健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

木村佳友さんインタビュー介助犬シンシアとともに社会参加への道を切り開く

木村佳友さん (兵庫県宝塚市在住・日本介助犬アカデミー理事)
http://homepage3.nifty.com/cynthia/

電車へ、ホテルへ、レストランへ 同伴が当たり前になれば・・・

――今までとどんなことが変わりますか。

まず、すべての鉄道に事前の許可なしで自由に乗れるようになります。今までは介助犬は事前審査が必要で、いろんな書類を出したり面接があったり、試乗試験があったり。しかも同じような試験を何度も何度も各社ごとに受けないといけなかったんです。それが身体障害者補助犬法ができれば、電車をはじめ飛行機、バス、船、すべての公共交通機関に補助犬を連れて乗ることができるというアクセス権が保障されます。盲導犬の場合、今までも同伴できたんですが、それはアクセス権の保障ではなくて、道路交通法で視覚障害者は道路を歩く時に白い杖か盲導犬を連れていなければいけないという義務だったんですよ。

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――同じように見えても、義務と権利では意味が全く違いますね。

乗り物以外に、国や地方自治体、国が管理する公益法人などの施設でもすべて補助 犬を受け入れないといけなくなるんですよ。それにホテルやレストランなど不特定多数の人が利用する公共性の高い施設については、民間施設も受け入れが義務化されるんです。今までは盲導犬でもホテルに泊まる際、断られることがしばしばあったそうで、今回の法律は盲導犬ユーザーの方も喜ばれています。残念ながら違反しても罰金や罰則規定はないし、また民間の管理する住居や職場については、受け入れる努力をしなければならないという努力義務になってしまいました。それでも法律があることで、今までは受け入れ側の人にお願いして良心に訴えないと入れてもらえなかったのが、今度からは「こういう法律があって義務化されたんですよ」と言えます。権利として、介助犬を同伴することができるというのは大きいことだと思います。

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――ほかに今回の法律の特徴は?

今回の法律では、受け入れ側の義務だけじゃなくて、育成団体やユーザーにも責任を課されているんです。育成団体は障害者が介助犬のコントロールができるように公衆衛生上問題ない犬を選んで、社会に迷惑をかけない介助犬を育成しないといけません。視覚障害者や聴覚障害者は障害の共通性が高いんですけど、肢体障害者の場合は 障害の内容が多様なので、その人の障害とニーズに合わせて、介助犬のトレーナーだ けではなく、リハビリテーションの専門家や獣医さんにも相談して一緒に訓練しない といけないことになっています。また、ユーザーと介助犬とトレーナーが一緒にする 合同訓練を行ったり、アフターフォローをしなくてはいけないという責任も出てきま す。また、ユーザーは介助犬を適切に管理して、病気の間は連れ歩かないとか、公衆 衛生上社会に迷惑かけないような責任が課されています。

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――育成訓練を受けたら、介助犬として認定してもらえるのですか。

今までは育成団体が個々に指定していましたが、法律ができたら、介助犬の場合、 厚生労働省から指定された認定団体が介助犬の認定を行うことになっています。すでに介助犬として働いている場合も、2年間の猶予があり、それまでにちゃんと指定の 認定機関で認定を受けないといけないことになっています。シンシアも今のままでは自称介助犬だから、認定を受け直さないといけないんですよ。

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――認定された介助犬の印として、盲導犬の白いハーネスのように、介助犬にも共通 のハーネスがあるのですか。

ユーザーの障害によって着けやすいハーネスが異なるので、介助犬のハーネスは共 通ではありません。だから、補助犬法では、補助犬である旨を明らかにするための表示をしなければならないことになっています。シンシアは今、IDカードのついた黄色いケープを使っています。暗いところでも光って見えて、横に介助犬と大きな文字が入って見やすくなっているんです。

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――宝塚市で作製されたステッカーはどうなるんでしょう。

将来的にはステッカーが貼っていなくても、どこでも行けるようになればいいと思 ってるんですけど、今の段階では、受け入れてもらえるように介助犬のことを啓発す る必要があると思うんです。法律ができたからといってステッカーをやめるとか、啓 発をやめるんじゃなくて、むしろこれからは、もっともっと、受け入れてくださいと いう活動がかなり重要になってくると思います。今のところ、介助犬のステッカーは宝塚市のものが使われていますが、今後は、盲導犬、聴導犬、介助犬が補助犬として法律で認められるわけですから、3つを一緒にした補助犬同伴可というステッカーに統一されるといいかもしれませんね。

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――介助犬とそのユーザーの方に会ったとき、私達ができること、気をつけることは ありますか。

まず、お願いしたいのは、街で盲導犬、聴導犬、介助犬を見かけたとき、むやみに 触らないでいただきたいんです。よく「かわいいね」って頭をなでられるんですよ。 基本的に訓練を受けている犬は頭をなでられようがじっとしてるんですが、犬も人間 も知らない人に触られると緊張もするし、ストレスにもなります。触られたいワンち ゃんが人の方に寄って行くなど、変なくせがついても困りますので、飼い主さんに「触ってもいいですか」と聞いてからにしてください。
それと、できればなんですが、僕達がスーパーなどで介助犬を連れてお店の人と交 渉をしてると、よく「周りのお客さんの迷惑になるから」って断られるんですよ。も し、そういうところに居合わせたら、「迷惑にならないから入れてあげたらいいんじ ゃないですか」とか「法律ができたんだから入れるはずですよ」と言ってもらえると 助かります。実際、法律ができたからといって、すぐにどこの店でも受け入れてくれ るとは限りません。この法律をきっかけに、さらに理解が深まり、どこでも受け入れ てもらえるようになればと願っています。

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――本日はありがとうございました。


介助犬シンシア

介助犬シンシア 木村佳友、毎日新聞阪神支局取材班著(毎日新聞社)
日本介助犬アカデミー理事・木村佳友さんの、障害の原因となった事故当時から現在までのリハビリの苦闘や、介助犬シンシアとの自由な外出を求める運動の様子を紹介。毎日新聞の連載をまとめた、感動のルポです。印税はすべて、毎日新聞大阪会社事業団「シンシア基金」に寄付され、介助犬の育成・普及に役立てられます。

介助犬

介助犬 高柳友子著(角川書店)
医師や獣医師、動物の研究者、介助犬のトレーナーなど、各分野の専門家が集まり、介助犬について研究する非営利団体、日本介助犬アカデミー。その専務理事である高柳友子さんが、介助犬の役割や歴史、今後の展望などについてわかりやすく綴った本です。この本の印税はすべて介助犬の普及・育成活動にあてられます。


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