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愛犬相談室 No.5「引っ張りグセ」

Q&A ケース別にお答えします 愛犬相談室 指導:ドッグトレーニングインストラクター 中塚圭子 No.5【引っ張りグセ】
暑さにぐったりしていた愛犬たちも秋風とともに元気復活。散歩が心地いい季節になってきました。といっても引っ張りグセがあると、軽快な歩きは楽しめません。今回はいろいろなタイプの引っ張りグセの悩みにお答えします。
Case 1 前へ引っ張る
Q 3歳の柴犬です。散歩のときリードをグイグイと引っ張り、どんどん先へ行こうとします。そのため振り回されて、こちらも引っ張り返すの繰り返し。どうすれば止めさせられるのでしょうか。
基本的なリードの持ち方 イージーウォークハーネス
元気盛んなワンちゃんとはいえ、毎日の散歩がこうでは体が持ちませんね。しかし、引っ張られたからといって引っ張り返していては、いつまでも引っ張りグセは直りません。そればかりか犬の首にも負担をかけることになります。意外と思われるかもしれませんが、飼い主自身が歩き方を意識することで、引っ張りは徐々になくなります。まずはリードをしっかり固定して持つことが肝心です。リードの先端の輪を親指にひっかけて握り締め、もう片方の手もすぐ下で握り、おへその前で固定します(写真1)。ゴルフのグリップを握る要領でげんこつを2つ重ねた形です。

 この方法でリードを固定して脇を締め、胸を張って歩き出します。そうして犬が少しでも引っ張ったら、すぐその場で止まります。すると犬も立ち止まります。少し戻ってくるような感じでリードをゆるめたら、また歩き出すようにしましょう。これを繰り返しているうちに、引っ張ると歩いてもらえなくなることを学び、飼い主と歩調を合わせるようになっていきます。

 これが基本的な歩き方ですが、さらにサポートしてくれる首輪&リードを活用すると効果的です。引っ張るタイプにおすすめはイージーウォークハーネスです。(写真2)。胸部を横切る1本のストラップによって、どんどん前に進もうとする力をやさしく抑えます。

 ただし、このイージーウォークハーネスを着ける場合、抜け防止のためにQ3で紹介するプレミアカラーを同時に装着しましょう。この2つなら1本のリードで装着できるようになっています。
Case 2 大型犬の場合
Q もうすぐ2歳になるゴールデンレトリバーを飼っています。お散歩が大好きなのですが若くて力も強く、犬が前へ行こうとするのをうまくコントロールできません。このままでは家族全員が腰痛寸前です。なるべく犬にやさしい方法で引っ張りを軽減する方法はないでしょうか。
ジェントルリーダー 大型犬なら長めのリードを使う方法も
引っ張りが特に強い犬や大型犬の場合、引っ張ったら止まるということも困難な場合があります。そんなときには、マズル(口の周り)に装着し、頭部をコントロールする ジェントルリーダーがおすすめです(写真3)。後頭部を抑えられると本能的に体を引こうとする習性を利用しています。馬の手綱の要領で、飼い主がリードしやすくなります。決して、口輪のように締め付けているわけではないので、犬への負担もありません。

 また、一般のリードを使って、Q1でおすすめしているイージーウォークハーネスと同様に前へ行こうとする力を抑制する方法もあります。長め(180cm~200cm)のリードを用意し、首輪から40~50cmのところを片手で持ち、もう片方の手で端を持って犬の胸部にかかるようにして前に回します(写真4)。こうするとちょうど馬の手綱の感覚と同じになります。慣れたら2ヵ所とも片手で持って散歩してもいいでしょう。
Case 3 後ろへ引っ張る
Q うちのシェルティはリードを後ろに引っ張って、首輪がスッポリ抜けてしまうことがあります。だからといって首輪をきつくするのもかわいそうだし、何かいい方法はないでしょうか。
プレミアカラー
気になるものがあったり、自分の行きたい方向が違う場合があるでしょう。後ずさりする前には必ず犬の歩調がゆっくりになって、歩くのが遅れてくるはずです。そこでもし、一緒に歩く飼い主が後ろを振り向いたら、犬は立ち止まってしまうでしょう。そうならないように、犬が遅れ出したらやや速めの歩調で歩くようにしてください。それでも止まってしまったら、いったん戻って犬と同じ位置に立ち仕切り直しを。「一緒に走ろう、よーいドン!」などと声をかけて楽しく走らせるように気を向けます。この場合でも決してリードを無理矢理引っ張らないようにしましょう。

