1.慢性腎臓病ってどんな病気?
慢性腎臓病とは、腎臓の働きが徐々に低下し、腎不全に至る状態を指しています。
腎臓は、尿を作るネフロンが数千個集まって構成された臓器。このネフロンが壊れると、腎機能がスムーズに働かなくなって腎不全になります。
ネフロンは一度壊れてしまうと二度と元には戻りません。しかし、ネフロンの数は十分な余裕があるため、全ネフロンの75%を失うまでは正常な腎機能を果たせるといわれています。そのため、初期症状に気づきにくいという特徴があります。
猫に多い病気の1つが「慢性腎臓病」であり、ドライフードを主食とする猫の多くが「慢性腎臓病」のリスクを抱えている、という研究結果も報告されています。完治を見込める病気ではありませんが、「腎不全」まで悪化しないよう進行を遅らせる手段はあります。
今回は、慢性腎臓病の進行を遅らせる「脱水管理」についてご紹介します。
目次
慢性腎臓病とは、腎臓の働きが徐々に低下し、腎不全に至る状態を指しています。
腎臓は、尿を作るネフロンが数千個集まって構成された臓器。このネフロンが壊れると、腎機能がスムーズに働かなくなって腎不全になります。
ネフロンは一度壊れてしまうと二度と元には戻りません。しかし、ネフロンの数は十分な余裕があるため、全ネフロンの75%を失うまでは正常な腎機能を果たせるといわれています。そのため、初期症状に気づきにくいという特徴があります。
最初は無症状な期間が続くのですが、次第に水を飲む量が増えて多飲多尿の状態に陥ります。体重減少、嘔吐、貧血などの症状が見られ、やがて尿毒症にまで発展すると元気消失、嘔吐、下痢、痙攣などの神経症状も引き起こします。
すでに壊れてしまったネフロンは元に戻りません。そのため慢性腎臓病の治療は、血液中の老廃物や毒素を体内に溜めすぎないようにして体調を維持すること、慢性腎臓病の進行をできるだけ緩やかにすることが主体となります。
猫の場合は、尿を濃くする能力が失われるため多尿となり、脱水に陥りやすくなります。脱水を起こすと腎臓を流れる血液量が減少するため血液中の老廃物を取り除く効率が落ち、結果として多くの老廃物が血液中に残ってしまいます。点滴によって脱水を補正し、腎臓の血液の流れを良くすることで老廃物の排出を促す必要があります。泌尿器の専門病院では腹膜透析や血液透析を行い、老廃物を取り除く場合も。腸内でアンモニアやリンを吸着させ、便として体外に排泄させるような薬や腎臓の血管を拡張させるために血管拡張薬を投与する場合もあります。
慢性腎臓病を代表する症状の一つが脱水です。脱水は、食欲不振、無気力、虚弱、便秘、尿毒症発症のリスク増大につながるため、その結果として腎臓に悪影響を及ぼします。
体内の水分量が体重の4~5%失われると食欲不振や嘔吐、粘膜の乾燥などの症状が現れ、10~12%失われるとショック状態になり、15%以上でもはや生存できません。愛猫の脱水を知るためのチェックポイントは以下の4つです。
1~3は主観的なチェックですが、日頃からよく観察していればすぐ気づくことができるでしょう。4は客観的な指標ですが、脱水による体重減少か、食欲不振による体重減少かを見分けるには普段から小まめな体重測定が必要です。
チェックポイントで、特に覚えておくと良いのが3番目の「皮膚にハリがない(皮膚の張り低下)」です。
首から肩にかけての皮膚をつまみ上げる「皮膚つまみテスト」を試してみましょう。引き上げた皮膚が元の状態に戻るまでの時間をチェックします。脱水していれば戻るのが遅くなります。ここで覚えておきたいのは脱水の有無に関わらず、太っている子は皮膚の戻りが早く、痩せている子・高齢の子は皮膚の戻りが遅いという点。日頃から皮膚をつまんで戻り方を見ておくと、より正確に判断ができるようになるでしょう。
目安として以下の表を参照してください。
脱水の程度 | 皮膚が元に戻るまでの時間 |
---|---|
<5% | 1秒前後 |
5% | 1-2秒(戻るのに少し間がある) |
6-8% | 2-3秒(シワができる) |
8-10% | 6-10秒(しばらくシワが残る) |
10%以上 | 戻らない |
