健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

じゃれ猫ルーム
 猫はとてもしなやかに歩きます。時には足音を一切させず、ひっそりと忍び寄り、一気に獲物にジャンプ!また、どたばたと縦横無尽、二次元ならぬ、三次元での追いかけっこをし、高い家具のうえもひとっ跳び。このように、躍動感にみち、体中が鍛え上げられた筋肉の塊であるかのような猫ですが、生まれてから、歩き始めるまでには、人と同じように時間がかかります。また、歩き始めの頃は、よたよたとおぼつかない足取りです。それが次第に、しっかりとした歩き方になっていき、周囲を探検し始めるようになるには、どれ位かかるのでしょうか?
 今回は子猫たちの『起立と歩行の歩み』についてお話したいと思います。
歩くにはまず、立ち上がることができるようにならなければなりません。また、安全に歩くには周囲のものが見え、音が聞えていないと危なっかしい限りです。前回の、目の開き始めや耳の聞え始める時期をちょっと思い出しながら、勉強していきましょう。
子猫についての知識
  子猫に対するトイレのしつけ
  歯のお話
  歯磨きを始める前に
生まれたばかりの赤ちゃんは…
最初は四肢を泳がすように動かし、なんとか体を滑らせて、お母さんのおっぱいのところへと、移動していきます。そんな赤ちゃんを母猫は、ミルクを飲ませている間に優しく体を舐めて清潔にします。ミルクを飲ませ終わると、今度は会陰部を舐め、排尿や排便を促してあげます。
 生後5~6日齢頃には…
前肢を使って、ハイハイをし始め、このように、母猫の上まで登ることができる位にまでなります。
 生後7~10日齢頃…
つまり目が開き始める頃には、前肢だけでなく、後肢にも力が入るようになります。すなわち、『四肢で体を支える』=『起立する』ことができるようになります。
 生後2週間もすると…
目もほぼ完全に開き、周囲が見えるようになります。また、それに合わせ、よたよたと危なっかしい足取りですが、歩くこともできるようになってきます。
 次第に成長していく赤ちゃんは…
耳も聞え、視覚も次第に成猫のものに近づいていきます。生後3週齢頃には自分の寝床の周囲を探検できるほど、四足で立って、(まだよたよたと危なっかしいのですが…)歩けるようになります。
同時に、母猫の手助け無しで、排尿や排便が自力でできるようにもなります。この時期に、赤ちゃんのためのトイレを用意してあげましょう。
子猫に対するトイレのしつけ
 猫は、元は砂漠に住む動物が起源だった、といわれています。そのため、目の細かい砂状のものの上を好み、そこで排泄する傾向があります。最初の猫砂の材質は、目の細かいものがお勧めです。これは、猫の基本的な好みに合うため、自然にその場所で排泄するようになる可能性が高いためです。
 トイレの大きさは、子猫がまたげる程度、もしくは、親猫のトイレに傾斜になるようなものをつけて、足の短い子猫が登れるようにしましょう。その場合には、入ったら必ず出ることができるように、子猫が這い出せるよう、トイレ箱の底を上げておくか、トイレの砂の量を多くしておきましょう。


猫砂の材質やトイレの大きさは、トイレの場所を覚えたら、子猫の成長やご家庭の事情に合わせ、徐々に変更していくことも可能です。トイレの場所は、静かで通気がよく(猫の排泄物の匂いは強烈です)、安心して排泄できるような人通りの少ない環境が最適です。また、トイレはこまめに掃除し、飼育頭数に合わせて、月に何度かはトイレの内容物を全て捨て、熱湯や洗剤で綺麗に消毒しましょう。洗剤を使用した場合には、完全に洗剤を洗い流すように注意しましょう。
 トイレの置いてある環境、砂の材質が猫の好みにあい、また、トイレが常に清潔であれば、猫が粗相をする可能性はほとんどありません。猫が粗相をする場合には、必ず何らかの原因(発情や、膀胱炎といった病気などの原因)があります。


One Point Advice
 
 排泄している間は、大変無防備な体勢となっているために、猫は部屋の片隅などで排泄することを好みます。子猫が部屋の片隅をうろうろしだしたり、前足で床を引っかいたりするような素振りがあれば、子猫をそっと抱えて、トイレの場所まで連れて行って上げましょう。
 あらかじめ、トイレの場所を部屋の片隅に設置すると、自然とその場所に行って排泄する場合もあります。また、母猫が一緒に暮らしている子猫の場合、母猫についていって、自然と覚えることも多いですよ。
歯のお話
 生後3週齢前後から子猫は歯が生え始めます。猫は二生歯性といって、人間と同じように、一生の間に乳歯が生え、抜け落ち、そして永久歯へと歯が生え変わります。つまり、永久歯に変わると、その歯は一生使うものとなるのです。  猫の歯は切歯、犬歯、前臼歯、後臼歯からなっています。子猫の時期には、まだ後臼歯はありません。乳歯から永久歯に生え変わる時に、後臼歯が生えてきます。
 それぞれの乳歯が生える時期を表1に、永久歯の生える時期を表2に、乳歯と永久歯の歯式を表3に記載してあります。もしも、子猫を拾った場合、乳歯の生えているかどうか、またどの乳歯まで生えているかどうかといった様子から、「生まれてからどれくらいなのか?」をある程度推測していくことも可能ですね。

