老犬の介護「トイレ(排泄)」:一生に渡って続く排泄の問題、その時々の状況にどう対処する?
犬がこの世に生まれ落ちた日から、天寿を全うするまで、排泄は生きていくのに大切な営みです。シニア期になるとおもらしや自力での排泄困難などいろいろ問題が出てきますが、予めその対処法を知っておくことで、少しは介護生活の手助けになることでしょう。この記事では、老犬の「排泄」について考えてみたいと思います。
犬がこの世に生まれ落ちた日から、天寿を全うするまで、排泄は生きていくのに大切な営みです。シニア期になるとおもらしや自力での排泄困難などいろいろ問題が出てきますが、予めその対処法を知っておくことで、少しは介護生活の手助けになることでしょう。この記事では、老犬の「排泄」について考えてみたいと思います。
目次
犬も老齢になると体力や気力、筋力、消化機能、排泄機能などが低下し、持病や認知症も加わって排泄の様子に変化が見られるようになります。それには、主に以下のようなものがあります。
犬にはトイレまで行く気はあっても、筋力や体力、排泄機能などの低下により、間に合わずにトイレとは違う場所にしてしまうことがあります。
また、トイレはだいたいこの辺といったふうに、感覚的に鈍ってきていることもあるでしょう。
老犬は飲水量や食事量が減りがちなため、排尿や排便の回数・量が減ることがあります。一方で、なんらかの病気によって排尿や排便が増えることもあります。
加齢や神経、脳、関節などの病気により、自分の体を支えるのが困難になると排泄の姿勢がとれず、尿や便がしづらくなったり、その場で漏らしてしまったりすることがあります。場合によっては、尿や便を出せず、そのまま我慢してしまうことも。
膀胱や腸も筋肉で動きますが、そうした自律的に動く筋肉の低下によって、排泄が我慢できなくなる、立ち上がろうとした刺激で漏れてしまうということもあります。
また、足腰の筋肉の低下によって、なかなか立ち上がれない、トイレ場まで歩けないといったことから、結果的に漏らしてしまうこともあるでしょう。
最終的には寝たきりとなり、漏らさざるを得ないケースは多くあります。
排泄機能の衰えや、なんらかの病気などにより、自力での排尿排便が困難になることも珍しくありません。
では、ここからは老犬の排泄の変化に対して、それぞれどう対処したらいいのか見ていきましょう。
まず、犬にトイレまで行く気はあるものの、失敗してしまう場合は、以下のような対処法を試してみてはいかがでしょうか。
①トイレをより近い場所につくる
②(可能ならば)トイレの数を1~2ヶ所増やす
③トイレの周囲にもトイレシートを敷くなど、トイレ場を少し広くする
④なるべくこまめにトイレに誘導する
排泄を失敗してしまうなら、なるべく失敗をしないよう上記のように環境を改善する必要があるでしょう。
また、老犬はトイレまで行くのに時間がかかる、トイレに行くのが億劫だということもあるので、そろそろ排泄の時間かな?という頃合いを見てトイレに誘導し、排泄のタイミングを与える配慮も必要だと思います。
特に、外でしか排泄をしない老犬は、外に出られるまで時間や距離もかかり、その分、我慢を強いられることになるので、より排泄のタイミングは考えてあげるべきでしょう。
なお、外でしか排泄をしない老犬の場合、室内でトイレができるよう再トイレトレーニングをするのも一つの方法です。
広さと高さのあるトイレで、入口は一ヶ所になっていて囲われた感があり、自然とくるくる回ることで尿意をもよおすよう誘導します。素材はプラスチックダンボールで、丸洗いが可能。サイズは小型犬向きと中・大型犬向きの2種類があります。
詳しくはこちらたとえば、老犬では便秘をしがちになりますが、その原因としては、下の表のようなものが考えられます。
食事量の低下
運動量の低下
水分摂取量の低下
消化機能の低下
ストレス
食物繊維の過不足
病気(例:腸の炎症、腫瘍・癌、脱水、甲状腺機能低下症など)
誤飲
薬による影響(例:利尿剤、鎮痛剤、抗癌剤など)
肛門周囲の痛み
犬では、3日以上便が出ない、または出にくいと便秘と考えられますが、その結果、以下のような様子が見られるようになります。
いきんでも便がなかなか出ない
トイレにいる時間が長い
便が硬すぎる、小さい
お腹がぽっこりしている
トイレに行く回数が少ない、便を出そうとしない
このような様子が見られた時には、念のために動物病院で診てもらうことをおすすめしますが、予防を心がけることも大切でしょう。
十分な水分補給
犬の一日の正常な水摂取量は、体重1kgあたり20~90mlが目安とされる(*1)
腸内環境を整える
