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「人と動物の共通感染症」 基礎知識編

ズーノーシス「人と動物の共通感染症」 基礎知識編

人と動物の共通感染症とは、人間と動物の両方に感染し、どちらにも病気を発症させる感染症のことをいいます。最近は、テレビや新聞などでもよく紹介されますので耳にする言葉ですね。しかし、このお話をするのは「動物は病気を持っているので危険だ」とか「汚くて不潔だから気をつけよう」ということをお伝えするためではありません。

 ペピイの読者の皆さんをはじめ現在では多くの方が、愛犬・愛猫たちを家族の一員として、またパートナーとして一緒に暮らしている方が多くおられます。そんな愛犬や愛猫たちとの楽しい生活を守り、安心して快適に過ごしていくために、人と動物の共通感染症についての正しい知識と予防方法をお持ちになってください。

 では、「人と動物の共通感染症」には、どんな病気があるのか、今回は主なものを紹介しましょう。

狂犬病

 狂犬病は名前からは犬だけの病気と思われがちですが、犬や猫、アライグマ、スカンク、コウモリをはじめすべての哺乳類に感染する可能性がある病気です。人間も狂犬病ウイルスを保有する動物に咬まれたり、引っ掻かれたりすると感染してしまう、人と動物の共通感染症のひとつです。

 万一、日本国内で狂犬病が再上陸した場合、犬が人へ狂犬病をうつす感染源となる可能性が一番高いと考えられます。そのため、できるだけ多くの犬が狂犬病の予防接種を受けておくことが、いつ、どのような形で狂犬病が日本に侵入したとしても、人間への影響を未然に防ぐ手だてとなり、愛犬だけでなく私たちの暮しや社会を守ることになります。

 この病気が恐ろしいのは、いったん発病してしまうと、現在の医学では治療方法がなく、致死率が100%の病気であることです。

 1957年以降、日本国内では狂犬病の発生はありませんが、世界で狂犬病が根絶されているのはオーストラリア、イギリス、台湾、ハワイなど一部の国や地域に限られており、逆にアジア(中国や韓国も含め)、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど多くの地域や国では現在も狂犬病が発生しています。これらの地域では犬や家畜だけでなく多くの野生動物にも狂犬病の感染がみられ、世界保健機関(WHO)によると感染動物に咬まれた人のうち、およそ年間3万~5万人もの人が命を落としていると報告されています。

狂犬病の予防注射はなぜ必要なのでしょう?

 狂犬病に感染する可能性の高い犬、猫、キツネ、スカンク、アライグマは、動物検疫所で輸入時に動物検疫が行われています。しかし、世界各地より輸入されているこの他の哺乳動物も相当数にのぼっており、このような状況下では、いつ狂犬病のウイルスが侵入してくるかわかりません。そのためにも万全の検疫体制が必要となってきています。また、犬や猫以外の海外から輸入される小動物もエキゾチックペットとして人気がありますが、狂犬病だけでなく習性や他の人獣共通感染症の可能性もわからないため、コンパニオンアニマルとして飼育するのはおすすめできません。

 ちょうどこの4月~5月の時期には狂犬病予防接種の集合注射が行われます。また、動物病院でも接種することが出来ます。「日本ではずいぶん長い間発生していないのに、なぜ毎年予防注射が必要なの…?」と思われている方もおられることと思いますが、なぜ狂犬病の予防注射が必要なのかをよく理解していただき、忘れずに接種しておいてください。

幼虫移行症

 本来動物に寄生している寄生虫(回虫や鈎虫など)の卵や幼虫が、人間の体内に入り、幼虫が人の体の中を動くことによって起こるさまざまな症状を幼虫移行症といいます。

 多くの場合、食べ物などを介して口から感染(経口感染)します。虫卵で汚染されている野菜を生のまま、あるいは十分に加熱しないで食べた場合や、汚染された土や砂、水との接触などが感染経路となります。幼虫の侵入する場所は眼球、肝臓、脳などに及ぶこともあり、深刻な症状が出ることがあるため注意が必要です。

 子供への感染が多くみられますので、犬と遊んだり触った後や砂遊びをした後、食事の前には必ず手洗いを励行させてください。また、犬や猫の便も速やかに片づけましょう。そして、動物病院で定期的に検便をしてもらい、寄生虫がいるようなら駆虫をしてもらいましょう。

