。
犬種:
パピヨン、ポメラニアン、マルチーズ、プードル(トイ)、チワワ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、ビション・フリーゼなど
小型愛玩犬の場合は次のような病気にリスクがあります。
膝蓋骨脱臼は“膝のお皿”にあたる膝蓋骨が、本来収まっているはずの大腿骨の溝(滑車溝)から外れてしまうことで発症します。
先天性と後天性のものに分けることができますが、原因は一つと言うよりも、複数の要因が絡み合って起こることが多いようです。
先天性の原因 | 後天性の原因 |
---|---|
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|
軽度の場合は症状らしいものが見られないこともありますが、一般的な症状には以下のようなものがあります。
さらに重度になるにつれ、次のような様子も見られるようになります。
なお、膝蓋骨脱臼には脱臼する方向によって後肢の内側にずれる「内方脱臼」と、後肢の外側にずれる「外方脱臼」とがあり、小型犬では内方脱臼が多く、大型犬と比較してその発症率は12倍高いと言われています(*1, 2, 3)。
膝蓋骨脱臼は状態によって軽度のものから重度のものまで4つのグレードに分けられますが、軽度の場合は鎮痛剤や抗炎症剤などの投薬、体重管理、環境改善、運動制限、リハビリテーションなどを組み合わせた保存的療法で対処が可能です。
一方、グレードにかかわらず症状が強い場合や重度の場合は、骨を再形成したり、軟部組織を再建したりする手術が選択肢となります。
先天性のケースが多いため、膝蓋骨脱臼を予防することはなかなか難しいですが、体重や環境も発症に関係するため、以下のようなことはリスク軽減につながるでしょう。
また、膝蓋骨脱臼は進行する病気で、放置すると頻繁に脱臼するようになり、そのことによって歩行障害や関節炎、前十字靭帯断裂などにつながることがあるので、疑わしい様子が見られた時には早めに動物病院を受診しましょう。
心臓の右心房と右心室の間には三尖弁と呼ばれる弁が、左心房と左心室の間には僧帽弁と呼ばれる弁があり、それぞれ血液の逆流を防ぐ働きをしています。
僧帽弁閉鎖不全症では加齢による僧帽弁の変性、弁を支える腱の緩みや断裂、心内膜炎などが原因となって僧帽弁に異常が生じ、血液の逆流が起こってしまいます。
血液の逆流によって全身に回るはずの血液量が減ることから、次のような症状が見られるようになります。
重度になると、
などに陥り、最悪の場合は死に至ることがあります。
初期でごく軽度の場合は積極的な治療を必要としませんが、基本的には強心剤や血管拡張剤、利尿剤などを用いた内科的治療が主となります。状況によっては僧帽弁を再建する手術が選択肢となることもありますが、心臓の手術ゆえにリスクも伴います。
この心臓疾患は遺伝との関係も考えられており、残念ながら有効な予防法はありませんが、心臓に必要以上の負担をかけないよう肥満予防をし、定期健康診断を受けて早期発見早期治療を心がけることはリスク軽減につながるでしょう。
通常、僧帽弁閉鎖不全症は中年期以降での発症が多いと言われるものの、特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでは1歳で33%、4歳以上で60%の犬に僧帽弁閉鎖不全症が見られるとのことなので(*4)、リスクのある犬種では若い頃から心臓の検査を受けておくことをお勧めします。
歯周病の原因となるのは歯垢の中にいる細菌で、その細菌が歯周組織に入り込んでしまうことで歯周病を発症します。初期には軽度の歯肉炎程度ですが、進行すると歯周炎へと発展します。一般的に言う歯周病とは、この歯肉炎と歯周炎の両方を含んだ総称です。
軽度では歯垢の付着や歯肉の赤みなどが見られますが、進行するにつれて、
などが見られるようになります。
重度になると歯周ポケットから膿が漏れ出る歯槽膿漏の状態となってしまいます。
さらに厄介なことには、歯周病の細菌は骨や皮膚まで溶かしてしまうため、次のような問題を引き起こすことがあります。
特に小型犬は意外にも顎に対する歯のサイズは大きめであること、歯の底(歯根底部)と下顎の底とが近い部分にあることから、歯の周囲の骨が細菌によって溶けて薄くなると少しの衝撃で顎を骨折する場合もあることには注意が必要です。
また、歯周病の細菌が血流に乗って全身に回ると心臓疾患や肝臓疾患、腎臓疾患などいろいろな病気に悪影響を与えてしまうことがあるため、たかが歯の問題と軽く見過ごすことはできません。