脱水気味だと感じたらドライフードやふやかしフードの代わりに、缶詰フードと新鮮で飲みやすい水を与えましょう。加えて、いつでもたっぷりと水分補給できるよう、飲み水は猫がよく立ち寄っている数ヵ所に置いてください。
運動能力の高い子であれば高い場所に、寝る時間が増えたシニアの子であれば低い場所に置くなどの工夫も大切です。
また、ドライフードとともに補水サプリを与えることも効果的です。補水サプリを与えると、プラスアルファの液体を飲むだけでなく、より高いレベルの水分摂取が維持されることが証明されています。
十分な水和を維持することは、慢性腎臓病において鍵となる治療です。
動物の体の60%は水分で占められています。
体が水分で満たされている度合いを水和(hydration)と言い、水分が不足した状態を脱水(dehydration)と言います。積極的な水分補給を再水和(rehydration)と言い、輸液療法や補水液の投与を指します。また、過剰な輸液や水中毒によって過水和(overhydration)が起きることもあります。
慢性腎臓病の猫にとって輸液療法は避けがたい治療法です。しかし、その輸液療法を最小限に留められるよう、日常的に水和を保つよう工夫し、残り少なくなった腎機能を可能な限り温存しましょう。
人間にとっても脱水は気を付けなければいけませんが、猫は人間以上に脱水に陥る可能性が高いという研究結果が報告されています。水分補給によって少しでも慢性腎臓病の進行を食い止めることができれば、飼い主さんにとっても愛猫にとってもうれしいですね。
慢性腎臓病の猫に限らず、日常的に脱水スレスレの生活をしているのが現代社会に生きている猫だという研究がNestlé Purina Pet Careの研究者たちによって行われました。
猫は完全肉食獣として進化してきたため、60~70%の水分を含む獲物やウェットフードを食べた時には当然水を飲みません。
● 猫がドライフードを食べる場合、のどの渇きを感じにくく、摂取する水分量は同じ栄養価のウェットフードに含まれる水分量と同等ではありません。
● 猫は水分摂取量を、食べ物に含まれる水分量ではなくむしろ乾物量に合わせます。猫が脱水した場合、飲水を開始するのは犬より遅く、重度の脱水ではそれを補充するために約1日余分にかかります。
成猫は舌で吸引力を作ることができず、水のような低粘性の液体を上手く飲むことに向いていません。
● 彼らが水をペロペロする時、1回の舌の動きで摂取できる水の量は0.15ccに過ぎません。したがって、猫が水和を保つためには頻回のペロペロが必要なのです。
● 猫は優れた遠視能力がある一方、近視能力は不十分です。そのことは容器にいれた水の表面の認識を難しくしています。
猫は器に入った水を飲む時に攻撃されやすいと感じます。
猫は飲水環境や水の味、新鮮さ、水の動きに敏感です。
ドライフードを食べる猫対ウェットフードを食べる猫で水和を比較すると、最近の研究では、水分量70%のウェットフードを給餌されている猫は、水分量10%のドライフードを給餌されている猫より、より低い尿比重とより多くの身体活動による体重増加の抑制を示しました。
さらに、缶詰フードを与えられている猫はドライフードを与えられている猫と比較して、乾物1g当たりの水分摂取量がかなり多いことがわかりました。
ウェット:ドライの割合を1:3および2:3にした場合、食事中の水分量が増えたにもかかわらず、尿量と除脂肪体重に明確な影響を及ぼしませんでした。水分摂取の増量が必要な猫にとって、すべてを缶詰フードにするか、ドライフードに補水サプリ併用して与えることが良いと言えます。
つまりドライフードだけでは十分な水分をとることは難しい=脱水状態になりやすいと言えます。
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お話を伺ったのは…
南大阪動物医療センター 病院長
獣医師 吉内 龍策先生
「人と動物」そして「人と人」の「絆」を何よりも大切にする、そんな動物医療の実践を目指しスタッフとともにまい進。猫に対してより専門性の高い医療を提供する猫専用の病院棟が敷地内に。他の動物に慣れていない子も安心して受診できる。