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Q&A

膝蓋骨亜脱臼について教えてください

1歳のパピヨンが膝蓋骨亜脱臼だと診断されました。
かかりつけの獣医さんには手術を勧められましたが、ペットショップの店長さん&ペットショップに往診に来ている獣医さんは手術なんて必要ないって言います。
どっちが犬にとって良い事か分かりません。
手術する場合のメリット・デメリット、手術しない場合のメリット・デメリットがあったら教えてください。

また、しない事を選択した場合、どのようなケアをすれば良いでしょうか?
食生活や運動など気を付ける事があったら教えていただきたいです。

膝蓋骨(亜)脱臼は、本来、膝関節はお皿状の膝蓋骨という骨が大腿骨にある溝に収まり、その上や横を筋肉の腱や靭帯が走行しており、膝蓋骨が変な場所ずれて行かないようとどめる役割を持っています。また、膝蓋骨があることによって、筋肉の腱と骨との摩擦が少ないものとなり、膝関節の動きが滑らかに、かつ筋肉が十分力強く動けるようになっています。

膝蓋骨(亜)脱臼には、もともと、膝蓋骨を受け入れる役割をもつ大腿骨の溝が浅かったり、膝蓋骨を抑える筋肉や靭帯が緩みやすかったりという素因をもった犬が、何かの拍子(ジャンプしたり、高い所から落ちたりと膝に力がかかった時)で膝蓋骨が外れてしまうという先天的なものと、事故や外傷、あるいは股関節の異常などが原因となって起こる後天的なものがあります。

 膝蓋骨(亜)脱臼は小型犬種に多いものです。ご質問者の愛犬は1歳、パピヨンとのことなので、今までの事故や外傷がなければ先天的なものである可能性が高いかもしれません。

先天的なものであれ、後天的なものであれ、膝蓋骨の亜脱臼を起こし、そのままにしておくと亜脱臼は完全に脱臼した状態へとすすんでいきます。
 
膝蓋骨(亜)脱臼は次の4つの段階にわけられます。
グレード(1):膝蓋骨は普段正常な位置にあり、人の手によって簡単に脱臼させることができるが、手を放すと脱臼していた膝蓋骨は正常な位置に戻る状態。愛犬がジャンプしたり、立ったりと、膝にねじれるような力が加わると脱臼してしまうことがあるけれど、自然に戻ってしまう状態です。多くは無症状ですが、時々スキップのような動作や痛みを示すことがあります。

グレード(2):膝関節は犬の膝の動き方(膝をう~んと伸ばしたりしたり、曲げたりした時など)によって簡単に外れるようになるが、人が手で元の位置にすぐに戻せる状態(脱臼と整復を繰り返している状態です)。このような犬では慣れてくると自分で屈伸運動をして自身の脱臼を整復することがあります。ほとんどの犬では日常生活上の支障はありませんが、関節部位や骨には変形や炎症、痛みがでてきていて、これらは徐々に進行していきます。

グレード(3):この段階になると膝蓋骨は常に脱臼しており、人の手でなんとか元の位置に戻すことはできますが、人の手が放れると、すぐに脱臼状態に戻ります。多くの犬は膝関節を曲げたまま歩くため、跛行をするようになります。骨の変形は目立ってきます。

グレード(4):この段階では膝蓋骨は脱臼しっぱなしで、周囲の筋肉や腱も萎縮し、人の手で整復しようとしても元に戻りません。犬は足をまげたままで、外観からも骨の変形が明らかにわかります。歩行も困難になり、歩く時にはなるべく後ろ足に力がかからないように、前かがみで歩くようになります。

状態によってはグレードの(1)や(2)の段階で数年間留まっていることもありますが、放っておくと最終的には(4)の段階まで進んでしまいます。(3)や(4)の段階では関節周囲の炎症や変形が酷くなってきているため、手術は大変困難なものとなり、成功率も低いものとなります。
このため、膝蓋骨脱臼は早期の段階での手術が推奨されています。

手術をする際のメリットとしない場合のデメリットはほぼ似ています。
手術をすることによって、脱臼を整復し関節周囲の炎症や骨の変形の進行を防ぐことができますが、手術をしない場合では上記のグレードがどんどん高いものとなって行きます。

 手術をする際のデメリットとしない場合のメリットもやはり似ています。
 手術をする際のデメリットはまず、全身麻酔です。全身麻酔は体に負担をある程度かけてしまいます。また、臓器の状態によっては麻酔が命に関わる可能性もあります。このため、手術を受ける前には全身の健康状態を確認しておく必要があります。

 全身麻酔は昔に比べモニター機器の発展、麻酔薬の進歩によりどんどん安全になって来ていますが、100%安全とは未だ言い切ることはできません。

 また、手術を受けた際にはしばらくの間、痛みが伴いますし、運動制限が必要となってきます。しっかり運動制限をしておかないと、再度脱臼を起こしてしまうことがあります。整形関係の手術は場合によっては何回かにわけて手術を行うこともあります。例えば、膝蓋骨の亜脱臼が片側だけであれば、1回かもしれませんが、両側であれば片足ずつの手術ということになるかもしれません。術後の状態によっては、再度の手術が必要となる場合もあります。

 手術をしない場合のメリットは、上記の項目(手術のデメリット)について心配する必要がないということです。

 手術をしない場合を選択した際の日常生活上の注意点ですが…。

・ 膝に負担がかかるような運動をしないこと。
例えば、ジャンプや二足立ちをさせない、急激なダッシュをさせない、ゆっくりと散歩をするなどです。

・体重を適度に保つ。
体重が増えれば、それだけ四肢にかかる負担が大きくなるために適正体重を保つような食生活を行うようにしましょう。

・必要に応じて痛みを緩和する。
時に応じての鎮痛剤の投与や、関節保護的な役割をもつ栄養補助食品の投与などを行うと良いでしょう。

・ 四肢の筋肉を鍛える
水泳など、四肢に体重がかからず、かつ筋肉運動が行えるような運動を行うようにしましょう。