シニア猫だからこそ、元気でいて欲しい
健康寿命を延ばすために気をつけたいポイント:⑥老化のサイン編
一般的に、犬に比べて猫の老化は気づきにくいと言われます。そのため、いつまでも若いように思え、愛猫がすでにシニア期に入っていることを見過ごしてしまうかもしれません。シニア猫にはシニア猫なりに配慮したいこと、気をつけたいこともあり、それがひいては健康寿命につながるので、猫の老化のサインについても知っておきましょう。
一般的に、犬に比べて猫の老化は気づきにくいと言われます。そのため、いつまでも若いように思え、愛猫がすでにシニア期に入っていることを見過ごしてしまうかもしれません。シニア猫にはシニア猫なりに配慮したいこと、気をつけたいこともあり、それがひいては健康寿命につながるので、猫の老化のサインについても知っておきましょう。
最初に、猫の“シニア年齢”について。
シニア期にはシニア猫に見合ったケアをと言われても、それはわかりつつ、いったい猫は何歳からシニアなの?と思うかもしれませんね。
生き物ですから個体差があり、はっきりと「〇歳から」とは言えませんが、アメリカ動物病院協会(American Animal Hospital Association / AAHA)による猫のライフステージ定義によると、10歳以上を「シニア」としています(*1)。
人間の年齢に換算した場合、猫の10歳は人間の53~56歳、13歳は人間の65~68歳、15歳では人間の73~76歳程度にあたると考えられます。
人間の60歳代後半は体にもいろいろ懸念が出てくる年代であることを考えると、猫の13歳は同じくシニアとしての配慮が必要な時期に入っていると言っていいでしょう。
さて、ここからはカテゴリー別に猫の老化のサインを見ていきたいと思いますが、行動面では主に以下のような変化が老化の兆候と考えられます。
シニア猫では体力や気力、筋力などいろいろな面が衰え、全体的に行動性が低下しますが、上記のような変化は老化とは別に、または老化に加えて、関節炎や認知症、甲状腺機能亢進症などシニア猫にありがちな病気や、ストレスなどが原因になっている可能性も考えられます。
何らかの病気が関係している場合は、その治療が優先されますが、そうでない場合は少しでも老化を遅らせるために適度な運動やゲーム、マッサージなどを取り入れるといいでしょう。
次に、体の変化としては、主に以下のような変化が見られるようになります。
猫は毛づくろいする習性がありますが、それもあまりやらなくなり、被毛がぼさぼさになることもあります。
高齢になると皮膚が乾燥気味で弾力性に欠けるようになり、皮膚トラブルを起こしやすくなります。
歯周病が進行するとよだれで口の周りが汚れることがあります。シニア猫では歯周病が多く見られますが、歯周病は腎臓疾患や心臓疾患など他の病気に悪影響を与えることがあるので、若い頃からの歯のケアが望まれます。
シニア猫に多い病気の一つが関節炎(変形性関節症/変形性脊椎症)ですが、オランダでの研究では、6歳以上の猫の61%に少なくとも一つの関節炎があるとしています(*2)。日頃から歩き方を観察するとともに、症状がある場合は足腰への負担を軽減する対策が必要でしょう。
シニア前期の猫では運動量が減ることから太るケースが目立つのに対して、シニア後期の高齢猫では、逆に痩せる猫が多くなります。
猫の爪は高齢になるにしたがい、分厚くなる傾向にありますが、爪研ぎをあまりしなくなるせいか、巻き爪になってしまうこともあるので、定期的に爪切りをしましょう。
猫も高齢になると聴力が低下することがあります。名前を呼んでも反応しないのは、もしかしたら聞こえていないのかもしれません。
ごはんを食べようとしない場合、嗅覚の低下が関係している可能性もあります。
猫の場合、老齢性の白内障は少ないと言われますが、ケンカや事故などによって水晶体が傷つき、白内障になることもあります。また、シニア猫によく見られる慢性腎臓病(慢性腎不全)や甲状腺機能亢進症のような病気によって高血圧になった結果、網膜に変性が生じ、視力が低下する場合もあります。
食事に関しても変化が見られることがあるので、愛猫の食べ化や食べる量など観察するようにしましょう。
シニア猫は活動量が減り、自ずと必要エネルギーも少なくなることから食事量が減る傾向にあります。一方で、認知症や甲状腺機能亢進症などの病気では食欲が増すこともあります。
重度の歯周病がある場合は、口の中の違和感や痛みから食べ物を口に入れてもこぼれてしまうことがあります。
もともと猫は食の選り好みが強い動物ですが、消化機能の低下や病気の影響なども相まって、食の好みが更に変わることもあります。
消化機能の低下によって食欲がわかないこともあれば、認知機能の低下や慢性腎臓病(慢性腎不全)、肥大型心筋症などの病気によって食欲がわかないこともあります。
シニア猫は水を飲む意識が低下しがちですが、関節炎のような病気によって水飲み場まで行くことが難しい場合もあります。逆に、慢性腎臓病では水をよく飲むようになるので、そのような様子が見られた時には注意が必要です。
最後にトイレ周りについて。猫もシニア期になると排泄の変化や失敗が出てきます。
たとえば、関節炎による痛みがあるシニア猫では、トイレを跨げないこともあるので、そのような場合は出入り口がフラットなトイレに替えるといいでしょう。
同様に、足腰が弱っていると排泄の姿勢をとるのが難しい場合もありますし、感覚が鈍って尿や便がトイレの外に落ちてしまうこともあります。このような場合はトイレの周囲にもトイレシートを敷くなどして対処しましょう。
猫の状況によってはトイレに行く気はあっても、トイレまで間に合わないこともあります。また、なかなか起き上がれずにその場でおもらしをしてしまうことも。そうなるとそろそろおむつの考え時でしょう。
高齢の猫は食事量や飲水量の減少によって尿や便の回数が減ることがありますが、慢性腎臓病のような病気では逆に多尿になることがあります。
シニア猫は食事量や飲水量が減るのに加え、消化機能が低下し、さらに運動量も減るため便秘になりがちです。便秘が見られる場合には、食事の水分量を増やす、軽い運動をさせる、お腹のマッサージをするなどして対処するといいでしょう。
以上、猫の老化のサインを見てきましたが、注意点が一つあります。それは、老化のサインが見られたからといって、必ずしも老化とは限らないということ。
たとえば、動きたがらないのは体調が悪い、病気がある、体のどこかに痛みがある、何らかのストレスを感じている、などの場合もあります。
「年だから仕方ない」の一言で片づけず、愛猫の様子をよく観察して、いろいろな可能性を探り、少しでも気になることがある場合には、早めに動物病院へ行きましょう。
猫との暮らしの中で、シニア期こそもっとも濃密な時期と言えます。長く一緒に暮らしたからこその愛情、関係性。それをしみじみと感じることのできる穏やかで健康なシニア期をお過ごしください。
そのためには、早めに愛猫の老化サインに気づき、年齢や状況に見合った対処をしていくことが大切になるでしょう。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1
American Animal Hospital Association「Feline Life Stage Definitions」
https://www.aaha.org/aaha-guidelines/life-stage-feline-2021/feline-life-stage-definitions/
*2
L.I. Slingerland, H.A.W. Hazewinkel, B.P. Meij, Ph. Picavet, G. Voorhout, Cross-sectional study of the prevalence and clinical features of osteoarthritis in 100 cats, The Veterinary Journal, Volume 187, Issue 3, 2011, Pages 304-309, ISSN 1090-0233,
https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2009.12.014. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090023309004900
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。