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)、そのエサとなるプレバイオティクス(オリゴ糖や食物繊維)を定期的に摂ることで整腸作用や便秘の改善が期待できる
特に手作り食の場合、食事に不飽和脂肪酸を少量混ぜる
不飽和脂肪酸には便の通りをよくする作用があるとされる
適度な散歩・運動
運動不足は腸の蠕動運動にも影響する
マッサージやストレッチ
手の平でお腹を時計回りにさすって腸の働きを促す
誤飲しやすいものは犬の周りに置かない
認知症のある犬では食べ物でないものを口に入れてしまうこともあるので注意を
便と並び、尿の回数・量が増加、または減少することもあります。参考までに、犬の一日の正常な尿量は、体重1kgあたり20~45mlが目安とされますが(*1)、愛犬の尿の量が気になる時には一度量ってみるといいでしょう。
もっとも優れた乳酸菌と言われるEF-2001乳酸菌を使用。顆粒状で、味はほとんどなく、ごはんにかけるのみでなく、水に混ぜて飲ませることもできます。
詳しくはこちら次に、犬にはトイレ場で排泄をする意思は十分にあるものの、うまくその姿勢をとれない場合には、やはり体を支えてあげる必要があります。
それには手で支える方法と、歩行補助具を利用して支える方法がありますが、状況に応じて使い分けるといいでしょう。
手で支える場合、犬の状況や大きさ、性別、尿か便か、などによって犬の前方から支えたほうがベターなケースもあれば、後方から支えたほうがやりやすいケースもあります。
基本的に、「メス犬」「排便」では、後肢の付け根から脇腹のあたりに手をあてて、腰を支えるのが一般的です。吊り上げ過ぎない、または下げ過ぎないよう、愛犬にとってちょうどいい位置を調整してください。
これに対し、「オス犬の排尿」では陰茎部から尿が前方に飛ぶため、陰茎部を避けるように支える必要があります。特に、大型犬のオス犬の場合は、犬の後方から股間の間に両手を入れて、後肢の付け根あたりを支える方法がありますが、いずれであっても愛犬が一番楽になる支え方を模索することになるでしょう。
また、犬によっては手で触れられることが気になって排泄しなくなるケースもあるので、愛犬の性格や状況を観察して判断してください。
そのような繊細な老犬では、飼い主さんの手を犬の体に触れるか触れないかぎりぎりの位置に置くようにし、犬の体が倒れるようであれば支えるなどするといいでしょう。
飼い主さんの「手」以外に、排泄時のサポートとして使えるのが歩行補助具です。
この場合、注意したいのは排泄時の邪魔になったり、汚れたりしないような作りになっているかということ。手作りするには、その点を考慮してください。
中には装着したまま寝ることが可能な歩行補助具も市販されているので、排泄のサポートを考えるならば、選択肢の一つになると思います。
体に負担をかけないハニカム立体構造で、吸水性や通気性に優れた素材を使用。背中のファスナーは2列になっており、装着したまま寝る時にはゆったりめに変えることが可能です。サイズは4サイズあり、体重50kgまで対応。
詳しくはこちらさて、あれこれ環境改善などしてみても、おもらしが目立つようになってきたなら、そろそろオムツの使用を考えるタイミングと言っていいでしょう。
後肢の付け根がゆるいと漏れることがあるので、なるべくぴったりのものを選びましょう。
人間の赤ちゃん用のオムツにしっぽの穴を開けて代用することもできますが、穴の大きさが合わないと同じく漏れることがあるので、調整が必要です。
急にオムツをはかせると、犬が嫌がって脱いでしまうことがありますし、オムツに対してマイナスイメージがついてしまうと、以降、オムツ自体にストレスを感じるかもしれません。それを避けるためには、短い時間から装着を始め、徐々に慣らすようにしましょう。
実は、犬の皮膚は以外に敏感で、オムツかぶれを起こしやすい傾向にあります。長時間にわたってオムツをはかせると、そのリスクも高くなるため、できれば排泄をしそうなタイミングの時間帯、留守番時、夜間など、オムツをはかせる時間をなるべく短くできると理想的です。
とは言っても、犬の状況や飼い主さんの生活事情もあると思いますので、必要に応じて調整してください。
吸水性、速乾性に優れ、肌に優しい素材でできており、バッククロスデザインを採用することで脱げにくく、オムツのずれを防ぎます。
詳しくはこちらしかし、寝たきりの老犬で、特にもぞもぞ動かない犬の場合は、オムツを使用するよりも、むしろお尻周りにトイレシートを敷いただけのほうがケアしやすくなります。
この場合のポイントは、以下のとおりです。