歯周病の治療には歯垢・歯石の除去と、外科的治療(炎症によってダメージを受けた歯周組織を再生する歯周外科治療、および抜歯)があります。
重度の歯周病では無理に歯を残すよりも、犬のその後の生活を考えれば、歯周組織を少しでも良い状態で保つほうが良いと判断され、抜歯が行われることがあります。
歯周病では子犬の頃から習慣的に歯のケアをすることが何よりの予防となるでしょう。
特に小型犬は歯と歯の間が狭い上に、乳歯遺残が起こりやすく、その分、歯の汚れが溜まりやすいので歯周病のリスクが高くなります。
子犬の頃から歯の生え方や数などチェックするとともに、歯のケアを怠らないようにしましょう。
犬種:
セント・バーナード、ボルゾイ、アフガン・ハウンド、グレート・デーン、グレート・ピレニーズ、ジャーマン・シェパード・ドッグなど
大型・超大型犬では次のような病気に気をつけましょう。
犬の正常な股関節は、大腿骨(太腿の骨)の上部先端の丸くなった部分(大腿骨頭)が骨盤側の寛骨臼と呼ばれる受け皿のような部分にぴったりはまることで、後肢がスムーズに動くようになっています。
ところが、成長期の段階でこの結合に緩みが生じると大腿骨頭や寛骨臼の変形が生じ、股関節がうまく形成されなくなります。これを股関節形成不全と言いますが、原因としては遺伝的要因が70%、環境的要因(肥満や滑りやすい床など)が30%と言われています(*5)。
股関節の緩みによって痛みが出ることから、以下のような様子が見られるようになります。
進行すると関節が変形する変形性関節炎を伴うことがあります。
なお、この病気は生後1年未満での発症が多いのですが、股関節に異常はあるものの、数年経っても症状らしいものが見られない場合もあります。
治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療では鎮痛剤や抗炎症剤、軟骨を保護する薬、サプリメントなどが処方され、併せて温熱湿布やレーザー、マッサージ、運動療法などのリハビリテーションが取り入れられます。
同時に、体重管理や運動制限が必要になります。
一方、外科的治療では、股関節はそのままに温存しながら問題となる股関節の部分を切るなどして矯正をする「予防的治療法」と、人工股関節と置き換える、障害を起こしている関節部分を切除してしまうなどの「救済的治療法」があります。
股関節形成不全は肥満や生活環境も関係するため、次のようなことは予防の一環となるでしょう。
「胃拡張」とは、胃にガス(飲み込んだ空気、発酵したガス)や液体、食べた食事などが充満し、大きく膨れてしまう状態のことを言います。
この「胃拡張」の状態で運動したり、何らかの力が加わったりした際に、胃の内容物の重さや大型犬特有の胸の深さなどが関係して胃の出入口がクルっと回転してすることがありますが、これはたいへん危険な状態です。
明確な原因はわかっておらず、胃の運動異常なのではないかと考えられていますが、誘因となり得るものはいくつか指摘されています。
症状には次のようなものが見られます。
胃捻転へと進行すると血液循環が悪くなることでショック状態に陥るのに加え、胃壁や脾臓が壊死を起こすこともあり、緊急の処置が必要になります。
内科的治療として胃にチューブを挿入する、または針を刺すなどして胃の中のガスを排出し、同時にショック状態に対する点滴やステロイド剤、抗生剤の投与、不整脈がある場合には抗不整脈薬の投与などを行います。
また、すでに捻転を起こしている場合には外科的治療として緊急手術が必要となり、捻じれた胃を元に戻して固定する、胃壁が壊死しているならばその部分を切除する、脾臓が壊死している場合はその摘出、といった処置が行われます。
次のようなことは胃拡張・胃捻転症候群の予防につながるでしょう。
心臓は心筋(心臓の筋肉)の働きによってリズミカルに収縮・拡張しています。
その心筋が何らかの原因によって薄くなってしまい、機能に障害が生じると、心臓が肥大し、収縮率が弱まって血液をうまく送り出せなくなってしまいます。これを拡張型心筋症と言います。
はっきりした原因はわかっていないのですが、次のようなものが考えられています。
拡張型心筋症の初期には主に次のような症状が見られます。
徐々に進行して重篤化すると以下のような症状も見られるようになります。
最悪の場合は突然死に至ることがあります。
