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動物医療グリーフケアから学ぶ犬とのハッピーライフのヒント

第6回

心の医療「愛犬のグリーフケア」

動物医療グリーフケアアドバイザー 獣医師 阿部 美奈子先生

お話し

動物医療グリーフケアアドバイザー
獣医師 阿部 美奈子先生

ペットや飼い主さんの「心」を 元気にする獣医師として「動物医療グリーフケア」を実践しています。現在はマレーシアに滞在しながら毎月、日本と往復し全国の動物病院での診療及び各種セミナー活動に力を注いでいます。

1.心の医療「愛犬のグリーフケア」

愛犬が病気になったとき、まずは自分のグリーフを理解し、ありのままの気持ちを話せる人に相談しましょう。一人で抱え込まないことが大切です。

体の痛みはなるべく早く緩和できる治療を選択し、わが子ができるだけ怖がらない方法で実践してもらいましょう。
そしてどんなときも愛犬の目から景色を見る意識を持ちましょう。主役=話題の中心は今までどおり〇〇ちゃんというオンリーワンの愛犬に。病気になっても愛犬の宝物=当たり前の日常をできるだけ守っていくことができるのは、個性を一番よく知っている家族です。

「病気になったかわいそうな子」のレッテルを貼らないこと。体の痛みが和らいでいるときには愛犬はいつもの日常を好みます。愛犬が自分の心と体の状態に合わせて自分のペースで続けていく「いつもの行動」を、いっぱい褒めて応援しましょう。

どんなときも愛犬の味方は飼い主です。もし病気を完治する医療がなくなったとしても宝物である名前を呼び、まっすぐ生きる姿を褒め、大切な日常や安全基地を守るという家族にしかできない心の医療「愛犬のグリーフケア」が存在します。
愛犬はこれまでと変わらず「あなたに愛されている」と感じながら、どんな病気があろうとも幸福感と共にその瞬間まで生きていくことができます。

私たちは、愛犬のために自分自身に生まれるグリーフを一人で抱えずに、信頼できる誰かに吐き出してリセットすることがとても重要です。そして愛犬の前ではいつもの笑顔と愛情でハッピーライフを続けていく。病気になっても愛犬と自分には貴重な時間が残されています。

世界中で飼い主は愛犬にとってオンリーワンの家族です。飼い主だけが知っている我が子の喜ぶプレゼント=大事な日常を贈りましょう。愛犬もまたオンリーワンの〇〇ちゃんとしての誇りと共にまっすぐ生き抜いていってくれます。

2.愛犬が主役のハッピーライフご紹介

そらちゃんとMさんのハッピーライフ~

「DM(変性性脊髄症)とともに笑顔で生きる犬生」

コーギーのそらちゃんは13歳の女の子。

コーギーのそらちゃんは13歳の女の子。
9歳10か月のとき後ろ足の爪を擦るような歩き方がみられ、その後、遺伝性の病気DMとわかりました。

ゆっくり2、3年をかけて脊髄神経が麻痺していく病気ですが、Mさんは自身のグリーフをリセットしながらそらちゃんを主役にしたハッピーライフを続けています。

お散歩が大好きなそらちゃんは散歩の喪失というグリーフを防ぐため、麻痺に合わせ補助バンドや車いす、バギーを上手に使いながら現在も散歩を楽しんでいます。食べることも以前より不自由になってきましたが、日々変わる好みに合わせ、楽しく食べられるように試行錯誤しながら様々なアイデアに挑戦。

これまでは当たり前だったことができなくなるそらちゃんのグリーフ。
吠えたり噛んだり攻撃することが増える日々の中で、心の緊張が和らぐサプリや抗不安剤を表情や行動を見ながら投与量を調整し、心の緊張を緩和しています。寝床も楽な姿勢を取れるように工夫し、室温も重要で呼吸や表情を見ながら心地よい温度に設定。

今年3月、そらちゃんと以前行った京都に小旅行。旅行前、少し不安もあったMさんのそばで梅の花に囲まれて笑顔いっぱいのそらちゃん。同じ景色を見て一緒に幸せを感じる時間は最高のプレゼントになりました。その後も桜やチューリップを楽しむ日々。
体調は日々変化していきますが、喜びも悲しみも全ての体験が一緒に生きているそらちゃんとMさんのハッピーライフ。これからも続きます。

ミルクちゃんとSさんのハッピーライフ~

「心タンポナーデとともに笑顔で生きたミルクちゃんの犬生」

ゴールデンレトリバーのミルクちゃん

ミルクちゃんはゴールデンレトリバーの女の子。
3月末、様子がちょっとおかしいと思い、診察に行った動物病院の待合室で倒れてしまいました。

Sさんは大変なショックの中、心膜内への血液貯留が認められ抜血処置へ。入院を提示されたSさんは迷いましたが「ミルクにとってお家が一番安心できる場所だから」とお家に帰ることを決意しました。ミルクちゃんは心臓になにが起きているのかわかりません。

貧血で頭がぼーっとして体に力が入りませんが、表情から痛みはない様子。お家がミルクちゃんの安全基地だから弱った体を安心して投げ出せるようにいつもの穏やかな空気を守りました。ミルクちゃんは見慣れた景色の中で横たわっていましたが、その後ごはんを食べたのです。紫色だった舌の色も赤くなっていきました。

また出血が起こる可能性もある状況下、ミルクちゃんは自分のペースで日常を過ごし、Sさんご夫婦もいっぱい褒めながら見守る生活。食欲も出て、リビングの中を歩いたり、尻尾をペンペンできるようになるまで回復。喜んでいたところ、再び、出血、抜血処置、お家に帰ってゆっくりするという生活を繰り返します。

妹犬のさらちゃんもミルク姉ちゃんの異変を感じグリーフだったと思いますが、Sさんはさらちゃんのこともいっぱい褒めてくれました。Sさんが2頭の前ではいつものママでいてくれることで、ミルクちゃんもさらちゃんも緊張や警戒心を高めることなく心が楽な日常を送れています。さらちゃんはお姉ちゃんのそばに静かに寄り添い、ミルクちゃんも世話をしてきた妹犬を見守りながら、お互いの存在が癒しになったことでしょう。このように愛犬にとって大切な安全基地を守り、心も体もエネルギーが充電できることによって、自然治癒力や免疫力の向上も期待できるのです。

ミルクちゃんは出血、抜血を何度か繰り返していますが、どんなときもSさんに「いい子だね、えらいね」と褒められています。ミルクちゃん、さらちゃんはいつもの景色を眺めながら、Sさんご夫妻の声や笑顔に癒される日々。
ミルクちゃん、さらちゃん、Sさんのハッピーライフは最期の瞬間まで続きました。

次回は、エンディングを迎えたときのお話しをしたいと思います。出会えた奇跡に感謝し、生きているときも亡くなってからも永遠に愛犬とのハッピーライフを続けていくために必要となるのが、動物医療グリーフケアです。

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