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獣医師さんのひとくちコラム 「猫の便秘」の話-その2

獣医師のひとくちコラム

 あがって来たレントゲン像には、変形癒合し内腔がひどく狭くなった骨盤が写っていた。お母さんに保護される前、子猫の頃に何らかの事故に逢い骨盤を骨折し、自然に治癒したということだろう。子猫の頃の骨折は骨の発育期ということもあり、多少のズレがあったとしても、多量の仮骨を生じて治ってしまう。それが骨盤であれば治癒と共に骨盤内腔の狭窄という厄介な問題を引き起こしてしまうのだ。

「お母さん。ミー君は保護される前に事故に逢っていたみたいですね。その結果、骨盤が歪んでくっついてしまい、便がうまく骨盤を通過できなくなっています。」
「なんとか便を砕いて出させ、その後、便の軟化剤でどうにか排泄を維持していこうとしても、結局ひどい便秘を繰り返し、半年くらいで結腸の神経節がダメになり、二次的な巨大結腸症に陥ってしまいます。そうなると、結腸はもう二度と元には戻りません。」
「結腸がまだ機能しているうちに、骨盤を拡げ、再建してあげる必要があります。まだ1歳半と若いですし、先は長いですから。」
「そんなことできるんですか?」暗い顔をしていたお母さんの目に明るさが戻る。
「変形してぶ厚くなった恥骨を切り取り、幅が狭くなった骨盤を広げるために坐骨を切り離して拡げ、その間に移植するのです。」
「川又先生という先生が考案した方法ですが、骨盤の拡大効果という意味では最も優れた方法と考えています。」

 こんな説明をし、手術の日程を決め、かくしてミー君は広い骨盤腔を取り戻すことが出来たのだった。術後10日目、抜糸の日にミー君はやってきた。
「どうですか、ウンチの方は。」と尋ねると、
「はい、ずいぶんと楽に出ています。しばらく歩行に差し障りがあるかもとお聞きしていたのですが、全然ふつうに走り回っています。本当にありがとうございました。」とお母さん。
「良かったですね。ウンチの苦しみは日々のことですから、何よりです。」話をしている傍らで、本当に楽チンになったのだろう、ミー君は大きなあくびをしたかと思うと、居眠りを始めたのだった。

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