残念ながら完治を目指すことはできず、強心剤や血管拡張剤、利尿剤などの投薬とともに、運動制限や低ナトリウム食の食事療法による管理をしつつ生活することになります。その他、呼吸困難の症状がある場合には酸素吸入が、腹水や胸水が見られる場合にはその水を抜くなどの処置が必要になります。
拡張型心筋症は遺伝的素因が関係すると考えられているため予防は難しいですが、早期発見には定期的に健康診断を受けるのが一番でしょう。
一部の細胞の遺伝子が傷つき、異常な細胞が増殖していく病気が腫瘍・がんです。
腫瘍とがん、似たようなイメージながら、一般的には悪性腫瘍のことを「がん」と言っています。
なぜ細胞が傷ついてしまうのか、その誘因には次のようなものが考えられています。
腫瘍・がんは脳から内臓、骨、血液に至るまで様々な部位に発現しますが、犬で一般的な腫瘍・がんには肥満細胞腫、リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫、黒色腫(メラノーマ)、乳腺腫瘍などがあります。
ちなみに、イギリスの王立獣医大学が行った骨肉腫の研究によると、雑種犬と比較してレオンベルガーは56倍、グレート・デーンは34倍、ロットワイラーでは27倍、骨肉腫を発症する可能性が高かったそうです(*6)。
また、大型で体重が重く、脚が長い、または頭蓋骨が長い犬は骨肉腫のリスクが高いとしています(*6)。
腫瘍・がんは体のいたるところにできるため、それぞれ症状には違いがありますが、一般的に以下のような様子が見られた時には何らかの腫瘍・がんの兆候である可能性が考えられます。
犬の腫瘍・がんの治療では次の3つが基本となりますが、
1. 手術(腫瘍部分を切除)
2. 化学療法(抗がん剤やその他治療薬を使用)
3. 放射線療法(放射線の照射によってがん細胞の抑制や縮小を狙う療法)
この他に、
4. 免疫療法(免疫細胞を活性化してがんの縮小を狙う副作用の少ない療法)(*7)
5. 光線力学療法(光感受性物質を投与した後、レーザーをあてることでがん細胞の死滅を狙う体への負担が少ない療法)(*8)
などがあり、腫瘍・がんの種類や進行速度、ステージなどを考慮し、いくつかの治療法を組み合わせるなどしながら、犬の状況や飼い主さんの希望に合わせた治療が行われます。
腫瘍・がんの直接的な予防法はありませんが、以下のようなことは多少なりとも予防につながるでしょう。
犬種:
ダックスフンド、バセット・ハウンド、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ウェルシュ・コーギー・カーディガン、プチ・バセット・グリフォン・バンデーン、スカイ・テリアなど
長胴短脚系の犬種では次のような病気に気をつけましょう。
椎間板とは、背骨を構成する骨と骨の間にあるドーナツ状の軟らかい組織のことで、背骨が動く際にクッションの役目を果たし、背骨に強度と柔軟性をもたらしています。
この椎間板が硬くなる、裂ける、分厚くなるなど変性・変形を起こし、本来の位置から飛び出して脊髄の神経を圧迫してしまうのが椎間板ヘルニアです。
原因としては次のようなものが考えられていますが、複数の原因が絡み合っている場合もあります。
犬の椎間板ヘルニアでは次のような症状が見られます。
その他、椎間板ヘルニアにより脊髄が損傷して壊死を起こすと、「進行性脊髄軟化症」と呼ばれる状態になることがあり、この場合は治療法がなく命にかかわります。
なお、椎間板ヘルニアには「ハンセンⅠ型」と「ハンセンⅡ型」の2つのタイプがあり、ハンセンⅠ型は遺伝的素因が関係すると考えられ、若齢で発症することが多いのに対し、ハンセンⅡ型は加齢にともない数ヶ月~数年かけて椎間板の変性が進み、大型犬に多く見られます。
長胴短脚犬種では骨の成長に関連する線維芽細胞増殖因子4(FGF4)と呼ばれる遺伝子の変異があり、この変異体のコピーをもつ犬は脚が短くなりますが(軟骨ジストロフィー)、FGF4は同時に椎間板ヘルニアにおけるハンセンⅠ型のリスクを増加させると言われています(*9)。
椎間板ヘルニアは状態によって5つのグレードに分けられますが、治療には大きく内科的治療と外科的治療とがあり、軽度の場合は抗炎症剤や鎮痛剤、筋弛緩剤などを用いるとともに活動を制限して安静を保つようにします。
重度の場合は神経を圧迫している個所を取り除く手術が選択肢となります。
その他、針灸治療やレーザー治療、ハイドロセラピー、再生医療(幹細胞療法)(*10)などを取り入れている動物病院もあります。
