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健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

じゃれ猫ルーム
 
猫と同居すると、子猫であればいつの日か、成猫であれば年に数回、猫たちにとっての恋の季節が訪れます。この恋の季節、雌猫はワォワォと鳴きたてたり、グルゥゥゥンと甘い声で鳴いたりして恋人を呼び続けます。この声は絶え間なく遠くまで聞こえます。この恋の呼び声に応えた雄猫が四方八方から集まり、雌猫を巡って争い、夜中に喧嘩の声が周囲に鳴り響いてしまうことも…。

 雌の甘い声も雄の喧嘩の声も自然な事なのですが、時に、飼い主の安眠を妨害しイライラの原因となることもあります。また、飼い主だけでなくご近所の安眠を妨害することにもなりかねません。年に一回、数日だけであれば我慢もできるかもしれませんが、猫の発情回数は意外に多いのが困ったところです。
今回、猫の発情についてちょっとご紹介しましょう。
雄の場合 雌猫の発情周期 雌の場合
猫の発情

 猫は季節性多発情繁殖動物といって、春から秋にかけての季節に繁殖期を迎えます。

この繁殖期は通常、年に2~3回あり、通常春と晩夏~初秋にかけてです。一つの繁殖期間中に雌猫は繰り返し何度か発情します。また、雌猫が発情すると、それにつられて性成熟している雄猫も発情します。つまり、雄猫は周囲に発情している雌猫がいれば、いつでも一緒に発情してしまうのです。

雌の場合

 雌猫は生後6~12ヶ月齢で性的に成熟し、第一回目の発情期(初回発情)を迎えます。
現在の猫たちは発育状態が良好であることが多く、人間と同じように一昔前よりも少し早めに性成熟が来てしまう猫もいるようで、稀に生後4ヶ月齢で発情期が来てしまう場合もあります。

短毛種の初回発情は早い傾向にあり、反対に長毛種のそれは遅い傾向にあります。
特にペルシャ猫などは1.5歳以上で初めての発情が来ることもあります。

初回発情の体重の平均は2.3~3.2kg、これは成猫の体重の8割程度です。
完全に体が成長していなくても発情は訪れます。特に初回発情の時はまだ体が未熟であるため、この時の交配は避けた方が良いでしょう。

 雌猫の発情は体調(栄養状態や健康状態など)だけでなく、日照時間が関係しているとの報告があります。つまり日照時間が一日12~14時間を越えると発情しやすくなるのです。このため、通常猫の繁殖の季節は春~秋にかけて訪れるものなのですが、室内飼育の猫の場合、この日照時間が室内照明によって延長してしまい、時として冬にも発情してしまうことがあります。
 
~雌猫の発情周期~

 雌猫の発情周期は大きく『繁殖季節』と『非繁殖季節』にわけることができます。
1回の『繁殖季節』中に、猫は妊娠や偽妊娠を起こさなければ『発情前期』・『発情期』・『発情間期』を繰り返します。

【発情前期】
 猫の行動に若干の変化が見られます。活動的になり、飼い主に甘えてすり寄ってくる、首や頭をこすり付けることが多くなります。また、個体差もありますが、排尿回数が増え、トイレのしつけは済んでいるのに、トイレ以外で排尿するといった発情徴候を示します。

しかし、この時点ではまだオスを許容することはありません。犬と異なり外部からみた肉体的な兆候(陰部の腫大・乳腺のふくらみなど)は全くないか、あってもほとんどわかりません。この時期は雄がマウンティングすることを許しません。期間は通常1日程度ですが、もう少し続く場合もあります。

この発情期前期や発情期中、雌猫の中には食欲ががくんと落ちてしまう子もいれば、普段のトイレのしつけは完璧なのに、粗相をしてしまう子もいます。これらは発情に伴う症状ですので、避妊を行えば治まります。

ロードーシス
【発情期】
 この時期は発情前期の動作がさらに活発になり、特徴的な声で鳴くようになります。
ワォワォと吠えたり、巻き舌の声でグルゥゥゥンと鳴いたります。また、大変甘ったれた様子になって、飼い主さんの足に体を巻きつけたりします。色っぽく腰をくねらせたり、床に転がってもだえるようなしぐさもする猫もいます。尾の付け根あたりを優しく触ると、伏せた状態で、腰を少し高くし、尾を外巻きにして、足踏みするといったディスプレイ(ロードーシス)も見られるようになります。

この頃には雄がマウンティングすることを許すようになります。この期間は、約7~10日程続きますが、短いと4日、長いと20日程度に及ぶものもいます。
この発情期間中、雌猫は外へ出たがるために、室内で飼っている猫の場合は注意しましょう。

