阪神・淡路大震災のとき、家屋の倒壊などで被害を受けた被災者が、ペットを一緒に連れて避難したケースは少なくありませんでした。しかし、震災直後はどの避難所も混乱していましたし、避難された方が全て犬好きというわけではありません。大きい犬を見てこわがる人もいれば、犬同士のトラブル、トイレの不始末などで苦情が出ることもしばしばといっても建物の外につないでおくと犬のストレスもたまり、ムダ吠えがひどくなることもあり、犬・猫を連れて一緒に避難することはいろいろな問題や障害もありました。
こんなときに最低限求められるのは、犬がおとなしくケージに入っていられること。これができれば犬も猫も飼い主のそばにいて安心できるうえ、ケガをした場合にもそのまま動物病院に搬送できます。実際、ケージに入るのを嫌がってパニックになり、それが原因で事故を起こした犬もいたそうです。普段から、必要なときにはケージの中に入る練習をしておきたいものです。(ケージの中でおとなしくしていられるようにする練習を、クレートトレーニングといいます)。
避難所の受け入れ状況は、責任者が犬に慣れていて理解のある人であればトラブルが少なく、反対に犬が苦手な人のところではトラブルも多いという傾向がありました。犬に慣れている人の場合、たとえ飼い主が「この犬はおとなしいから大丈夫」といっても、危険性があると判断すれば、むしろ受け入れ方を制限し、未然にトラブルを防いだこともあったようです。
どちらにせよ他人に及ぼす迷惑が少なければ、避難所でも犬を受け入れてもらいやすくなります。飼い主ですらこわくて触れられない犬なんて、もってのほかです。普段から健康に留意して手入れもきちんと行い、何よりしつけができていること。非常時にこそ基本的なモラルが重要性を増します。普段、番犬として外飼いをしている犬や、問題行動を抱えており、他の人と一緒に避難所で生活するのが無理だと判断した飼い主のなかには、公園でテント生活をしたり、犬を連れて自家用車内で暮らす人も見られました。その場合でも、問題がひどければ暮らしにくいものです。
また、びっくりして逃げ出したまま行方不明になってしまった犬もいましたし、住居の問題など深刻な被災状況によって、やむをえず犬が飼えなくなったり、犬の保護を求めた人もいました。
阪神・淡路大震災のケースでは、被災動物の救護や保護を目的に、兵庫県と神戸市の協力を得ながら、(社)兵庫県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物福祉協会阪神支部を中心とした兵庫県南部地震動物救援本部が震災後に設置されました。そして家屋の倒壊などにより、一時的に飼い主と離れなければならなくなったり、飼い主とはぐれて迷子になってしまった犬や猫たちの保護管理、ケガをした動物の治療、そして新しい飼い主を探す拠点施設として、神戸市北区と三田市に動物救護センターが設置されました。 |
|
ここで診察を受けた犬や猫などは8094頭、保護収容された総数は1556頭にのぼりました。そのうちの1409頭が新しい飼い主が見つかるか、または元の飼い主に返還されました(次頁のグラフ1参照)。
この例からも、災害の発生時には行政と獣医師、そしてボランティアが協力して運営する動物救護センターの開設と円滑な運営が必ず必要になります。2000年の有珠山噴火による災害でも、動物救護センターが設立されましたし、三宅島の噴火による避難の際にも、被災動物を保護・救護する体制がとられました。今後も万が一、大きな災害が発生した時には、同様の動物救護センターの早急な設置が求められるでしょう。
どんな場合も、動物に関してどこが管理し、受け入れ体制はどうなっているのかなど、正確な情報を得ることが肝心でしょう。
いつ何時、災害が発生するかわかりません。前述のクレートトレーニングの他にも、ペットも一緒に被災した場合のことを考えて、日頃から少しでも準備しておきたいことがあります。
災害の内容や規模、種類によって対応も異なりますが、万一の場合でも慌てたりしないように、避難する場所はどこなのか、非常用の袋はどこに置いてあるか、など家族全員で確認しておきましょう。同時に、家族の一員である愛犬や愛猫についても万一の場合、困ることがないように対策を考え、準備しておきたいものです。飼い主さん自身で面倒をみるというのが基本には変わりありませんが、状況によってどうしても不可能なときはどうするかも、家族全員で相談しておく必要があります。