注:再生医療(幹細胞療法)=健康体の犬から脂肪組織を採取し、体外で細胞培養をした後、治療を必要とする犬の体内に投与することで自然治癒力や自己修復能力を活性化させ、主に炎症の抑制を期待した療法のこと。
遺伝が関係する部分もあり、椎間板ヘルニアを予防するのはなかなか難しいですが、次のようなことは多少なりともリスク軽減につながることでしょう。
歯周病の原因となるのは歯垢の中にいる細菌で、その細菌が歯周組織に入り込んでしまうことで歯周病を発症します。初期には軽度の歯肉炎程度ですが、進行すると歯周炎へと発展します。一般的に言う歯周病とは、この歯肉炎と歯周炎の両方を含んだ総称です。
軽度では歯垢の付着や歯肉の赤みなどが見られますが、進行するにつれて、
などが見られるようになります。
重度になると歯周ポケットから膿が漏れ出る歯槽膿漏の状態となってしまいます。
さらに厄介なことには、歯周病の細菌は骨や皮膚まで溶かしてしまうため、次のような問題を引き起こすことがあります。
特に小型犬は意外にも顎に対する歯のサイズは大きめであること、歯の底(歯根底部)と下顎の底とが近い部分にあることから、歯の周囲の骨が細菌によって溶けて薄くなると少しの衝撃で顎を骨折する場合もあることには注意が必要です。
また、歯周病の細菌が血流に乗って全身に回ると心臓疾患や肝臓疾患、腎臓疾患などいろいろな病気に悪影響を与えてしまうことがあるため、たかが歯の問題と軽く見過ごすことはできません。
歯周病の治療には歯垢・歯石の除去と、外科的治療(炎症によってダメージを受けた歯周組織を再生する歯周外科治療、および抜歯)があります。
重度の歯周病では無理に歯を残すよりも、犬のその後の生活を考えれば、歯周組織を少しでも良い状態で保つほうが良いと判断され、抜歯が行われることがあります。
歯周病では子犬の頃から習慣的に歯のケアをすることが何よりの予防となるでしょう。
特に小型犬は歯と歯の間が狭い上に、乳歯遺残が起こりやすく、その分、歯の汚れが溜まりやすいので歯周病のリスクが高くなります。
子犬の頃から歯の生え方や数などチェックするとともに、歯のケアを怠らないようにしましょう。
犬種:
シー・ズー、ペキニーズ、フレンチ・ブルドッグ、ブルドッグ、ボストン・テリア、狆、パグ、ボクサー、ブリュッセル・グリフォン、プチ・ブラバンソン、ベルジアン・グリフォンなど
短頭種で気をつけたい病気には次のようなものがあります。
短頭種気道症候群とは、気道の構造異常により呼吸障害が出る病気の一群を指し、それには軟口蓋過長症や気管虚脱、気管低形成、狭窄性外鼻孔などが含まれます。
これらの病気の原因は短頭種独特の体形的な問題にあり、他の一般的な犬種に比べて気道が狭いことから呼吸器系のトラブルを起こしやすい傾向にあります。
軟口蓋過長症では口内の上顎上部の軟らかい部分(軟口蓋)が長過ぎることで呼吸器障害が起こり、気管虚脱では気管が潰れることから呼吸が苦しくなりますが、短頭種気道症候群の症状としては主に次のようなものが見られます。
重度になると以下のような症状が見られることもあります。
軽度の場合は運動制限、体重管理、室温湿度調整を行い、状況によっては気管拡張剤を利用しながら生活をすることも可能ですが、呼吸困難がある場合は鎮静剤やステロイド剤、酸素吸入などが必要になります。
犬の状態によっては、軟口蓋過長症であれば不必要に長い軟口蓋を切除する、狭窄性外鼻孔であれば狭い鼻の穴を広くするなどの手術が選択肢となります。
生まれながらの体形が問題となるため、予防法はありません。
短頭種は呼吸器系が弱く、熱中症になりやすいのですが、こういった呼吸器系のトラブルを抱えている犬ではなお熱中症になりやすいので、日頃から温度湿度の調整、肥満予防、過剰な運動は避ける、暑い時期の散歩は短くして涼しい時間帯に行くなどの配慮が必要になるでしょう。
短頭種は眼窩が浅く、眼球が丸く突出している犬種が多いため、眼のケガやドライアイ(乾性角結膜炎)、角膜潰瘍など眼のトラブルを起こしやすい傾向にあります。
ドライアイの場合は免疫異常、遺伝、先天的まぶたの構造異常、外傷、加齢、環境(乾燥や強風)などが原因となり、角膜潰瘍では外傷、眼に入った異物、眼瞼内反、逆さ睫毛、眼瞼腫瘍、ドライアイなどが原因となり得ます。
眼のトラブルにはいろいろありますが、ドライアイや角膜潰瘍での場合は主に以下のような症状が見られます。
ドライアイでは人工涙液の点眼薬が基本となり、角膜潰瘍では人工涙液の点眼薬の他、細菌感染を予防する抗生剤の点眼薬、潰瘍の悪化を防ぐための点眼薬などが用いられ、状態によっては手術が選択肢となる場合もあります。