猫の発情は犬と違って出血がまったく見られません。陰部から出血がみられる場合には膣や子宮、膀胱といった泌尿生殖器の病気の可能性が高いので、早期に動物病院で診察を受けましょう。

発情中の猫の姿が愛らしい、可愛らしいからと避妊をしないままでいる飼い主さんもいらっしゃいますが、姿の可愛らしさより、声の大きさに耐えられず、また発情期の雌猫へのストレスを考えて避妊を希望される飼い主さんの方が多いです。

猫は交尾排卵動物といって、交尾すると排卵します。そのため、いったん交尾し排卵すると、その3~4日後に発情が終了します。この特徴を利用して、綿棒やガラス棒で擬似排卵を起こさせ発情を止めるという手法もあります。

【発情間期】
 これは発情期に続いて起こり、この期間中、猫はまったく発情行動を示しません。
発情期に交尾しなかった場合や交尾しても排卵が起こらなかった場合には平均して約7日間この時期が続きます。この間に、卵巣で新たな卵胞が発育して再び発情前期に移行していきます。

 発情期に交尾が行われ、排卵が起こると黄体が形成されます。排卵しても受精が行われなかったというような場合には黄体は40~50日で萎縮・退行していきます。この状態を偽妊娠といいますが、犬と異なって、お腹が膨らむ、乳腺が発達するというような徴候はでてきません。
 もし、無事に妊娠すれば黄体は赤ちゃんを育てるために長く存続し、約2ヵ月後に可愛い子猫が手元に来ることになります。

 猫は交尾排卵動物で通常雄と複数回交尾することで、排卵が起こります。が、時には交尾しなくても排卵し、偽妊娠の状態になることがあります。
 
雄の場合

 雄猫の性成熟は雌猫に比較して遅く、生後7~9ヶ月齢頃に精巣内に精子が作られるようになります。しかし、雄猫は単独では発情せず、雌猫の声や雌の発情に伴って周囲に漂う匂いに反応して発情します。発情すると外に出たがて鳴くようにもなります。いったん外出してしまうと雌猫をめぐって周囲の雄猫と喧嘩を繰り広げることも。
尿マーキング  
繁殖季節には動物病院に喧嘩傷の雄猫が耐えません…。猫同士の喧嘩の傷は化膿しやすく、また再発しやすいので抗生剤の投与だけでなく傷口の洗浄が必要となり、診察室内で猫との大立ち回りが繰り広げられることもあります。傷だけなら治るのですが、時に喧嘩の相手から治療法の無い様々な病原菌の感染を受けてくることもあります。

 また、この時期にはスプレーと呼ばれる行動を起こしやすくなります。スプレーは別名、尿マーキングとも呼ばれます。この尿マーキングをする時、猫はやや腰を高くし、尾をピンと垂直にして立ち、軽く身震いしながら1~2ml.ほどの独特のきつい匂いを発する尿を壁などに向けて発射します。

これは自分の存在とそのテリトリーを誇示し、雌猫を招き寄せる役割もあると言われています。
そのためか、尿マーキングは雄猫の縄ばりの通り道や別の猫の縄張りの境界部分に念入りに行われ、家の中では扉の周囲や玄関先、人通りの多い場所や新しい家具などに行われます。

この尿は大変きつい匂いを発し、普通に掃除しただけではなかなか匂いが取れません。この匂いが少しでも残っていると雄猫は匂い強化のため、再度同じ場所でスプレーをしてしまいがちです。
そのため、しっかりとお湯で洗ったり、酵素系の漂白剤などで洗浄・消臭をする必要があります。中にはコンセントを選んで(立ち位置が丁度良いのか?コンセントからの匂いにそそられるのか?)、そこにスプレーしてしまう雄猫もいて、火事の危険にも繋がりかねませんのでご注意を。

このスプレー行動は去勢によって約90%が無くなります。が、残り10%は環境の見直しやストレスがないかどうかなどを確認し、それらを改善するとともに、獣医師による治療を必要とする事があります。

多頭飼育で個々の縄張りが少ない場合や、お引越しなどでストレスがかかった場合などにもこの尿スプレーが見られることがあります。また、稀にですが、雌猫でもスプレーを行うことがあります。

 さて、この繁殖季節の種々の問題をなくすためには避妊・去勢手術という方法がありますが、これら手術にはどちらもメリットとデメリットがあります。猫と終生を共にするのであれば、これについて悩まない飼い主はいないでしょう…。

 次回は、猫の避妊・去勢手術のメリットとデメリットを考えていこうと思います。