健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

じゃれ猫ルーム
 
 耳を寝かせ、後ろ足でカッカッカっと掻きむしる、頭をブルブルと振る、といった愛猫の姿を見かけたことはありませんか?もしもこんな仕草をしていたら、耳の中や耳介に炎症、すなわち外耳炎を起こしているかもしれません。外耳炎と一口に言ってもこれは様々な原因で起こります。今回はこの外耳炎についてお話していきましょう。


耳の怪我
・・・外傷性外耳炎
耳の感染症
・・・寄生虫性外耳炎(耳ダニ症)
・・・真菌性外耳炎
・・・細菌性外耳炎

耳の怪我
・・・外傷性外耳炎・・・
 発情の季節、外出する猫、特に雄猫でよくみられます。猫同士の喧嘩、特ににらみ合いつつ、唸り合いつつ、突如繰り出す強烈な『猫パンチ』によって耳や顔面が引っ掻かれてしまうことがよくあります。「顔面に傷を作るのは、強い猫の証拠だね」、と稀に誇らしげな飼い主の方もいらっしゃいますが、喧嘩に強くても、弱くても怪我は怪我。無いに越したことはありません。また、喧嘩の傷は放っておくと化膿しやすく、酷いときには発熱し、食欲が無くなってしまう事もあります。たかが怪我とは侮れません。

【原因】
 多くは猫同士の喧嘩のときに、相手の爪や歯で怪我をしてしまうことによります。

【症状】
  耳の片縁が引っかかれ、ギザギザになっていれば、見た目にもわかりやすいのですが、耳の後ろ側(耳介背面)に傷がある時は毛に隠れ見えないことが多々あります。外傷の初期には平気な顔をしているのですが、1~2日程気づかずにいると、化膿し、耳に熱があったり、痛みで耳を触れられることを嫌がったりします。化膿が酷くなると、全身性の発熱や食欲の低下などが見られることもあります。

【治療】
  初期で傷が軽いものであれば、傷の洗浄と消毒を行います。傷が深いときには手術によって傷を縫合しなければいけないこともあります。
すでに化膿し、中に膿が溜まったような状態の時は、その部分の皮膚を切開し、膿を出し、洗浄・消毒を行います。いずれの場合も処置後に抗生物質の投与を行います。

【早期発見のために】
  怪我をしてから、時間が経てば経つほど化膿の恐れが高まり、また傷は治りにくくなります。このため、愛猫が外出から帰ってきたら、優しく全身をなでて傷がないかどうかを確認しましょう。もしも、特定の部分に触れられることを嫌がるような場合には、そこに怪我があるかもしれません。良く観察してみてください。
ページTOPへ
耳の感染症
 感染症というと、何が思い浮かぶでしょうか?昨今ではウィルスがニュースの話題となっていますが、ウィルスだけでなく、細菌や真菌、寄生虫も感染症の原因となります。特に外耳炎の原因となる微生物には、耳ダニと呼ばれる寄生虫、皮膚糸状菌やマラセチアなどの真菌、そして様々な種類の細菌がみられます。

・・・寄生虫性外耳炎(耳ダニ症)・・・
 猫だけでなく、フェレットや犬もこのダニに感染します。このダニは、空気中を飛んだり、ジャンプしたりすることはなく、ダニが地道に動物の体を伝って歩いていくことで、または何かの道具(綿棒やブラシなど)で運ばれることで感染します。このため、親猫から子猫へ、また同居動物から同居動物へと感染していくことがあります。

【原因】
  耳ダニが外耳道内に感染することが原因です。このダニの正式名は『ミミヒゼンダニ』といいますが、疥癬と同じ仲間なので、『耳疥癬虫』と呼ばれることもあります。

 ミミヒゼンダニの大きさは0.3~0.4mm程度で、白っぽい体をしています。肉眼ではわかりづらく、耳鏡で耳の中をのぞく検査や顕微鏡で耳垢を検査することで発見されます。ダニに感染した猫の耳垢をルーペなどで良く観察すると、うごめく白っぽいダニを自宅でも見る事ができます。このダニは足が長く、外耳道内を動き回り、耳道内 の皮膚を傷つけるだけでなく、そこでどんどん卵を産み、増殖していきます。

【症状】
  激しい痒みがあり、頭を振ったり、頻繁に耳を後ろ足で引っ掻いたり、耳を物にこすり付けたりします。このため、耳の周囲に自分で引っ掻き傷を作ってしまい、時に出血することもあります。(私達人間も蚊に刺されると、ついつい血が出るまで引っ掻く事がありますね)
 黒褐色の乾いたワックス状の耳垢が多量に認められます。また、ミミヒゼンダニによって外耳道内に微小な傷ができ、そこに細菌感染や真菌感染が併発することもあります。

【治療】
  耳垢を取り除き、殺ダニ剤を外耳道内に塗布します。ただし、この殺ダニ剤は成ダニや幼ダニにしか効果がなく、外耳道内に残っている卵は生き残って孵化し、またどんどん耳ダニが増えていくことになります。このため、数日置きに治療を繰り返し、少なくとも3週間以上は治療を継続しないといけません。 細菌感染や真菌感染が併発している時にはそれらの治療も同時に行っていきます。

 また、同居動物がいる場合は、一緒に検診をうけ、ミミヒゼンダニがいないかどうかを確認しておき、感染が確認されたらともに治療をしておかないと、1頭が治っても、別の個体から再度ミミヒゼンダニに感染して延々治療を繰り返す、ということになりかねません。家庭での猫のいる環境をこまめに掃除し、敷物などを洗濯・洗浄することも治療のひとつとなりますよ。
ページTOPへ

