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愛犬相談室 No.8「複数飼い」

Q&A ケース別にお答えします 愛犬相談室 指導:ドッグトレーニングインストラクター 中塚圭子 No.8【複数飼い】
最近増えてきたのが、2頭以上の犬を同時に飼っている家庭。1頭だけとは違って、犬同士の関係がうまくいかないと、トラブルが起きたり、しつけがしにくくなったりすることもあるようです。これからもう1頭飼おうかと考えている人にも役立つ、複数飼いならではの工夫をご紹介します。

case1 2頭目の選び方

我が家には7歳の犬がいます。今度2頭目を飼うことを考えていますが、仲良くできるかどうか心配です。どんな犬を選べばいいのか注意することはありますか。

2頭目を迎えるにあたってまず考えたいことは先住犬の年齢です。先住犬がまだ若いとトラブルを起こしやすいので、落ち着いた年齢に達してからがベターです。かといって10歳を過ぎた老犬では、子犬の相手をさせるのは疲れてかわいそう。今7歳ならちょうどいいころだといえます。

次に、先住犬にとってなるべくストレスが少ない組み合わせを選びましょう。経験から言うと、異なる犬種、先住犬がオスなら2頭目はメス、先住犬が大型なら2頭目は小型か中型、できれば先住犬よりおっとりした性格の犬を選ぶとケンカになりにくいようです。それは犬種、性別、体格、性格が異なる方が、2頭の犬の間に優劣(上下関係)がつきやすいからです。

逆に複数飼いの悩み相談で多いのは、同種、同性(特にメス同士)の親子飼いのパターン。性格や体格が似ているのでいつまでも優劣がつかず、小競り合いが続いてしまいがち。似たものどうしだからこそケンカになりやすいのは人間も犬も同じようです。なかにはびっくりするほど仲のいいケースもありますが…。

どうしても同じ犬種を希望するなら性別を変え、避妊・去勢することをおすすめします。可能なら1週間ほどお試し期間を設け、一緒に生活してみて相性を確かめてから飼うのが賢明といえます。それができないまでも、最低3回は様子を見に行ってよく犬を観察し、性格を確認しましょう。

また2頭目を考えるとき、成犬を迎えるのも一案です。子犬よりも体格や性格がわかっている成犬のほうが、見極めがつけやすいからです。

さて、いよいよ新しい犬が家に来たら、先住犬が過敏に反応しないよう、サークルやケージの中に新しい犬を入れ、まずは柵越しにご対面。それから直接ふれあったらまた戻す、をくり返し、様子を見ながら慣れさせていきます。先住犬が小型犬の場合は、先住犬用にケージなどを用意し、逃げ込める場所を確保してあげましょう。

どれだけ工夫しても、犬同士の相性は実際に会わせてみなければ分かりません。飼い主の心配をよそに、いつのまにか犬同士が折り合いをつけてくれることも多いもの。焦らず気長に慣らしていくことです。

case2 トラブル対処法

2頭飼っているのですが、食事のときにケンカしたり、おもちゃを取り合うなど何かにつけてもめてばかり。どうすればトラブルを起こさないようにできますか。

 食事は犬同士がトラブルを起こしやすい最大の原因といえます。相談者はひとつのフードボウルに2頭分をまとめて入れて与えていませんか。頭を突き合わせているとお互いに競争心を煽られてトラブルを起こしがち。強い方が占領してしまうこともあります。たとえ2つ用意していても並べて置くと同じような危険性があるので、それぞれが安心して食べられるように、なるべく離れた場所で別々にフードを与えます。状況に応じて、部屋を変えたり、ケージの中で食べさせてもいいでしょう。

 食事以外でトラブルの原因になりやすいのは好きなおもちゃや居場所の取り合いです。これもフードと同じように、それぞれ別々に確保してあげるのが基本です。出しっ放しにしているおもちゃで取り合いが始まることが多いので、必ず片付けておき、飼い主が「遊んでもいいよ」というときだけそれぞれに別に与えます。どちらかが固執するタイプの犬の場合、遊ぶ部屋も別にする方がいいでしょう。

 居場所は力関係がはっきりしている場合には、強い犬が先に居場所を取ったら、別の場所にもう片方の居場所を設けてあげるようにすると関係が安定するようです。
 飼い主の取り合いもよく聞きます。強い方の犬から先に相手をし、続いてもう片方をかまうようにします。もし機嫌を悪くして少しでも唸ったりしたら「それなら終わり。ケンカするコは嫌い!」などと言葉と態度ではっきり伝え、中断します。

 このほか、新しい犬が来たストレスで先住犬がトイレを失敗したり、強い犬が使った後に別の犬はしづらくなったりするケースがあります。気を遣わなくてすむよう、トイレは必ず頭数分用意しましょう。
 どのようなトラブルでもくり返しているうちに習慣化し、事態は悪化の一途をたどるので、なるべく早いうちに関係を安定させたいものです。概して飼い主がきちんと犬のしつけに対して知識を持ち、どちらの犬にもリーダーシップをとって飼っている場合、2頭でもケンカになりにくいようです。

せっかちくんとのんびりさん 時間差でトラブル回避

 2頭の食べるスピードに差がある場合、速い方が、遅い方の犬のフードを横取りしてしまうことがあります。これを避けるには、スピードが遅い方から先に与え、フードの量が減ってきた頃合を見て速い方に与えるようにします。こうすると速い方の犬が食べ終わったときには、遅い方のフードも残っていないはずです。
 速い方の犬を待たせるといっても、フードを前にして長々とオスワリやフセをさせるのは禁物です。あまりしつこいと、イライラ感を募らせる犬もいます。そうなったら逆効果。食事の前のしつけは短時間でビシっと。
 また、いったん食べ終えたら、多少フードが残っていてもすぐに食器を片付けます。そのまま残しておくと取り合いの原因になりかねません。

case3 一緒に散歩しにくい

一緒に散歩に連れていくと、片方が早く行こうとしているのにもう片方が立ち止まったりしてなかなかスムーズに歩けません。どうしたらいいでしょうか。

 特に大きさや年齢、体力が異なる犬種を飼う場合、犬によって歩くペースが違うので、歩調を合わせて歩くのは難しいでしょう。慣れるまでは無理をせず、1頭ずつ別々に散歩するようにしましょう。順番はより強い性格の犬から先に連れて出る方がトラブルが少ないように思います。

 新しい犬が散歩に慣れてきたら、一緒に出かけてみましょう。初めはそれぞれのリードを左右に1本ずつ別けて短か目に持ちます。片手に2本まとめて持つと絡まりやすいうえに、コントロールしにくくなります。そうして2頭一緒に歩くペースがつかめてきたら、市販の2頭引き専用リードなどを使用すると便利です。先が2本に分かれたY字型になっていて力が分散されるため、片手でも楽に散歩できます。

 もうひとつ散歩で注意したいのは、家の玄関を出入りするとき。狭くなっているところでは、犬は本能的に先を競い合い、トラブルを起こすケースが少なくありません。そんなときにはその場で2頭ともオスワリ、マテをさせ、飼い主が先に通ってから「今日は○○ちゃんから先にオイデ」と言って、1頭ずつ通します。そのためには1頭ずつ散歩に連れ出すときから、出入り口でオスワリ、マテができるようにしつけておきましょう。どんなときにも2頭で争い出す前に、飼い主がコントロールすることが肝心です。