ペットと共に生きること

第29回 すべての人と、考えたいから。

動物愛護を考えるとき、必ず私たちの脳裏に浮かぶのは各地域の動物愛護センターなどにいる、保護犬・猫のこと。写真展や関連書籍などで、だいぶ認知が広がりましたが、それでもまだ、「かわいそうで見てられない」と
頭では分かっていても、直視できない人もいるようです。
ならば、新しい家族と楽しく暮らしている姿は、
見てもらえるのでは?
そして、そこから動物愛護について考えてもらうことが
できるのではないでしょうか。

犬に感謝する日々から

新しい家族に迎えられた保護犬の暮らしを紹介する
写真展があるのをご存知ですか?
ご自身も2頭の保護犬と暮らしているという藤井あいみさん、その友人でありカメラマンの島 静香さんなど有志で活動している「CLUB WAG」が主催しています。
“WAG”とは、犬がうれしくてシッポを振る仕草のこと。
新しい幸せを見つけた犬が、生活を楽しんでいる様子が名前からも目に浮かびますね。
保護犬と暮らすようになったきっかけを藤井さんは
「行き場のない犬を助ける気持で飼い始めた」と言います。
しかし実際に暮らすようになると、犬たちとの暮らしはただただ楽しく、
犬たちに感謝する日々なのだそう。
ふれあいだけでなく、
その楽しさを分かち合い、飼育上の悩みも相談できる
友人、知人に恵まれたことも、
犬との暮らしの幸せを広げてくれた要因だとか。

そんな生活の中で、藤井さんは気付きます。
「犬との暮らしのなかでは、時に悩みや問題が生じることもある。
そんなとき、こうした同じ立場の人とのコミュニケーション手段があれば、
飼い主さんが一人で思い悩まずに、
正しい知識と心の支えを得て愛犬と向き合っていただけるのでは。
それが、安易な飼育放棄をなくすことにもつながるのでは」
何より、
一人でも多くの方に保護犬と暮らすという選択肢とその楽しさを伝え、
第二の犬生を与える尊さ、温かさを感じてもらいたい
と考えるようになったそうです。

命ある喜びと幸せを伝える


飼い主によって保健所に
持ち込まれた経験を持つ。
信頼していた飼い主に見放されたため、
当初は人間不信も見受けられた。
今は里親の優しさにふれ、
とても穏やかに過ごしているそう。


老いるまで何度も繁殖を繰り返させられた
小さな体には、帝王切開の跡が残り、
歯もなく、声帯もない。
「もらわれにくい犬を引き取りたかった」
という里親に引き取られ、
二頭一緒に幸せな余生を過ごしている。

2013年春、藤井さんは「CLUB WAG」を設立。
島さんと共に、
新しい飼い主のもとで楽しく暮らす犬の写真を
撮影して回り始めました。
やがて、それらの写真を見てもらう写真展を開催。
「保護施設にいる姿も現実ですが、
まずは犬と里親さんの幸せな姿の写真で
助けられた命のある喜びと幸せを伝える。
その活動を、 より多くの人が保護犬・猫のことに興味を持つきっかけに」
という気持でのスタートでした。

会場では
「保健所に持ち込まれる犬は問題のある犬だと思っていた。飼い主の身勝手な理由で持ち込まれているなんて…」
という声をよく聞いたそうです。
中には雑種ばかりでなく、純血種や小型犬が収容されている事実を知らなかった人もいたとか。
愛犬の母犬も同じ境遇かもしれないと涙する人、
次に迎えるときは保護犬にすると言ってくれる人…。
写真展でのたくさんの人とのふれあいは、
藤井さんに活動への手応えを感じさせてくれました。

11月には東京でも写真展を開催。
今後は全国で写真展を開催していきたいそうです。動物愛護の心を新しい形で提案していく活動は、
これからも広がっていきそうですね。

写真展だけでなく、飼い主同士のネットワークを構築し、
情報共有はもちろん共に学んだりサポートし合ったり、
そんな関係をつくっていくことで、
犬とのよりよい関係を構築するお手伝いをしていきたい、
という藤井さん。
「動物愛護は一部の人のものではなく、
動物を愛するすべての人で考えていかなくてはならないもの」
そんな彼女の強い気持ちは、たくさんの人に伝わっていくはずです。

愛犬を大切に育てることを通して、
その先に同じ命があることに気付いてもらえれば、
という藤井さんの言葉が印象的でした。