ふと読みたくなる、猫の本

猫だましい

Vol.5 こころの専門家的、猫解釈

猫だましい
河合隼雄著
新潮文庫
定価460円

河合隼雄さんといえば、臨床心理学者であり、文化庁長官も務めた人。
心理学的分析をふまえた様々な著作でも知られた人ですが、
大の猫好きでもありました。
本書は、「新潮」での連載に加筆し、2002年に出版されたものです。
タイトルの「だましい」とは、
"たましい"と"だまし"を掛けた言葉だそう。
猫は「たましいの顕現と呼びたいほどに感じるときもある」存在であり、
人間がペットに惹かれてしまうのは、
この不確かな「たましい」を人間が持っているから、
と本書冒頭で河合さんは書き、そこからズンズン、
河合ワールドへ入っていくのがこの本ではないでしょうか。

エジプトで神の象徴と崇められた歴史からひも解き、
それがユングの弟子による「猫マンダラ」へと結びつく。
有名な「長靴をはいた猫」は
トリックスターという解釈で物語の深層まで進み、
話はなんと源氏物語へと飛躍(!?)
ほかにも日本昔話における猫から
「セロ弾きのゴーシュ」に登場するネコ、
近年話題になった絵本「100万回生きたねこ」まで、
河合さんがこれまで読んできた様々な本から
選りすぐりのネコ話を紹介し、
河合隼雄的解釈で見事なまでに解説してくれています。
実は河合隼雄という人は、
日本をはじめ世界のいろんな物語への造詣も深く、
ゆえにこれほどまでの物語解釈が、生まれてきたわけですね。

本書を読み終えたあと、きっと本屋へ行きたくなると思います。
向かう先は間違いなく絵本コーナー。
そう、子どもの頃に読んだ話を、
ネコを中心にもう一度読みたくなるはずです。
それはノスタルジックではなく、ちょっとした思索の旅。
たまにはそんなネコ時間も、いいですよね。