健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

じゃれ猫ルーム
お耳飛行機 猫の頭についている小さな三角形で、愛らしく、前後左右に良く動き、その時々の感情をとっても伝えてくれるもの、それが猫の耳である。

 爪を切ろうとすれば、180度の方向に折りたたんで寝かせ、まるで飛行機の羽のようになってしまう耳(一部獣医師仲間の間では『お耳飛行機』状態とよんでいる)、ちょっとした物音がすると、それぞれが左右に動き、高性能のアンテナとなって音源(音の出ている場所)を探りだす耳。そんな猫の耳はどんな構造になっているのだろうか?
外耳
~集音器官…音を集める役割~
中耳
~変換器官…音を振動に変える役割~
内耳
~音を脳へ伝え、体の平衡を保つ役割~
耳の構造と役割

 耳は外耳・中耳・内耳から構成されています。それぞれの構造と役割は次のようになっています

外耳~集音器官…音を集める役割~
 外耳は『耳介』と『外耳道』に分けられます。目に見える三角形の部分を『耳介』といいます。我々人間は音が良く聴こえる様にと、耳の後ろに手を当てて、首を左右に振りますが、猫ではこんな必要はありません。猫の耳介は、まるでそれ自体が別の小さな生き物であるかのように良く動き、また、左耳だけ、右耳だけと、左右が別々に動くこともできるのです。これは、耳の付け根の筋肉が人に比べて発達しているため。これによって、音を大変効率よく集めることができ、どこから音がしているのかを正確に探知することができます。どこにネズミが隠れているのかも、この耳によって、探り出すことができるのです。

 耳介で集められた音は耳の穴、すなわち『外耳道』へと伝わっていきます。この外耳道は軟骨によって囲まれていて、音を良く伝える洞穴のような構造をしています。また、Lの字のように曲がっていて、垂直な部分(垂直外耳道)と水平な部分(水平外耳道)があります。

 いわゆる、外耳炎と言われる病気の時には、この外耳道の部分が何らかの原因で炎症を起こしています。 

 
中耳~変換器官…音を振動に変える役割~

 中耳には『鼓膜』、『鼓室』そして『耳管』があります。その役割は外耳から伝わってくる音を適当な強さの振動に変え、内耳へと伝えることです。

 鼓膜はその名の通り、太鼓の膜のような役目をしています。しかし、太鼓ほどにはぴんと張っていず、外耳道側から見ると、少し窪んだ形をしています。鼓膜の外耳道側までは皮膚と同じ構造を、鼓膜の内側は粘膜で覆われた構造をしていて、ここで外界と体の中をしっかり隔てています。鼓膜は、空気中を伝わってきた音を受け止め、この音が作る振動を鼓室へと伝えます。

 鼓室は小さな部屋のようになっている部分で、内部には空気と『耳小骨』とよばれる3つの小さな骨があります。この小さな骨一つ一つにはちゃんと名前があり、しかもそれぞれが関節と幾つかの靭帯や筋肉で連結されています。鼓膜側から順にツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨と呼ばれています。これらの骨は猫の体の中で最も小さな骨となのですが、担っている役割は大きなもので、鼓膜から伝えられた音の振動を内耳へと伝えています。もしもこの骨の組合せがなかったら音は聞こえなくなってしまうでしょう。




その他の役割も持っている中耳~鼓室の中の気圧調節~
 耳管は鼓室と鼻咽腔(咽喉の奥)をつないでいる管で、大気と中耳内の空気圧を同じにする働きを持ち、通常は閉じています。もし、鼓室内と外界との気圧が異なった場合、鼓膜が充分に振動することができなくなってしまいます。この時、嚥下をすること(飲み込む動作を行うこと)で耳管が開き、鼓室内と鼻咽頭内が開通し、鼓室内は換気され、気圧差の調節を行います。列車や車で高い山に登った時など耳の奥のツ~ンとして音が聞き取りにくくなる事があります。そんな時には、唾を飲み込むと元に戻りますよね。これは耳管の働きによるのです。
 
内耳~音を脳へ伝え、体の平衡を保つ役割~

内耳には『前庭』・『蝸牛』・『骨半規管』があります。この中で、聴覚に関わってくるのは蝸牛という器官です。蝸牛とはその名の通りカタツムリのような形をしています。

 内耳の中には空気ではなくリンパ液が入っています。外耳で集めた音は鼓膜を伝わって耳小骨を振動させ、その振動が蝸牛のリンパ液に伝わります。振動でリンパ液が揺れ、その揺れを蝸牛にある感覚細胞(有毛細胞)が感知し、これを電気刺激に変えて、蝸牛神経(聴神経)に伝えます。この電気刺激は、蝸牛神経を通って脳へと伝わり、ここで初めて『音が聞こえた』として認識され、それが何の音なのかが判断されます。普段は何気なく聞いている音ですが、実は、音を聞くことはとても複雑な構造を必要としているようです。

 ちなみに、人の聴覚は最小20Hz~最大20000Hzまでとらえることが出来ると言われていますが、猫の聴覚は最小30Hz~60000Hz、最大100000Hzと言われています。猫は聴覚がとても発達しているので、小さな音も聞き逃さないはずなのですが、興味のない音には知らん振り…。呼びかけても、寝たふりしたり、尻尾だけお愛想で振ったりということも。

 内耳は平衡感覚にも関与しています。内耳炎を起こした時に平衡感覚がおかしくなる、というのはお聞きになったことはありませんか?

 内耳の前庭と骨半規管は平衡感覚を司っています。内耳の前庭は直線方向の動き・重力・遠心力を感知します。また、骨半規管は内部に『三半規管』と呼ばれる構造をもっていて、回転運動を感知しています。この前庭や三半規管で感知された体の傾き(今、体がどのような状況になっているか?)が前庭神経という神経に伝わり、その情報を元にして、脳が体のバランスを保つようにしています。

 猫では他の哺乳類に比較し、この三半規管と前庭が発達しています。そのため、抜群のバランス感覚を誇っているようです。そういえば、犬は車に酔い易く、酔い止めのお薬を処方することがありますが、猫に処方したことはまだありません。