脳神経細胞の一時的障害によって発作が起こる「てんかん」を知る
「てんかん」と聞くと全身がガクガク震えるイメージがあるかもしれませんが、体の一部がピクピクと痙攣する、体が固まったようになるといった発作もあります。うまく付き合っていけるケースもあれば、命にかかわるケースもある「てんかん」について知っておきましょう。
「てんかん」と聞くと全身がガクガク震えるイメージがあるかもしれませんが、体の一部がピクピクと痙攣する、体が固まったようになるといった発作もあります。うまく付き合っていけるケースもあれば、命にかかわるケースもある「てんかん」について知っておきましょう。
目次
てんかんを一言で言うなら、「異常な神経活動」となります。
少々難しい言葉になりますが、脳の大脳皮質の神経回路は、興奮性神経細胞と抑制性神経細胞とで構成されています。
興奮性神経細胞は読んで字の如く、興奮(活動電位を伝える)に関連する神経細胞で、グルタミン酸という伝達物質によって他の神経細胞と情報をやり取りしています。
一方、抑制性神経細胞は、興奮性神経細胞の活動を抑制する働きを担っています。
これらの神経細胞が働く時には、脳内に微弱な電流が流れて、情報がやり取りされているのです。普段はこの興奮性神経細胞と抑制性神経細胞がバランスよく各々の仕事をしているわけですが、何かのきっかけでそのバランスが崩れ、異常な放電状態に陥ってしまうと痙攣や意識喪失などの発作として現れ、いわゆる「てんかん」と呼ばれる病態になります。
ちなみに、犬の「てんかん」は、「24時間以上の間隔を開け、少なくとも2回の誘発されない発作を起こすもの」と定義されており、その有病率は0.6~0.75%と推定されています(*1)。
犬のてんかんについては、定義や使用する専門用語など長らく議論が重ねられており、現在推奨されている用語をここでは用います(*1)。
まずは、てんかんの原因についてのお話から始めましょう。
てんかんは原因により、大きく以下の2つに分けられます。
犬でよく見られるてんかんのタイプで、次の3つに分けられ、脳には明らかな病変は見られません。
A) 遺伝的背景が証明されたもの
B) 遺伝的背景の疑いがあるもの
C) 原因不明で、構造的てんかん(以下参照)の兆候はないもの
脳の炎症や腫瘍、水頭症、頭部の外傷、脳の奇形など明らかな原因があり、脳の構造に問題があって発作が出るものを指します。
次に、やや複雑なてんかんの症状について解説をします。
てんかんの発作は、次の2つに大別できます。
脳の半球の片側に局所的な電気活動の誤作動が生じ、体の一部に異常な動きが見られるのが特徴的です。たとえば、以下のような症状が見られます。
その他、限局性発作は行動の異常が見られることもありますが、その例としては次のようなものを挙げることができます(行動性発作)。
全般性発作は脳の両半球に病変が認められるもので、全身性の発作が見られ、単独で発現する場合もあれば、限局性発作から発展する場合もあります。
症状としては、以下のようなものがあります。
また、てんかんの発作は、「発作前」「発作」「発作後」の時系列に沿って見ることもできます。
てんかんの発作が出る前には、前兆らしき様子が見られることがあります。
たとえば、以下のようなものが発作の前兆となる場合がありますが、それは犬それぞれです。愛犬がてんかんをもっているのならば、よく観察して前兆を把握しておくといいでしょう。
これらが数時間~数日続くこともあります。
発作は数秒~数分程度続くことが多く、1日に数回起こるケースもあれば、半年や1年に1回程度のケースもあります。
発作が終わった後は、脳が徐々に正常な機能を取り戻しますが、犬がいつもどおりに戻るまでには短時間のこともあれば、数時間~数日かかることもあります。
それまでの間、以下のような様子が見られることがあります。
てんかんの発作は、何かをきっかけに起こることがあり、それには次のようなものが考えられます。
発作の前兆同様、これも犬によって違いがあります。
ここでは、てんかん発作が出た時の対処について確認をしておきましょう。
発作が終わった後は、犬が普通のように見えても、念のため、かかりつけの動物病院に連絡をし、その後の処置について相談するといいでしょう。
以下の場合は脳が大きなダメージを受ける危険性があり、緊急の状態であるため、すぐに動物病院に連絡をして指示を仰いでください。
てんかんの診断では、主に以下のような検査が行われます。
問診・身体検査では、飼い主さんのお話や動画などからてんかんの疑いがあるか確認をします。発作の原因が脳にあるのか、別にあるのかを探るためには、2~5の検査を必要に応じて行います。
さらに、てんかんと診断された場合、特発性てんかんなのか、構造的てんかんなのかを調べるためには、6~7の検査が必要になることがあります。
構造的てんかんの場合は、原因となっている病気の治療を行います。
一方、特発性てんかんでは、発作の回数が少なく、症状も軽いケースでは経過観察のみの場合もありますが、多くは抗てんかん薬によって発作をコントロールしていくことになります。
一つの薬がすべての犬に合うというわけでもなく、症状の程度や発作の回数など、その犬の状況に合う薬が選択されます。
また、薬の濃度を確認するために定期的に血液検査が必要になります。
注意点として、抗てんかん薬を勝手に中止したり、量を少なくしたりすると、かえって症状が重くなって命にかかわることもあるので、投薬の量や回数は守るようにしましょう。
犬のてんかんでは、遺伝的に発症リスクがあるとされる犬種がいます。
その他にもてんかんを発症しやすい傾向にある犬種が存在します。
犬の特発性てんかんの場合は、生後半年~5歳くらいでの発症が多いと言われます。
一方、構造的てんかんの場合は、どんな犬でも年齢に関係なく発症する可能性があります。
最後に、てんかんの予防について。てんかんは遺伝的背景が関係する部分もあり、予防はなかなか難しいですが、構造的てんかんについては定期健康診断を受けるなどして病気予防を心がけるのが一番でしょう。
すでに愛犬にてんかん発作が出ている場合は、発作が起きた時の様子(前後も含む)や時間、状況、天気、環境など細かく記録をとっておくことをお勧めします。
発作にはトリガーになるものが存在することもあるので、そうしたことを把握しておくことで多少は発作を予防・軽減できるかもしれません。
てんかんがある犬の60~70%が十分な観察とケアで発作を良好にコントロールできているといいます(*2)。
長期に渡るケアは気苦労もあるでしょうが、少しでも良い状態が維持できますようにと願います。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照資料】
*1 Berendt M, Farquhar RG, Mandigers PJ, Pakozdy A, Bhatti SF, De Risio L, Fischer A, Long S, Matiasek K, Muñana K, Patterson EE, Penderis J, Platt S, Podell M, Potschka H, Pumarola MB, Rusbridge C, Stein VM, Tipold A, Volk HA. International veterinary epilepsy task force consensus report on epilepsy definition, classification and terminology in companion animals. BMC Vet Res. 2015 Aug 28;11:182. doi: 10.1186/s12917-015-0461-2. PMID: 26316133; PMCID: PMC4552272.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4552272/#CR26
*2 Veterinary Health Center, University of Missouri「Canine Idiopathic Epilepsy」
https://vhc.missouri.edu/small-animal-hospital/neurology-neurosurgery/facts-on-neurologic-diseases/canine-idiopathic-epilepsy/
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監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医
獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。