健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

犬や猫のガンについて

今回は犬や猫のガンについて麻布大学付属動物病院腫瘍科、日本獣医がん研究会認定医実行委員会、獣医師の川村裕子先生にお話をうかがいました。

えっ?犬や猫もガンになるんですか?

皆さんの中には「動物がガンになんかなるの?」という疑問を抱いておられる方も多くおられるようですが、実は動物たちも「ガン」になります。 それこそ象から魚までガンは発生し、私たちの家族である犬や猫たちも例外ではありません。

 それどころか、犬のガンの発生率は人の2倍以上といわれています。

 また、最近のモーリス動物基金による調査では、ペットの約4頭に1頭が生涯のうちにガンを発症すると報告されており、10才以上の犬の約45%がガンで死亡しています。

 このように、私たちが考えている以上にガンになる犬や猫は多く、決して特別なことではないのです。

どうして「ガン」になるの?

ガンの発生率に驚かれた方も多いと思いますが、昔からこんなに多かったわけではありません。確かに10年くらい前まではそれほど気にはならなかったように思います。

しかし、最近になって「ガン」が目立つようになってきたのは、犬がガンになりやすくなったからではなく、犬の寿命が以前に比べてかなり延びてきたことに大きく関係しています。数十年前、犬はガンになる前にフィラリア症やウイルス病などの感染症により若くして亡くなることが多くありました。

しかし、現在は獣医療も進歩し、飼い主の方も病気の予防や健康管理の意識が高まったことなどから、それらの病気で亡くなることは少なくなりました。その結果、寿命は延び、今度は老齢病であるガンでの死亡率が増えてきたのです。これは医療発展により人間が長寿になったことと同じ理由です。

ではなぜ寿命が延びるとガンになってしまうのでしょう。

生物の身体は何億何兆という膨大な数の細胞が集まって成り立っています。この細胞の塊である生命体は、古くなった細胞は死んで、新しい細胞を作り出すシステムをもっており、そのおかげで生物はいつでもイキイキと活動できるのです。しかし、この素晴らしいシステムも何度も操り返していると故障します。

 古い細胞をコピーして新しい細胞を作る役割を担うものを遺伝子と呼びますが、書類を何百枚もコピーしているとはじめはなかったシミが徐々にできていくように、遺伝子にもだんだんとキズがつき、それがひどくなるとガンになってしまうのです。したがって、年をとればガンになる確率も当然高くなるというわけです。

 ある意昧では、人間も動物もガンになるくらい長生きできるようになったことは喜ばしいことかもしれません。しかし、これからは、私たちだけでなく、私たちの愛する動物たちも一緒に勇気を持ってガンと闘っていかねばならないのです。

「ガン」ってどんなもの?

ガンと闘うためには、まずガンを知らなければいけません。このガンとはどのようなものなのでしょう。一般に、生物の身体の中で、細胞が本来の正常なシステムを無視して勝手に増えてしまう病気を腫瘍(しゅよう)といいます。腫瘍には発生した場所だけで増えるものと、そこだけではなく全身に広がっていってしまうものの2通りあります。前者が良性腫瘍と呼ばれ、命にかかわることはほとんどないのに比べ、後者は悪性腫瘍とよばれ、全身に広がるにつれ、徐々に身体の機能を壊し、命を奪ってしまいます。

私たちが「ガン」とよんでいるものはこの悪性腫瘍のことです。

 この「ガン」には皮膚のガン、骨のガン、血液のガンなどいろいろなガンがあり、身体のどこの場所にでも発生します。

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