健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

じゃれ猫ルーム
 人間の外科医には『虫垂炎に始まって虫垂炎に終わる』という言葉があるようですが、獣医師では『避妊・去勢に始まって、避妊・去勢に終わる』でしょうか。避妊去勢手術は手術の基本であり、また、通常、健康な猫の体にメスを入れるわけですから、(手術の影響はありますが…)健康な状態で飼い主さんにお返ししなければならないため、責任重大な手術となります(どんな手術でも言えることなのですが)

 避妊・去勢手術は多くの猫が受ける手術でしょう。これらの手術はほとんどの動物病院で実施されていますが、飼い主の方にとっては初めてのことであることが多く、漠然としたイメージしか持っていなかったり、疑問を持って尋ねたくても気後れしてしまって、忙しそうな獣医師に聞けなかったりというようなことがあるかもしれません。今回はそんな疑問についてお答えしてみます。
Q1 避妊・去勢手術を受ける年齢は? 猫の否認・去勢手術Q&A
Q2 手術前に気をつけておくことは?
Q3 手術前に検査は必要?
Q4 手術前に絶食・絶水するのは何故?
Q5 具体的な手術の流れは?
Q6 手術後の食事は何か気をつけることはありますか?
Q7 手術後、縫合の糸が外れてしまった時はどうしたらよいでしょうか?
Q8 手術後元気がなくなってしまっています。どうしたらよいでしょうか?
Q1 避妊・去勢手術を受ける年齢は?
 避妊・去勢手術を受けるのに良い年齢は生後5~8ヵ月齢頃と言われていました。現在では生後6~16週齢頃に手術を受けても影響はないという報告がありますので、このような早期手術を実施し始めている動物病院もあるでしょう。性成熟前に避妊・去勢を行うことで問題行動の予防が出来る可能性が高くはなります。しかし、避妊・去勢手術を受けるには遅すぎるということはありませんので、性成熟後でも手術を受けることはできます。
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Q2 手術前に気をつけておくことは?
1.ワクチン接種
 ワクチンによる病気への抵抗力がつくには予防接種後1~2週間程度かかります。このため、ワクチン未接種の猫は手術を受ける2週間以上前に接種しておきましょう。
2.内部寄生虫検査・駆除
 猫は母猫の母乳から回虫などの内部寄生虫に感染してしまうことがあります。このため、一度も外へ出たことがない猫でも念のために便検査をしておくと良いでしょう。内部寄生虫は下痢を起こすだけでなく、種類によっては猫の栄養分を横取りしたり、貧血の原因となってしまうことがあり、術後の回復が遅れてしまう原因にもなります。
3.外部寄生虫予防
 外部寄生虫、特にノミが寄生している場合には予めノミ駆除を行っておくと良いでしょう。獣医師やAHTは手術前にノミがいないかどうか気をつけてチェックしていますが、時々目をすり抜けたノミがせっかく消毒した手術部位を飛び交い『汚染された~再消毒だ~~!!』と獣医師やAHTを絶叫させることがあります。絶叫だけで済めばいいのですが、ノミによって汚染された手術部位は、再度初めから消毒しなおすことになり、その分猫の麻酔時間が長くなるということにもなりかねません。愛猫のためにも外部寄生虫予防はしっかり行っておきましょう。
4.手術前に愛猫の体を清潔に
 手術を行うと、抜糸までの間お風呂に入れたりすることが出来なくなります。手術前にできれば一度体を洗ったり、蒸しタオルで軽く拭いてあげたりしておくと良いでしょう。
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Q3 手術の前に検査は必要?
 手術の前に血液検査や尿検査、心電図検査、レントゲン検査といった各種検査を行うことがあります。これは体の状態を適切に知るためです。これらの検査によって「貧血がないか?」「肝臓や腎臓は正常に機能しているか?」「血液中の蛋白濃度は適当か?」「心臓や肺に異常はないかどうか?」などを確認していくことができます。一般身体検査で異常所見が特に見当たらないような場合には、この検査を特に勧めないこともありますが、できれば愛猫の基本状態を知っておくために検査をしておくことが勧められます。また、外へ遊びに行くような猫や拾った猫の場合にはFeLV/FIVのウィルスチェックなども行っておくと良いでしょう。
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Q4 手術前に絶食・絶水するのは何故?
  絶食は通常12~18時間前から、幼い動物の場合には4~6時間前から行います。
避妊・去勢手術は全身麻酔(全身麻酔とは薬により手術中の猫の意識を一時的に無くし、痛みや不安を感じなくさせることです)をかけて行うため、全身の体の力が抜け、吐いてしまうことや麻酔薬の影響で吐いてしまうことがあります。胃の中に食べ物が残っていると、吐いた食べ物が気管や肺の中に入り、窒息や重症の肺炎(誤嚥性肺炎)を起こしてしまうことがあります。このような事態にならないように、手術前には絶食・絶水をお願いしているのです。手術中は点滴をしますので、脱水の心配はありません。
 ごくたまに空腹に耐えかねて、飼い主の目を盗んで何かを食べてきてしまっている猫もいます。こんな時は吐き出すと、気管に嘔吐物が入らないように手近にいる者が慌てて猫の頭を下にして持ちあげ、気管内に嘔吐物が入らないように対処するというようなこともあります。
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