■ペットシートは二重にし(下のシートは上より少し大きめのものを)、その下に漏れ
防止シートを敷く
■オス犬は尿が前方に飛ぶため、お腹側の前方を広めにシートを敷く
■メス犬はお尻を中心に広めにシートを敷く
ただし、排尿排便をした後はシートを変える、汚れた部分を綺麗にするなどしないと尿や便で毛が黄ばんだり、肌荒れを起こしたりすることがあるので、こまめなケアは欠かせません。
なお、オムツが必要になったり、寝たきりになったり、排泄のサポートが必要になった段階で、汚れ防止に、そしてケアをしやすくするために、股間やお尻周り、しっぽの付け根などの毛は短くカットしておくといいでしょう。
両面に滑り止め素材になっており、トイレシートのずれ防止のみならず、老犬の立ち上がりサポートにも。速乾性があり、水洗いも可能。
詳しくはこちらそして、犬の状況によっては、排尿排便自体ができなくなることもあります。
その場合には、手で膀胱を圧迫して尿を絞り出す(圧迫排尿)、肛門を綿棒や指先(手袋着用のこと)で刺激して排便を促す、または便をかき出すなどの処置が必要になりますが、力の入れ具合などによっては内臓を傷つけてしまうことがあるので、まずは動物病院でやり方を教えてもらってからにしましょう。
中にはカテーテルを用いて排尿管理をしなければならないケースもあるため、愛犬が自力で排尿排便できない時は、どんなケアが適切なのか、動物病院でご相談ください。
冒頭でも述べたように、老犬の排尿排便の様子は若い頃とは違ってきます。今までとは違うタイミングでの排尿排便、回数・量の増減、粗相、尿や便の様相自体の変化などなど。
たとえば、硬い便・便秘の時期と下痢の時期が交互にやってくることもあり、この場合は癌や膵炎などの可能性も考えられます。
まさに排尿排便は健康と直結しており、単に処置をすればいいというものでないことはご存知のとおりです。
だからこそ、年老いてもなお少しでも健康でいて欲しいと願う愛犬のために、変化や異変により早く気づけるよう、日頃から排尿排便の様子や回数、形状なども含め、愛犬の日記や記録をつけておくことを強くおすすめします。
介護生活の中での排泄のケアはなかなか苦労もあるかもしれませんが、目の前にいる愛犬が愛しいと思える限り、なんとかコントロールしていけることを願っています。どうぞみなさんのご愛犬が一日でも長く健やかに過ごせますように。
(文:犬もの文筆家&ドッグライター 大塚 良重)
【参照元】
(*1)公益社団法人 埼玉県獣医師会「水の飲み過ぎは病気のサインかもしれません!」https://www.saitama-vma.org/topics/%E6%B0%B4%E3%81%AE%E9%A3%B2%E3%81%BF%E9%81%8E%E3%81%8E%E3%81%AF%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%8B%E3%82%82%E3%81%97%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%EF%BC%81/
犬注目記事
いつか来るシニア期のために知っておきたい【老犬でよく見られる病気】
子犬を迎えたなら知っておきたい「子犬に多い病気、気をつけたい症状」
背骨の骨同士の間にある椎間板が変性・変形することで神経症状を引き起こす「椎間板ヘルニア」を知る
膝の骨がずれて跛行する関節疾患「膝蓋骨脱臼」を知る
猫注目記事
いつか来るシニア期のために知っておきたい【老猫でよく見られる病気】
子猫を迎えたなら知っておきたい「子猫に多い病気、気をつけたい症状」
猫の皮膚病、それ放っておいても大丈夫?
毛布をはむはむ、ちゅぱちゅぱ… 猫の“ウール・サッキング”とは?
監修いただいたのは…
2018年 日本獣医生命科学大学獣医学部卒業
成城こばやし動物病院 勤務医 獣医師 高柳 かれん先生
数年前の「ペットブーム」を経て、現在ペットはブームではなく「大切な家族」として私たちに安らぎを与える存在となっています。また新型コロナウィルスにより在宅する人が増えた今、新しくペットを迎え入れている家庭も多いように思います。
その一方で臨床の場に立っていると、ペットの扱い方や育て方、病気への知識不足が目立つように思います。言葉を話せないペットたちにとって1番近くにいる「家族の問診」はとても大切で、そこから病気を防ぐことや、早期発見できることも多くあるのです。
このような動物に関する基礎知識を、できるだけ多くの方にお届けするのが私の使命だと考え、様々な活動を通じてわかりやすく実践しやすい情報をお伝えしていけたらと思っています。