原因が自己免疫異常や先天的なものである場合は予防のしようがありませんが、外傷が原因となる場合も多いので、日頃から愛犬の周囲に眼をケガしそうな物は置かない(例:積んだ本、突起部のある家具)、草むらや藪、木の枝、他犬とのケンカなどに気をつけることは予防につながるでしょう。
また、予防を兼ね、日常的なお手入れの一環として人工涙液の点眼薬を用いるのもいいと思いますが、その場合には動物病院でご相談ください。
犬は人間と違い、汗腺であるアポクリン腺(脇汗のような汗)とエクリン線(さらっとした汗)の分布が逆で、人間のように汗をかいて体温調節を行うことはできず、ひたすらハァハァと口で呼吸をすることにより、気化熱を利用して体温調節を行っています。
その分、暑さが苦手であり、高温多湿の環境で水分も摂れずにいるとうまく体温調節ができず高体温となる上に脱水状態に陥り、果ては体の細胞が破壊されて多臓器不全を起こす危険にさらされてしまいます。
呼吸器系が不利な短頭種ではなおのこと。決して甘く見てはいけないのが熱中症ですが、それを引き起こすリスク要因には以下のようなものがあります。
犬の熱中症の症状としては以下のようなものが見られます。
さらに進行すると、
などの様子が見られるようになり、たいへん危険な状態なので、犬の体を冷やしながらすぐに動物病院へ向かってください。
犬の体を冷やすとともに、酸素吸入や点滴が基本となります。その他、低血糖や脱水による急性腎不全などを起こしている場合には、それぞれに合わせた治療が行われます。
次のようなことは熱中症の予防対策になるでしょう。熱中症は夏のみではなく、春や秋に、また、室内であっても発症することがあるので注意が必要です。
歯周病の原因となるのは歯垢の中にいる細菌で、その細菌が歯周組織に入り込んでしまうことで歯周病を発症します。初期には軽度の歯肉炎程度ですが、進行すると歯周炎へと発展します。一般的に言う歯周病とは、この歯肉炎と歯周炎の両方を含んだ総称です。
軽度では歯垢の付着や歯肉の赤みなどが見られますが、進行するにつれて、
などが見られるようになります。
重度になると歯周ポケットから膿が漏れ出る歯槽膿漏の状態となってしまいます。
さらに厄介なことには、歯周病の細菌は骨や皮膚まで溶かしてしまうため、次のような問題を引き起こすことがあります。
特に小型犬は意外にも顎に対する歯のサイズは大きめであること、歯の底(歯根底部)と下顎の底とが近い部分にあることから、歯の周囲の骨が細菌によって溶けて薄くなると少しの衝撃で顎を骨折する場合もあることには注意が必要です。
また、歯周病の細菌が血流に乗って全身に回ると心臓疾患や肝臓疾患、腎臓疾患などいろいろな病気に悪影響を与えてしまうことがあるため、たかが歯の問題と軽く見過ごすことはできません。
歯周病の治療には歯垢・歯石の除去と、外科的治療(炎症によってダメージを受けた歯周組織を再生する歯周外科治療、および抜歯)があります。
重度の歯周病では無理に歯を残すよりも、犬のその後の生活を考えれば、歯周組織を少しでも良い状態で保つほうが良いと判断され、抜歯が行われることがあります。
歯周病では子犬の頃から習慣的に歯のケアをすることが何よりの予防となるでしょう。
特に小型犬は歯と歯の間が狭い上に、乳歯遺残が起こりやすく、その分、歯の汚れが溜まりやすいので歯周病のリスクが高くなります。
子犬の頃から歯の生え方や数などチェックするとともに、歯のケアを怠らないようにしましょう。
以上、犬種グループ別に気をつけたい病気を見てきましたが、できれば病気は予防をし、罹らないのが一番。とは言っても、それでも防ぎきれないのが病気です。
一つには、骨が細い、皺が多い、眼が飛び出て大きい、大型で胸が深い、マズル(口吻)が短いなど、愛犬の犬としての特徴をよく理解するとともに、サイズやタイプ、犬種ごとに気をつけたい病気について、ある程度は知識を得ておくことが愛犬のための健康対策につながることでしょう。
併せて、日々愛犬の様子を観察する目を持つこと。たとえ病気に罹ったとしても、早期発見早期治療で治るもの、またはうまくつきあっていけるものも多くあります。
愛犬の健康を守るには、何より飼い主さんの愛情が必要です。どうぞ一日でも長く、健やかで穏やかな愛犬との日々をお過ごしください。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 Cornell University College of Veterinary Medicine, Cornell Richard P. Riney Canine Health Center「Patellar luxation」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/riney-canine-health-center/canine-health-information/patellar-luxation
