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獣医師さんのひとくちコラム 「猫の便秘」の話-その2

獣医師のひとくちコラム

「猫の便秘」の話-その2 ペピイ編集委員 獣医師 ● 吉内龍策

 以前に紹介した「便秘の話」は、イヌで最も厄介な排便困難が会陰ヘルニアに伴う便秘で、ネコで最も難儀なのが巨大結腸症によるものという内容だった。ネコの巨大結腸症、特発性と呼ばれる原因不明のものが一番多く、部分的結腸切除術が選択肢の一つになることはお話ししていたのだが、骨盤骨折後の変形癒合によって二次的に起きる巨大結腸症についてはほとんど触れていなかった。ということで、今回はこの骨盤骨折後のお話をしてみよう。


 骨盤は、多分、体を構成する骨としては、一番イメージしにくい骨かもしれない。腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨が一体となって骨盤を形作る。3つの骨の合わせ目に寛骨臼という窪みがありそこに大腿骨の頭が納まり股関節を形成する。腸骨の寛骨臼とは反対側の端は腸骨翼と呼ばれ、へその左右で体の幅に広がり、脊柱の一番下の仙椎と関節して背骨を支えている。坐骨の寛骨臼の反対側は左右の臀筋群の中に収まりイスに座る時に体を支える坐骨結節となっている。そして左右の骨盤の橋渡しをしているのが恥骨で、へその下の方の骨のでっぱりが恥骨結合なのだ。骨盤は全体として筒状の立体構造をなし、腹腔臓器を受け止める大きな鉢のような役割も果たしている。

 犬や猫では交通事故や転落事故でこの骨盤を骨折することが多い。もともと筒状の立体構造をしているため、ズレの少ない骨折のことも多いが、腸骨骨折が最も多く、プレートでの整復を実施することになる。激しい事故では、腸骨、恥骨、坐骨のすべてに骨折が生じ、破壊的な複雑骨折を呈することもある。

 この骨折が治るときに仮骨を生じ、より太い骨として機能を取り戻すのはありがたいことなのだが、骨盤という特殊な筒構造を有する骨であるがゆえに、事は単純ではない。骨盤の内腔には直腸や膀胱・尿道そしてメスでは膣が収まっている。

 次のカルテはと手に取ると、日本猫のミー君、1歳半。便秘とメモ書きがある。早速診察室に入ってもらった。
「先生、何度もウンチをしようと頑張るのですが、お汁が出るだけで、便は出ません。」
「苦しそうで、ほんとにかわいそうなんです。」と、お母さんは悲しそうだ。
「便が出ないのは、辛いですからね。」そういいながら、お腹をそっと触診する。特発性の巨大結腸症ならとんでもない大きさの糞塊が指に触れるはずだが、それにしては年齢が若すぎるかな、などと考えながら、指に触れたのは、普通よりは大きいものの巨大とはいえない固い便の塊だった。
「今までに事故にあったことはないですか?」と質問したが、答えは無いとのことだった。
「そうですか、レントゲンを撮らせてもらいたいのですが、よろしいですか?」そう言いながら、看護婦さんにカセッテの用意をお願いする。

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