健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

11時間目 猫の毛

  猫はちょっとしたストレスで簡単に毛が抜けてしまいます。毛が抜けるといっても、ハゲを作るのではなく、全体的に軽く抜けていってしまうのですが…。病院慣れしていない猫では、ちょっと触っただけで、毛が舞い跳び、手や顔にべったり…なんてことも。猫の毛って何故あんなに手や顔に張り付いたり、服に突き刺さったりするのでしょうか?今回は猫の毛の不思議についてお話しして行きましょう。

猫の毛は多い 猫の毛には種類がある
猫の毛は細い 猫の毛の役割はいろいろ
猫がブラッシングを嫌がる理由? ブラシ選びあれこれ
ブラッシングの方法~猫が気持ちよく~  

猫の毛は多い
  私達の髪を見てみると、通常1つの毛穴から1本だけ毛が生えています。しかし、猫では1つの毛穴から複数(平均10~12本)の毛が生えています。そのため、猫の被毛はとても密集しています。例えば1平方センチメートル当たりの髪の本数を数えてみると、人では平均150本くらいですが、猫ではなんと250本も生えているのです。
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猫の毛には種類がある

 実際に愛猫の毛を見てみましょう。そっと背中を撫でながら、毛の流れと90度くらいの方向に被毛を寝かせてみてみると、1本のまっすぐで長く太い毛と、数本のそれよりも細くやや短い毛、そして少しウェーブのかかった細くて柔らかく、更に短いたくさんの毛が見えませんか?
 最も太い毛が中心一次毛(ガードヘア)、それよりもほんの少し細い毛が側一次毛(オーンヘア)、さらに細い毛が二次毛(ダウンヘア)と呼ばれています。
 なかなか見分けがつかない、という場合には落ちている毛や服についてしまった毛を長さ順に並べて見ると良くわかります。服や絨毯などに突き刺さりやすい毛が2種類の一次毛、服やカーテンなどの表面にくっつきやすい毛が二次毛です。見えにくいときにはルーペを使ってみるのも面白いかもしれませんね。毛それぞれの太さや色の付き方などの違いが良くわかりますよ。
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猫の毛は細い

 人間の髪の毛の太さをご存知でしょうか?人それぞれで違いはありますが、だいたい0.07~0.09mm程度だそうです。
 では、猫の毛の太さはというと、中心一次毛は0.04~0.08mmで、あまり人間と変わりませんね。しかし、猫の毛の大部分を占める残り2種類の毛は、というと側一次毛が0.025~0.04mm、二次毛ではなんと0.01~0.02mmという細さ。猫の毛が飛び散りやすいのも、また手や顔に張り付きやすいのもこの細さゆえ、とうなずけますね。
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猫の毛の役割はいろいろ

 人は体には頭以外あまり毛が生えていませんが、猫の体は全体が密集した毛に覆われています。これは何のためでしょう?
 猫の皮膚は人間に比べて柔軟で、かつ強靭そうに見えます。実際にワクチン接種の時など猫の皮膚に注射をすると、人の皮膚やイヌの皮膚に比べて硬い手ごたえを感じます。しかし、猫の皮膚の厚さは人の皮膚よりもずっと薄いものなのです。この薄い皮膚を守るために、毛は重要な役割を果たしています。代表的な役割を幾つかあげてみましょう。

1. クッションの役割
 猫の被毛は密集した3層構造(中心一次毛・側一次毛・二次毛)をしているため、どこかに体をぶつけた時や、誰かに引っかかれたり、噛み付かれたりしたときに、その衝撃をある程度吸収し、皮膚を守っています。
 もしも、毛がなかったら猫同士の喧嘩の傷はもっとひどいものになってしまうでしょう。


2. 傘の役割
 ガードヘアやオーンヘアと呼ばれる一次毛は硬いだけでなく、水をはじき、紫外線をブロックする雨傘や日傘のような役割をもっています。このため、多少の雨に降られても皮膚は乾いたままでいることができ、また紫外線によるダメージを皮膚が受けないようにもできているのです。
 もしも、毛がなかったら、猫にもシミやそばかす、果ては皺までできやすいかもしれませんね。