*2 Di Dona F, Della Valle G, Fatone G. Patellar luxation in dogs. Vet Med (Auckl). 2018 May 31;9:23-32. doi: 10.2147/VMRR.S142545. PMID: 30050864; PMCID: PMC6055913.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6055913/
*3 Patellar Luxation in Dogs, Hayashi K., Lansdowne J. L. and Déjardin L. M., Mechanisms of Disease in Small Animal Surgery (3rd Edition), International Veterinary Information Service (ivis)
https://www.ivis.org/library/mechanisms-of-disease-small-animal-surgery-3rd-ed/patellar-luxation-dogs *4 一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム「僧帽弁閉鎖不全症」
https://www.jbvp.org/family/dog/heart/01.html *5 日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)「股関節形成不全とは」
http://www.jahd.org/disease/d_hipjoint *6 Royal Veterinary College 「A Very big dog problem: New study identifies alarming bone cancer risk in giant dogs」
https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/a-very-big-dog-problem-new-study-identifies-alarming-bone-cancer-risk-in-giant-dogs
*7 The University of Tokyo「FEATURES, 新たな免疫療法で犬のがんを治療する|中川貴之犬にまつわる東大の研究(1)」
詳しくはこちらから
*8 鳥取大学農学部附属 動物医療センター「先端医療による治療例/光線力学療法」
https://prime.vetmed.wsu.edu/2021/10/19/breeds-commonly-affected-by-mdr1-mutation/ *9 Cornell Richard P. Riney Canine Health Center「Chondrodystrophy and intervertebral disc disease (CDDY/IVDD)」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/riney-canine-health-center/canine-health-information/chondrodystrophy-and-intervertebral-disc-disease-cddyivdd *10 動物再生医療技術研究組合「飼い主様向け – 再生医療(幹細胞療法)とは」
https://parmcip.jp/owner/ *11 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)「春の車内温度(JAFユーザーテスト)」
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/temperature/spring
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。