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愛犬・愛猫のために心がけたい防災対策

愛犬・愛猫のために心がけたい防災対策

防災対策トップへ 愛犬・愛猫のために心がけたい防災対策チェックシート  

●普段のしつけが決め手「クレートトレーニング」を

当初はビニールハウスの中にケージを並べて保護・収容

阪神・淡路大震災のとき、家屋の倒壊などで被害を受けた被災者が、ペットを一緒に連れて避難したケースは少なくありませんでした。しかし、震災直後はどの避難所も混乱していましたし、避難された方が全て犬好きというわけではありません。大きい犬を見てこわがる人もいれば、犬同士のトラブル、トイレの不始末などで苦情が出ることもしばしばといっても建物の外につないでおくと犬のストレスもたまり、ムダ吠えがひどくなることもあり、犬・猫を連れて一緒に避難することはいろいろな問題や障害もありました。

パドック付きのプレハブ犬舎が完成

 こんなときに最低限求められるのは、犬がおとなしくケージに入っていられること。これができれば犬も猫も飼い主のそばにいて安心できるうえ、ケガをした場合にもそのまま動物病院に搬送できます。実際、ケージに入るのを嫌がってパニックになり、それが原因で事故を起こした犬もいたそうです。普段から、必要なときにはケージの中に入る練習をしておきたいものです。(ケージの中でおとなしくしていられるようにする練習を、クレートトレーニングといいます)。

 避難所の受け入れ状況は、責任者が犬に慣れていて理解のある人であればトラブルが少なく、反対に犬が苦手な人のところではトラブルも多いという傾向がありました。犬に慣れている人の場合、たとえ飼い主が「この犬はおとなしいから大丈夫」といっても、危険性があると判断すれば、むしろ受け入れ方を制限し、未然にトラブルを防いだこともあったようです。

●飼い主以外の人に触れられていても平気か

救援物資が全国から届きました

どちらにせよ他人に及ぼす迷惑が少なければ、避難所でも犬を受け入れてもらいやすくなります。飼い主ですらこわくて触れられない犬なんて、もってのほかです。普段から健康に留意して手入れもきちんと行い、何よりしつけができていること。非常時にこそ基本的なモラルが重要性を増します。普段、番犬として外飼いをしている犬や、問題行動を抱えており、他の人と一緒に避難所で生活するのが無理だと判断した飼い主のなかには、公園でテント生活をしたり、犬を連れて自家用車内で暮らす人も見られました。その場合でも、問題がひどければ暮らしにくいものです。

 また、びっくりして逃げ出したまま行方不明になってしまった犬もいましたし、住居の問題など深刻な被災状況によって、やむをえず犬が飼えなくなったり、犬の保護を求めた人もいました。

●救援本部が動物救護の窓口として活躍。

阪神・淡路大震災のケースでは、被災動物の救護や保護を目的に、兵庫県と神戸市の協力を得ながら、(社)兵庫県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物福祉協会阪神支部を中心とした兵庫県南部地震動物救援本部が震災後に設置されました。そして家屋の倒壊などにより、一時的に飼い主と離れなければならなくなったり、飼い主とはぐれて迷子になってしまった犬や猫たちの保護管理、ケガをした動物の治療、そして新しい飼い主を探す拠点施設として、神戸市北区と三田市に動物救護センターが設置されました。
当初はテントやビニールハウスを利用して活動していましたが、時間が経つに連れて保護する犬・猫の頭数も増え、5月にはプレハブの施設が完成。ワクチンの接種やケガの治療、新しい飼い主探しのほか、被災地や避難所へペットフードを配給したり、放浪動物の保護収容、情報提供など活動は多岐にわたりました。獣医師と延べ2万人を超えるボランティアの連携のおかげで、震災後の混乱の時期から最善の飼養管理が尽くされたといえるでしょう。

ボランティアの人達によって散歩も
延べ2万人を超えるボランティアが支援
たくさんの獣医師が被災した犬たちの診察にあたった

 ここで診察を受けた犬や猫などは8094頭、保護収容された総数は1556頭にのぼりました。そのうちの1409頭が新しい飼い主が見つかるか、または元の飼い主に返還されました(次頁のグラフ1参照)。

 この例からも、災害の発生時には行政と獣医師、そしてボランティアが協力して運営する動物救護センターの開設と円滑な運営が必ず必要になります。2000年の有珠山噴火による災害でも、動物救護センターが設立されましたし、三宅島の噴火による避難の際にも、被災動物を保護・救護する体制がとられました。今後も万が一、大きな災害が発生した時には、同様の動物救護センターの早急な設置が求められるでしょう。

 どんな場合も、動物に関してどこが管理し、受け入れ体制はどうなっているのかなど、正確な情報を得ることが肝心でしょう。

●災害時でも飼い主さんが、責任をもって面倒をみる心構えを。 普段からしておきたいこと

 いつ何時、災害が発生するかわかりません。前述のクレートトレーニングの他にも、ペットも一緒に被災した場合のことを考えて、日頃から少しでも準備しておきたいことがあります。

兵庫県南部地震動物救援本部保護実績
  • しつけやワクチン接種をはじめ日頃の健康管理はもちろん、不妊・去勢手術をしておくと、預けたり避難所で過ごす場合もトラブルが少なくなります。
  • 食べ物に好き嫌いがあると、配給されるフードが食べられません。偏食があるなら治しておきましょう。
  • 鑑札や迷子札はいつも身に付けさせていますか。また、どんな小さな特徴もわかるように、愛犬の写真を撮って持っておくことも大切です。
  • 犬や猫以外の海外から輸入される動物やエキゾチックアニマルをペットとして飼育している場合、その習性や人と動物の共通感染症なども十分にわかっていないため、他の人に預けたり、動物救護センターでも受け入れができなかったりする場合も考えられます。犬や猫以外の動物をコンパニオンアニマルとして飼育するのは避けておくほうが無難でしょう。
  • 過度の多頭飼育の場合、避難の際に一緒に移動して連れて行くことができないことも考えられます。極端な多頭飼育はしないようにしておきましょう。
  • 人間用の非常袋と一緒に表1のような物資をリュックに詰めたペット用非常袋を用意し、災害時にも忘れずにすぐに持ち出せるよう、準備しておきましょう。

 災害の内容や規模、種類によって対応も異なりますが、万一の場合でも慌てたりしないように、避難する場所はどこなのか、非常用の袋はどこに置いてあるか、など家族全員で確認しておきましょう。同時に、家族の一員である愛犬や愛猫についても万一の場合、困ることがないように対策を考え、準備しておきたいものです。飼い主さん自身で面倒をみるというのが基本には変わりありませんが、状況によってどうしても不可能なときはどうするかも、家族全員で相談しておく必要があります。