※ 猫の毛が薄い部分は、日光過敏性皮膚炎を起こしやすい場所でもあります。特に毛が白い猫ではこの皮膚炎を起こしやすいため、鼻や耳の先などに炎症が起きていたら、動物病院で見てもらうと同時に、あまり直射日光にあたらないよう注意してあげましょう。そういえば、最近の日傘、黒が主流です。黒の方が紫外線をカットしやすいからでしょうね。


3. 断熱材・保温材の役割
 ダウンヘアと呼ばれる二次毛は、密集し、かつ柔らかく軽いウェーブがかかっているため、毛の間に空気を良く含みます。この毛の間の空気の層は外からの暑さを防ぐ断熱材として、また、寒い時には体から発散する熱を逃がさないための保温材として働いています。
※ 汗腺の少ない猫では暑い時に汗をかいて、体温を下げることが効率よく出来ません。このため、熱い時にはグルーミングで被毛を湿らせ、その唾液が蒸散する時の冷却効果を利用して体温を下げています。
※ 毛のない猫の場合では室内の気温や湿度を快適に保ってあげましょう。


 猫の毛の不思議について、如何でしたか?
今回の授業のおまけとして、私なりのブラッシングの方法を載せてみました。
もしよろしければご一読ください。
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猫がブラッシングを嫌がる理由?

よく、猫でも犬でも、ブラッシングを嫌がる、だからブラッシングをすることが飼い主にとって苦痛です、という話をたまに耳にします。
 私達が美容院に行って嫌な気持ちになるのはどんなことだろう?と考えてみると猫の嫌がる気持ちがわかるかもしれません。シャンプーの時に髪を乱暴に扱われること、耳に水が入ること、などなどありますよね。また、長時間椅子の上でじっとしなくてはいけない、ということが苦手な方もいらっしゃるでしょう。痛いことや気持ちが良くないこと、拘束されること、自由にならないことはとっても嫌なものと感じるものです。我慢はできますが、嫌なものは嫌。猫も同じで、不自由なこと、痛いこと、緊張が強いられるような事はとっても嫌いです。
 ブラッシングを嫌がる愛猫の中には、ブラッシングが不自由なこと、痛いこと、緊張を強いられることになっているのではないでしょうか?ブラシの種類やブラッシングのやり方、一度見直してみましょう。
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ブラシ選びあれこれ

犬用だけでなく、猫用のブラシも最近はとてもたくさんの種類がお店でも雑誌でもみられます。どんなブラシを使ったらいいのだろうか?と悩むかもしれませんが、日常的なお手入れをする、というのであれば選び方は簡単です。ブラシの面が愛猫の顔よりもやや小さな物、あるいは飼い主の方が握りやすく扱いやすいものを選びましょう。そうすれば、首や顔の横、また足の付け根辺りも細かくブラッシングしていくことができます。
 ブラシには、固めのものと、柔らかめのものがあり、そこでも更に迷ってしまうかもしれませんね。迷った時には自分の肌(腕の内側)に当ててみて、軽くブラッシングをしてみます。自分が気持ち良いと感じる硬さのものをまずは選んでみましょう。ピンブラシでも、ラバーブラシでも結構です。皮膚に当ててブラッシングしても痛くないものを探しましょう。
※ 猫用のものでなくても構いません。
 長毛種の猫の場合には、もつれた毛をほぐすため、毛をふんわり軽やかに保つために、目の粗いコームと細かいコームの2種類用意します。1本に2種類の目がついてあるものもあります。
※ スリッカーは地肌にあてるものではありません。スリッカーを使用する時には、その持ち方や使い方をトリマーの方や販売員の方によく聞いてから使用しましょう。誤った使用法は猫の薄い皮膚を傷つけてしまいます。
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ブラッシングの方法~猫が気持ちよく~

 ブラッシングは抜け毛を取るだけでなく、皮膚のマッサージを行うためのものである、と考えましょう。抜け毛を一生懸命取ろうとすると、いつの間にか力を入れすぎ、猫が嫌がってしまうことになりかねません。
 毎日、毎日、猫の毛は少しずつ生え変わっているのですから、猫の体から日々の抜け毛を一切なくすというのは無理というもの。日々抜けてくる毛を軽く取り除く、という軽い気持ちで、また猫が気持ちよいと感じる状態で続けていくことが長続きのコツです。
 強いブラッシングのし過ぎは返って、皮膚を傷つけフケを増やしたり、抜け毛を増やしたり、ということになりかねません。

