ふと読みたくなる、猫の本

猫のいる日々

Vol.10

猫のいる日々
(徳間文庫)

大佛次郎 著
徳間文庫
定価580円

「鞍馬天狗」や「赤穂浪士」の作品で知られる大佛(おさらぎ)次郎は、
数ある猫好き作家の中でも三本の指にはいるのではないか、
と言えるほどの“猫大好き作家”。
小学校一年生の時に初めて猫を飼って以来、
本書のあとがきによると、昭和37年(大佛64歳)までの間に
のべ500匹以上の猫と暮らしてきたのだそうです。
これはスゴイ数字!

さて、本書はそんな作家が、
エッセイスト的に綴った短編を集めたものです。
実は猫に関する随筆だけでも60本ほどを執筆しており、
そのほとんどが、自身が共に暮らしていた猫とその日常のこと。
常に10匹以上の猫が作家と暮らしていたと言います。
猫好き夫婦なんだな~、なんて思ってしまいますが、
実は奥さんは当初、猫が苦手だったそう。
それがいつの間にか、大佛以上の猫好きに。
納められている作品のほとんどは、
たくさんの猫と作家自身、そして奥さん、
加えて知人、友人、近所の猫、旅先の猫など、
大佛邸を中心とする猫中心の世界の話。
読み進めながら感じるのは、
とても冷静に、人間と猫を見ているところでしょうか。
言葉を生業にしている人ですから洞察・表現がうまいのは当然なのですが、
大佛の場合、
猫との間に一定の距離を保ちつつ、
猫の行動と飼い主の心情、そしてその逆を綴っています。

「私には、やはり、仕事をするのに猫と本とが手もとにないといけないらしい」
と自負しながらも、時には
「ここにある本を叩き売り猫の一味を何とか処分してしまわなければ決して佳いものは書けない」
なんて書いてみたりすることころも、なんだか親近感。
「一匹の猫はよい。十五匹は、どう考えてもいかん」
「猫が十五匹以上になったら、おれはこの家を猫にゆずって、別居する」
常々そう考えていたところ、ある時数えてみたら一匹多い。
そのことを奥さんに告げると
「それはお客さんです」とさらり。
文章の中にちりばめられたそんなやりとりも和みます。

本書は短編をまとめたものですが、時系列で並べてあるため、
戦前から戦後にかけての人々の暮らしを垣間見られる点も、
意識して読めばなお楽しめるのではないでしょうか。
読みごたえ十分の本作、最後に納められているのは、なんと童話。
猫のすばらしさを、次の世代に伝えようと考えての作品かも知れませんね。