健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

木村佳友さんインタビュー介助犬シンシアとともに社会参加への道を切り開く

木村佳友さん (兵庫県宝塚市在住・日本介助犬アカデミー理事)
http://homepage3.nifty.com/cynthia/

個人企業から始まり企業、行政、そして法律まで

――シンシアとの信頼関係が深まるにつれ、外へ出る機会も増えていったと思いますが、周囲の介助犬に対する反応はいかがでしたか。

シンシアが介助犬になったのは'96年の7月、日本で3番目でしたから、まだ介助犬 は知られていませんでした。だからペット扱いされて、そんな訳のわからない犬はダメですって言われる場合がほとんどでした。そんな中でたまたま犬好きの店長さんがいると話を聞いてくれて、「試しに今日は入ってみてください」と言われ、1時間食事してる間テーブルの下でおとなしくしてるので「これだったら来てもらっていいで すよ」と、OKをいただく店も現れて・・・。マスコミでも取り上げられるようになり、少しずつ理解が広まっていきました。
スーパーでは、近所のダイエーさんがまずOKしてくれて、'99年7月からは、日用雑貨などは介助犬が取ってもいいけど、食品や衣類はお店の人に手伝って取ってもらうといった内部マニュアルを作った上で、ホテルなどのグループも含めて全店で介助犬を受け入れてくれることになりました。その後、民間ではコープさんや阪急百貨店、大丸、高島屋さんなどでも受け入れてくれるようになったんです。ただしデパートの 場合、商品にはいっさい触らないという条件です。受け入れ方は店によって差があ るんですけど、だんだん、いろんなお店に入れるようになっていきました。

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――お住まいの宝塚市の取り組みは?

'99年3月には、宝塚市も市としてどう対応するかを庁内組織・介助犬支援プロジェ クトチームをつくって、活動してくれたんです。それで市内の公立施設にはすべて介助犬と同伴できるとともに、介助犬のハーネスの作製費を1万円を限度に補助してく れることになりました。また、介助犬同伴可のステッカーを全国からデザイン公募し て作ってくれて、2000年の5月から公立施設にすべて貼ってくれました。ハート型のマークに犬の絵を描いたもので、民間にもそのステッカーを配ってくれるようになり、今市内で4000店くらい貼っていただいています。

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――宝塚市で受け入れられたら、周囲の地域にも広まっていったんでしょうか。

確かに、兵庫県でも2000年9月には兵庫県介助犬同伴利用促進要綱ができました。兵庫県が指定した認定団体(現在は、日本介助犬アカデミーのみ)の認めた介助犬なら、兵庫県に申請すれば兵庫県登録の介助犬として、IDカードを発行してくれるようになったんです。他府県に住んでいる介助犬使用者もアカデミーの資格証明を得ていれば、兵庫県に申請することで登録されます。IDカードを持つと兵庫県の公立施設も全部行けるようになりましたし、神戸市営地下鉄もシンシアと一緒に乗れるようになったんです。

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――そうした働きかけもあって、身体障害者補助犬法ができ、10月から実施されることになったんですね。

シンシアが介助犬となった6年前には法律ができるなんて思ってもみませんでした。まず’98年の9月に旧厚生省が介助犬の基礎的調査研究班に助成金を出し、介助犬の調 査を始めてくれたんです。その後シンシアを連れて国会に傍聴に行ったり、国会議員さんに介助犬の説明をしたりという活動をして、’99年7月に介助犬を推進する議員の会が発足。その12月には同会と日本介助犬アカデミーの連名で、当時の厚生大臣へ介助犬に関する検討会を設置してほしいという要望を出しました。シンシアも一緒に行ったんですよ。それで2000年6月に旧厚生省に介助犬に関する検討会ができ、約1年間の検討の結果、「介助犬は肢体障害者の自立や社会参加を促進し、生活の質の向上に効果がある。しかし、介助犬は、統一的な訓練基準等のもとに育成される必要があることから、介助犬の訓練基準のあり方等について、育成団体、障害当事者、学識経験者等により、具体的な検討を行うことが必要である」ということになったんです。そして2001年10月、介助犬の訓練基準に関する検討会の発足を経て、ついに今年5月、身体障害者補助犬法(※注2)が成立しました。

身体障害者補助犬法とは?
視覚障害者のための盲導犬、聴覚障害者のための聴導犬、肢体障害者のための介助犬、それらのサポート犬をまとめて身体障害者補助犬と呼び、障害者の権利として、補助犬のアクセス権を保障してくれる法律のことです。このたびこの法律が成立し、10月から施行されました。
大きく変わるのは、盲導犬、聴導犬、介助犬いずれも電車やバスなどの交通機関、図書館や美術館などの公的施設、公共性の高いホテルやレストランなどの施設に同伴する権利が保障されるということです。それに伴って、育成団体や使用者の責任もはっきり示されています。
これまでは身体障害者補助犬のユーザーのアクセス権を保障する法律はまったくなかったので、社会参加を保障し、育成者やユーザーにも明確な責任を課していることは、画期的だといえます。
盲導犬同伴可ステッカー