ふと読みたくなる、猫の本

猫

Vol.2 文学作品か、それとも作家たちのつぶやきか

『猫』
クラフト・エヴィング商會プレゼンツ
中公文庫
定価580円

書店の棚に目を泳がせていて、
ふと見つけた、一冊の文庫本。
シンプルな装丁に、愛らしい猫のイラスト。
一昨年映画化された「つむじ風食堂の夜」、
その原作者・吉田篤弘と奥さんのユニット、
「クラフト・エヴィング商會」によるものでした。

あとで知ったのですが、これは「犬」「猫」と2冊が対になって
出版されたもの。
内容はともに、複数の作家による自身の犬・猫ばなし。
ちなみに「猫」は、
1955年に中央公論社から発行されたものを再編集した作品です。

文豪が自身の猫について書いた作品として、
夏目漱石の「吾輩は猫である」はあまりにも有名ですね。
それは作品的、というのは私感ですが、
ここに収められている短編の数々は、
どちらかというと“作家たちのつぶやき”的なものでしょうか。
ゆえに文学作品としてじっくり読むもよし、
猫を愛する一人として、他者のケースを
垣間見的に読むのもよし。
寺田寅彦、井伏鱒二、大佛次郎、谷崎潤一郎、壺井栄…
そうそうたる面々の猫ばなしが、
手のひらサイズで展開していきます。

読み進めていくうち、さすがだなと思えるのは、深い描写。
世界中で多くの作家たちが猫に関する作品を残していますが、
同様に、本作に収められている
文筆を生業としてきた方々による猫の描写は、
読みながら、
シーンがありありと頭に浮かぶほど。
ひとえに、それぞれの猫愛がなせる技でしょうね。
今では動画サイトなどでさまざまな猫の
いろんな姿を見ることができますが、
それよりも、想像の中に姿を現してくる猫たちの、
なんと生き生きとしていることか!

有馬頼義は「お軽」、猪熊弦一郎は「みっちゃん」、
大佛次郎は「ミミ」、
それぞれがそれぞれの猫を、それぞれのかたちで看取る。
尾高京子は「ポツダム」に飼われ、
柳田國男は、独特の視点で古今東西の猫観察論を展開。
ゆったりとした時間の中で紡がれた
これらの作品は、
想像をかきたてながら、
時にもの悲しく、時に微笑ましく、
愛にあふれた人と猫との暮らしを見せてくれます。

また、話の本筋とは違った視点で面白く感じられるのが、
それぞれの作品に紛れている、
執筆当時の世間で言われていたであろう、猫に関する評。
時代と共に生きた猫とその家族、
そんな視点で読んでみるのも、
おもしろいと思いますよ。