ふと読みたくなる、猫の本

猫のいる日々

Vol.10

猫なんかよんでもこない。
(実業之日本社)

杉作 著
実業之日本社
定価945円

みなさんは「クロ號」という猫マンガを知っていますか?
週刊マンガ誌の「モーニング」で2003年まで、
その後隔週マンガ誌「イブニング」で2005年まで
連載されていた、クロという猫の話です。
筆で書かれた柔らかいタッチ、
キョロッとした瞳が愛くるしいクロ、
飼い主のヒゲとのやりとりで人気を集めました。
今回紹介するのは、そのクロが拾われ、旅立つまでの話をまとめた、
作者・杉作氏のエッセイ的マンガです。

マンガと言っても、一つの話は15コマ完結。
しかしその15コマに、はまってしまいます。
クロが拾われてきた話、杉作氏が飼い主になるまで、
近所の猫社会などなど、
オス猫クロとメス猫チン子、飼い主の杉作氏、
三者三様、だけどしっかり繋がっているという
日常が表情豊かに描かれています。

プロボクサーとして世界を目指していた飼い主、
もともと猫は好きじゃなかったのに、
「世界をめざすオレサマが、猫の世話かよ……」
とぼやきながらも、気が付くと夢中になっている。
現在猫を飼っている人の中には、
もともとは飼う予定がなかったのに、という人もいることでしょう。
そこに、
「猫がどんどん、日常の景色になじんでゆく」
というひと言が、グッと響きます。
猫が人間との暮らしになじんでいく様子が、
このフレーズを読むだけでも頭に浮かんできますね。
ちょっと話が逸れますが、猫と人は、
犬と人よりも遙か昔から、共に暮らしていたと言われる仲。
だからでしょうか、同じ言葉を犬との暮らしにあてはめても
「なじんでいく」というフレーズは
やはり猫とのそれにしか当てはまらないのだ、
なんて妙に納得してみたり。

やがてクロは、飼い主の判断
(オスだからという理由で去勢しなかった)
が原因でエイズに。そしてとうとう、冷たくなってしまいます。
亡くなる前夜、おなかに手を当てる飼い主を
じっと見つめ返すクロ。
この時にはもう、自分の状況を理解していたのでしょうね。

そんなクロとの別れもあり、飼い主(=作者)は
「クロ號」でデビューしたのでした。
時間があるときに少しずつ読むつもりで購入したのに、
結局一気に読み終えてしまう。
そんな一冊を読んだら、ぜひ本編の「クロ號」も、
手に取ってみてくださいね。