乳歯の萌出時期(表1)
切歯 2~3週齢
犬歯 3~4週齢
前臼歯 3~6週齢
永久歯の萌出時期(表2)
切歯 3~4ヶ月齢
犬歯 4~5ヶ月齢
前臼歯 4~6ヶ月齢
後臼歯 4~5ヶ月齢
(表3) 乳歯の歯式 永久歯の歯式
上顎 下顎 上顎 下顎
切歯 3 3 3 3
犬歯 1 1 1 1
前臼歯 2 3 3 2
後臼歯 0 0 1 1

  歯の生え始めることを「歯の萌出」ともいいます。その言葉の通り、芽が萌え出ように、歯が歯茎を突き破って生えてきます。このため、歯の萌出時期には、歯茎に軽度の出血や痒み、痛みがあり、これを紛らわせようと、子猫は様々なものを噛むようになります。これを機会に、噛んでも良いもの、悪い物を区別させ始めましょう。この時、まず噛んでも良い物を用意してあげてください。これは人間の子供の歯固めと同じようなものになります。硬すぎず、柔らかすぎず、歯茎を丈夫にし、痒みを紛らわせるようなものを探してみてください。硬すぎると、せっかく生えた歯が折れてしまうこともありますので、充分に注意しましょう。また、絶対に飲み込んでしまえるような、大きさのものは止めましょう。誤って飲み込んでしまう危険性がでてきますので。

 歯の生える時期は栄養学的にも大切なものとなります。歯が生えるくらい成長してくると、ミルクだけでは、体に必要な栄養素を充分に得ることができません。これは、母乳であっても、人工哺乳であっても同様です。 歯が生え始める3~4週齢頃から、徐々にミルクから離乳食に移行させていきます。生後6~10週齢頃には完全に子猫用フードに切り替えるようにします。生え始めの歯は、まだ作られている途中なので、完全な強さを持っていません。最初は柔らかくふやかしたものから始めるようにしましょう。また、歯が生え始めた時期から、口の中にそっと手を入れさせることに慣れさせ、歯磨きの習慣をつけ始めるようにすることが、将来のために、とても大切となってきます。
歯磨きを始める前に
 子猫のお口は大変小さいです。最初からブラシ片手に歯磨きをする!と、気を張らずに、『子猫と遊びながら!』を目標に気楽に始めましょう。
 切歯や犬歯が生え始める頃は、何でも齧りたがります。この時期にじゃれながら、『口の中に手を入れること』から、慣れさせましょう。また、この時、子猫が強く噛んだ場合には「子猫だから仕方がない」と思わずに、きちんと本気で「痛い!」と伝えましょう。これによって、人に対しての噛む力がどの程度であればよいのか、どの程度だと叱られる、相手に嫌がられるのかを覚えていきます。

この時に絶対に手を挙げる、叩く、殴るということは行わないでください!!子猫は体が小さく、もろいものです。必ず優しく触れるようにし、叱る時は『本気の言葉』で叱りましょう。
 口の中に手を入れられることになれれば、次は指、またはガーゼを巻いた指で、そっと歯茎をマッサージしていきます。始めは表面をなでる程度でかまいません。特に臼歯の辺りは将来、歯石が溜まりやすい場所でもあるので、その部分をなでられることに慣れさせていきます。最初から口の中が無理であれば、頬の部分を優しくマッサージし、口の周辺を触られることに慣れさせます。気持ちよさそうにするのであれば、歯茎から歯にかけて、マッサージの面を増やしていきましょう。

 歯を磨く回数は毎食後が理想ですが、まずは慣れることが第一!1日1回から始めてみましょう♪
子猫が眠そうな様子の時に優しく行ってみたり、機嫌よく遊びたがっている時に、じゃれながら『遊び』の一環として、まずは始めてみましょう。
 口の中に手を入れられること、歯茎や歯に触れられることになれれば、今度は柔らかめの小さな歯ブラシを使って、歯磨きをしていくのも良いですし、また、指にはめる歯ブラシを使うのも良いかもしれません。貴方の可愛い子猫にとって最良の方法を永久歯が生え始めるまでの間に、探していけるといいですね。