 ブラッシングが初めての猫や、ブラッシングが嫌いな猫の場合、最初はブラシを使わずに、毛並みにそって、顎の辺りや首の周り、背中を優しくゆっくりなでてあげます。
 愛猫がこれに慣れてきたら、今度はブラシを使いますが、抜け毛を取るのではなく、皮膚をマッサージする気持ちで、ブラシを毛並みにそって優しくあてます。最初はやはり、顎の辺りや首の後ろ、背中といった、撫でると喜ぶ部分だけを行っていくようにしましょう。

※ 愛猫にとって気持ちのいい力加減を探してみましょう。ブラッシングの基本は愛猫の気持ちの良いお顔です。o(^-^)o

 愛猫がグルグルと喉を鳴らしはじめたり、目を細めて気持ちよさそうにしてきたりしたら、少しずつ、顔の横や足の部分など範囲を広げ、毛並みにそってブラッシングしていきます。
 ブラシがどうしてもできない、という場合でもマッサージは喜ばれることが多いものです。ブラシが嫌いな猫ではブラシの代わりにラバーグローブを使ってみるのも良いでしょう。
 おなかは薄い筋肉だけが内臓を覆っているという構造上、どんな動物にとっても、苦手な部分。このため、おなかのブラッシングは嫌がる猫は多いので、無理にお腹をブラッシングしないようにしましょう。背中などのブラッシングが気持ちよければ、次第にお腹もさせてくれるようになりますよ。 
 猫の毛がもつれやすい部分、抜け毛が溜まってくる部分は、主に背中の後方や尻尾の付け根から太ももの後ろ辺りにかけてです。この部分のブラッシングを毎日行っていれば、そんなに毛が飛び散ることもないでしょう。

 ブラッシングや、マッサージをして、皮膚の血行を促すようになれば、毛の艶が増していきます。しかし、ブラッシングが愛猫にとって適切でないと、皮膚を傷つけ、フケが増えていくことにもなりかねません。愛猫が気持ち良いと感じるブラッシングを愛猫の顔を見ながら、習得して行きましょう。あなたの愛猫が気持ちの良いブラッシングのやり方をきっとあなたに教えてくれます。
 ブラッシングは一日に何分しなければ、また何回しなければ、という基準はありません。猫の表情を見ながら、喉を鳴らす音を聞きながら、飼い主の方のできる範囲で行っていくと良いでしょう。
 長毛種の猫の場合、最初に目の粗いコームで毛のもつれた部分を梳かすようにします。この時の注意点は、毛の生え際を左手で持って押さえておき、コームが絡まった毛に引っかかった時に毛の根元が引っ張られることがないようにしておくことです。また、絡まった部分はコームの先を毛に平行に使うなどして根気良く解きほぐすようにします。猫用のブラッシング剤を使用してあらかじめ、毛の持つれを指で軽く解きほぐしておくのも良いでしょう。頑固な毛玉は根元の毛を指で挟み、皮膚が引っ張られないようにしてから切り落とします。

※ 猫の皮膚は伸びやすく、毛を引っ張りながら切ると、皮膚まで一緒に切ってしまうこともあります。
 全体のもつれがなくなったら、ブラシを使い、皮膚のマッサージを行うつもりで、毛並みにそってブラッシングを行っていきます。長毛種の場合は、性格上ブラッシングが適切に行われていれば、嫌がることはほとんどありません。飼い主ご自身がゆったりした気持ちで行っていきましょう。
 全体のブラッシングの後は、目の細かいコームで全身を梳かしていき、毛並みをふんわりさせます。長毛種は毎日のお手入れが短毛種に比べて大変かもしれませんが、愛猫のため、頑張りましょう。

★ 毛玉がたくさんできてしまうと、その下の皮膚が蒸れ、脱毛してしまうことがあります。毛玉を作る前のお手入れをしっかりしてあげましょう。
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