ふと読みたくなる、猫の本

水木サンの猫

Vol.1 ネコの振り見て我が振り直す。

『水木サンの猫』
水木しげる著
講談社漫画文庫
定価788円

ここ数年は、空前のネコブームと言ってもいいくらい、
巷はネコの話題や様々なモノであふれています。
もちろん猫の飼育頭数も近年は全世帯数の11%ほどと、
10人に1人はネコを飼っている計算。
そんな状況下でネコの寿命も延びているようで、
最近では10~14年が平均と言われ、
15年以上生きているネコも少なくないようです。
ギネスブックには、34年2か月と4時間もいるほど。

ネコの寿命と言えば、
日本の民間信仰の中には、10数年生きたネコは化け猫になるというものがあります。
実際に茨城県や長野県で12年、沖縄のある地域では13年生きたネコが
化け猫になるといわれ、ネコを飼う際に飼育年数を定めていた地域もあるとか。
いったいなぜ、これほどまでにネコの逸話が多いのでしょう?
一つには、人間の近くで暮らしながらもどこか神秘性を秘めた、
その行動にあるのではないかと思います。
多くの場合、動物が物語や伝承の素材になったということは、
その動物がそれだけ人間から愛されていたり、注目されているから。
その点、伝承や物語が多い動物の一種であるネコは、
最も人間の近くにいて人間に見られている動物、ということになりますね。

さて、ここで考えてみましょう。
果たしてネコは、人間の生活をどう見ているのでしょうか?
そんな疑問を抱いた際に読んでみたいのが、
昨年は大活躍の一年だったであろう、漫画家・水木しげる氏の作品。
部類のネコ好きとしても知られ、かつてインタビューでは、
「ネコはちゃんと独自のものを持ってますからね」と、
ネコ好きとして彼らに敬意を表する発言をしたこともある水木氏。
そんな彼の作品群から、
ネコについて作られた漫画ばかりを集めたのが「水木サンの猫」です。
さらりと読むと、それは妖怪譚。
しかししかし、読み終えてからよくよく考えてみると、
作品の内容、話の中に登場する猫の仕草などに、
思わずドキッとするものが多いことに気付きます。

人間の世界を人間の視点だけで見ているのが私たち。
しかし猫の目から見てみると、
私たちが常識と疑わないことも、実は奇っ怪な行動だったりするんですね。
ということは、私たちが猫に対して感じていることだって、
もしかすると猫にとってはとんだ筋違いな解釈なのかも知れない。
巻頭に収められている「ねこ忍」では、
実は人間がネコに飼われている? とドキッとし、
日本の妖怪譚に多い“猫又”を題材にしたいくつかの話では、
自身の猫の気持ちを、つい推測したくなるかも。
水木氏も登場する最後の「猫の町」なんて、
う~ん、そんなことだってあり得るかも、と頷いてしまうかも知れません。
町田 康による解説も、必読です。