・・・真菌性外耳炎・・・
 真菌というとピンと来ないかも知れませんが、いわゆるカビのことで、人間では水虫が有名でしょうか。チーズやおみそ、日本酒など、日常の食生活に有用なカビもいますが、病気の原因となってしまうカビは治療に時間がかかり、愛猫泣かせ、飼い主泣かせの困り者です。

【原因】
  皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)やマラセチア(酵母様真菌)が感染することによります。皮膚糸状菌は主に耳介背面などに、マラセチアは外耳道内に感染がみられます。通常、これらの真菌は少量ですが、空気中を漂っていたり、皮膚の表面にくっついていたりとありふれたものです。しかし、猫の体力が何らかの原因(病気やストレスなど)で落ちてしまっていたり、子猫や老猫のように抵抗力が少なかったり、傷があったりする場合には、体の中に侵入してきて病気を引き起こしてしまうことがあります。

【症状】
  皮膚糸状菌では耳介の周囲や辺縁に痂皮(カサブタ)や脱毛が認められます。マラセチアでは黒褐色で少し粘稠性のある耳垢が認められます。この時の耳垢は特有の匂い(発酵臭)があります。痒みは猫それぞれで、激しく痒がる猫もいれば、あまり痒がらない猫もいます。
 診断は顕微鏡で耳垢や痂皮を検査し真菌を確認することで行います。また、時にはウッド灯という特殊な紫外線が出る装置で皮膚を照らしたり、真菌培養を行ったりすることで真菌がいるかどうかを確認していきます。

【治療】
  耳介周囲や辺縁での真菌感染では周囲の被毛を広範に刈り、抗真菌剤を塗布していきます。外耳道内に感染がある場合には外耳道内を充分に洗浄し、耳垢を取り除き、抗真菌剤を塗布していきます。症状によっては抗真菌剤を飲ませることがあります。

 真菌は乾燥に弱いので、耳の中や周囲に被毛が生えている場合には、風通しを良くするために、これを切ったり、抜いたりすることもあります。

  真菌の治療は根気が必要です。一度治ったように見えても、奥に潜んでいる事があるので、主治医の指示通りに治療を行っていくことが大切です。また、できるだけストレスを避け、抵抗力を下げる原因となる病気を持っている場合はその治療も平行して行ってあげましょう。
ページTOPへ


・・・細菌性外耳炎・・・
 細菌も常日頃から私達の周囲に存在していますが、体の抵抗力がそれらの感染を防いでくれています。しかし、傷があったり、抵抗力が弱っていたりすると細菌が体の表面や中に侵入して増殖し、病気の原因となってしまいます。



【原因】
  細菌は多くの種類がありますが、外耳炎の原因となるのは主に黄色ブドウ球菌で、稀に緑膿菌や大腸菌といった細菌などによることもあります。

 真菌と同じように、体の抵抗力が落ちている場合や傷がある場合、また耳の中の湿り気が多い状態などが細菌感染を引き起こしやすい要因となります。家庭で耳の掃除をするときに、綿棒でついつい擦りすぎてしまい、微細な傷をつくり、そこから細菌が感染してしまう事がよくみられます。お耳の掃除をするときには、優しくそっと行ってあげましょう。特に綿棒は見える部分の耳垢だけを取り除くようにして、奥には入れないようにしましょう。また、シャンプーの際には耳の中に水やシャンプー液が入らないように注意しましょう。
 
【症状】
  感染した細菌の種類によって、様々な色の粘稠性のドロッとした耳垢が認められます。黄色や黄白色、緑色、褐色など多様ですが、多くは腐敗臭などの悪臭が伴っています。痒みや痛みがあり、耳や頭全体を振ったり、壁などに擦りつけたり、後ろ足で引っ掻いたりといった様子がみられます。症状が重いときには、発熱や食欲の低下なども認められます。

 診断は症状から推測し、また耳垢を特殊な染色液で染め、細胞や細菌の有無を調べたりすることで行われます。時に薬剤感受性試験といって、どの薬剤がその細菌に対して効果があるかを調べたりする検査を行っていくこともあります。

【治療】
  外耳道内の洗浄を行い、抗生物質を外耳道内に塗布したり、症状によっては抗生物質を飲ませたりすることがあります。炎症が酷い時には抗炎症薬の投与を行うこともあります。

 抗生物質が細菌に対し効果が高ければ、数日で症状は軽くなっていきます。投薬にもかかわらず悪化するような場合には、細菌が複数感染していたり、抗生物質が合わなかったりということが考えられるので、薬剤感受性試験を実施し抗生物質の種類を変える必要がでてくることもあります。   
 投薬は主治医の指示に従い、また不安や疑問があれば積極的に主治医に質問をしていくようにしましょう。

【早期発見のために】
  感染性外耳炎は様々な原因で起こりますが、どの原因で起こっても症状は良く似ています。このため、耳や頭を振ったり、壁に擦りつけたり、後ろ足で耳を引っ掻いたりしていないか、また耳の中をのぞいて、耳垢が溜まっていないか、いつもと違う匂いはしないか、などといったことを日々愛猫とのスキンシップの中でチェックしていくと良いでしょう。異常があると感じた時には、できるだけ早く動物病院で診察を受けましょう。
ページTOPへ