 またフードおやつを手に持って、犬の鼻先に持っていき、そのままの状態で歩き続けるのも手です。フードに誘われて歩くようになります。

 シェルティなどの頭の小さい犬や首が太いパグなどの犬種は、後ろへ引っ張ると、首輪がスポっと抜けてしまうことがあります。そういう心配は、ハーフチョークタイプのプレミアカラーをすることで解決できます(写真5)。ふだんはゆったりしていますが、リードを引っ張ると首に密着するので抜けません。あらかじめ首を締め過ぎないように調節しておくので、犬にストレスをかけず、しつけ全般にもおすすめです。
Case 4 階段で引っ張る
Q 平坦な道路では問題ありませんが、階段に来ると決まって引っ張り出します。特に下りは危険なので、落ち着いて歩けるようにしたいのですが…。
 ふだんから歩くしつけを十分している人でも、どういうわけか階段では練習したことがないというケースが少なくありません。上りは少々引っ張られても「楽に上がれてラッキー」ぐらいですみますが、下りはそういうわけにはいきません。

 まず階段を下りるときには、「今から階段を下りるよ、ゆっくりね」という合図も込めて、直前で「オスワリ」をさせてごほうびを与えます。そうして一旦落ち着いてから下り始めます。急いで下りそうなときには、手にフードを持って気を引きながら一段ずつゆっくり下りるようにします。もし、自分より早く行き過ぎたら、少し戻ってやり直し。下り切ったところで再び「オスワリ」をさせてごほうびをあげます。これをくり返し練習すると、階段で突進することはなくなるでしょう。

 さらに上達を願うなら、下り始める前に、「マテ」をさせ、下り切るときには後ろ足だけが階段に残っている状態で「マテ」をさせます。これに慣れたら、同じ位置で「マテ」と声をかけずに止まるようにします。こうするといずれ犬が階段の終わりを教えてくれるかのように止まるようになることもあります。
Case 5 歩かない
Q 散歩の途中で立ち止まり、その場に座り込んでしまうことがしばしばあります。こんなときに歩かせる方法はないものでしょうか。
座り込んだ大型犬を立ち上がらせる方法
飼い主にかまってほしい、怖い場所がある、暑くて本当に歩くのが辛いなど、犬が散歩中に歩きたくない理由はいくつか考えられます。そんなときに無理矢理リードを引っ張ると地面に引きずって足の裏を擦ったり、首を痛める恐れがあります。また小型犬のようにすぐだっこしていたのでは、ますます歩かなくなってしまいます。やはり、犬が自分から歩こうとするよう導きたいものです。

 小型犬の場合は、リール式になった伸縮タイプのリードを使います。座り込んでしまったら気付かないフリをしてリードを伸ばして先に進み、物陰に隠れます。するとほとんどの犬は見えなくなった飼い主の姿を探そうとして歩き出します。そこで姿を現せば、大喜びで駆け寄ってくるはず。「歩かないと飼い主はいなくなる」と学習させられればOKです。ただし、この方法は危険性のない場所で行うようにしましょう。

 中・大型犬の場合なら、進行方向と逆向きの、座り込んでいる後ろ足に向けてリードを斜め下に引くと、自然に立ち上がります(写真6)。立ち上がったらフードなどのごほうびをあげ、さっと歩き出しましょう。

 いずれの場合も、あまりにも歩くことを嫌がるようなら、足腰に不具合が生じていたり、病気の可能性もありますので、獣医師に相談してみましょう。
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