レプトスピラ症

 レプトスピラという細菌の感染により発熱や頭痛、結膜炎、血尿などの症状がみられる感染症です。重症になると黄疸や腎臓障害などの症状もでます。人間や犬のほか、牛、馬、豚などの家畜も感染しますが、特にねずみが最大の感染媒体とされています。感染した動物の尿の中には、大量の菌が含まれていて、それが感染源となります。

 人への感染はレプトスピラ菌を合んだ感染動物の尿に汚染された土壌や水との接触により皮膚の傷、鼻や目の粘膜から体内に侵入します。犬の場合も汚染された水を舐めたり、土に触れることによって感染します。症状には黄疸出血型とカニコーラ型の2タイプがあり、黄疸出血型では、黄疸の他に嘔吐、下痢、歯茎からの出血、血便などがみられます。カニコーラ型は嘔吐、下痢による脱水症状、体温の低下などがあり、手当が遅れると尿毒症を起こし死に至ります。

 犬はワクチン接種で予防することができますので忘れずに予防しておきましょう。

トキソプラズマ症

 トキソプラズマ症は寄生原虫のトキソプラズマが原因でおこる病気で、妊娠中の胎児に影響を与えることから、注意を要する感染症とされています。妊娠する可能性があるのであれば事前にトキソプラズマの検査(血液検査)をしておき、もし抗体陰性(まだトキソプラズマにかかっていない)という結果が出たら、妊娠期間中の女性は特に感染には注意が必要です。

 生肉(豚肉)は素手で触らない、飼い猫には生肉を食べさせない、猫の便は絶対に素手で触らずに速やかに片づける、庭仕事やガーデニングなどで土を触った時、そして食事の前には必ず手を洗う、などが予防には効果的です。

猫引っ掻き病

名前の通り猫(特に子猫)や犬に引っかかれたり、噛まれたりした傷口から感染しリンパ腺が赤く腫れ上がったり発熱し膿瘍になったりします。外傷の消毒や保菌動物に寄生しているノミが健康な犬や猫に寄生することで感染するため、猫にノミの寄生が見られるようなら、駆除と予防が一般的な対応法とされています。猫の爪も伸ばしたままにせず、切っておくようにしましょう。

サルモネラ腸炎

 下痢や嘔吐など食中毒の原因として有名なサルモネラ菌による感染症です。食中毒としては肉や卵からの感染が重要視されています。家畜(ニワトリ、牛、豚など)や、犬や猫などのペット、亀、爬虫類(ヘビ、トカゲなど)も感染源となります。保菌動物は消化管内にこの菌を持ち、糞便とともに菌が排出されます。

 症状としては、腹痛・下痢・嘔吐・発熱などで、予防は「手洗い」と、調理の際に十分に加熱する、ネズミ、ハエ、ゴキブリなどの駆除を行う、などが効果的です。

Q熱(きゅうねつ)

 コクシエラ菌による感染症で世界中に分布しています。家畜からだけでなく、現在では猫等からも感染することが知られています。感染動物の乳汁、糞便、尿、などに排泄され体空気中に舞い上がったものを人間が吸い込むことで感染します。インフルエンザのような症状を示し、だいたい2週間ぐらいで自然治癒するのですが、風邪のような症状が長引いた時は注意が必要です。

エキノコックス症(包虫症・包条虫症)

 エキノコックスは寄生虫の1種で、単包性と多包性の2種類があり、北海道でよくみられるものは、多包性のエキノコックスです。また、成虫(親虫)と幼虫(子虫)がいますが、成虫は主としてキツネに、幼虫は野ネズミに寄生しています。成虫は卵をつくり、その卵が何らかの機会に人の口に入ると、腸で卵から幼虫となり、主に肝臓に寄生し、エキノコックス症という病気を引き起こします。感染率は他の病気に比べ高くありませんが、感染してから自覚症状が出るまでに数年から10数年かかることもあり、気がつかないうちに悪化してしまうことが多い病気です。

 予防法としては、エキノコックスの卵が口に入らないようにすることが重要ですので、安易に野生動物(特にキタキツネ)には触らない、触ってしまった後は手を洗う、生水や山菜・果物などをそのまま口にしない、などが予防には効果があります。

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