ペットと共に生きること

「人と動物が一緒に暮らしていく」うえで、考えて欲しいことを、さまざまな取材を通して紹介します。ちょっぴり硬い話題が多いけれど、ほんの少し、一緒に考えてみませんか?

母がアーサーを携帯で撮影した最後の写真。04年の10月です。口元に白髪が増え、かなりおじいさんになってます。

アーサーはかなり弱っていたようで、いつもなら母が呼べばすぐ来るのに、動こうともしなかったそうです。目にはヤニが出、歯は黄色く変色しています。
診察結果は
「農薬にやられている」
でした。アーサーが散歩途中に噛んだのは、農作業をしている人が使っていた、農薬の袋だったのです。
獣医さんに注射を打ってもらい、アーサーは母と共に帰宅しましたが、犬舎に戻るなり、苦しそうに横たわりました。
翌日は母の呼びかけに、一度だけ立ち上がったそうです。弱々しい姿のまま。

そして11月3日。あいにく父は朝から仕事、母も祖母のいる大分まで出かけなければなりませんでした。出かける直前、「アーサー、大丈夫?」という母の呼びかけに、彼はニコッと笑ったそうです。
大分まで行ったものの、やはりアーサーのことが気になった母は、すぐに熊本へと引き返します。母から連絡を受けていた僕も、アーサーの様子が気になって母にメールをしました。それが10:30頃のことです。そのすぐあと、父から母に、泣いて電話がありました。
「母さん、アーサーが死んでいる・・・」

僕が母にメールをしていたちょうどその頃、アーサーは、1人で旅立ったのでした。
泣きながら帰宅した母の前には、穏やかな顔で横たわったままのアーサー。まるで寝ているかのように、朝見たままの姿勢だったそうです。
獣医さんに知らせると、「実は診察した時点でもう、ダメだと分かっとったんです。でも、言えませんでした・・・」。若い犬なら、同じ状況でも数日で良くなるそうですが、アーサーは老犬、もう回復する力が残っていませんでした。ならばせめて優しい家族に見守られて・・・、そう獣医さんは判断してくれたのです。
僕は外出中に父から訃報を聞かされました。家に帰り、リビングに飾っていたアーサーの写真を見た途端、涙が止まらなくなりました。どこかで似たもの同士と感じていたアーサー、彼がいなくなったことが悲しくて、切なくて、どうしようもなくて・・・。

道端に置いてあった農薬の袋。置いた人は、犬が噛むなんて想像もしていなかったに違いありません。もちろん母も、まさかそれをアーサーが噛むなんて、という気持ちだったと思います。アーサーは普段から、落ちている物を噛むことがなかった犬だったので。
アーサーの死に関して、誰が悪いのか? いいえ、誰も悪くありません。
農作業をしていた人は、仕事をしていただけ、母は、偶然違う道を通っただけ。アーサーも、たまたま噛んでしまっただけ。

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