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動物メディカル百科 犬の腫瘍~その2~

動物メディカル百科 犬の腫瘍~その2~飼い主には見つけにくい腫瘍 獣医師 長田雅昭

 前回は飼い主が見つけやすい腫瘍についてご紹介しましたが、今回はよほど進行しないかぎり飼い主には見つけにくい腫瘍についてお届けします。犬の腫瘍は人間同様、どんな場所でもできる可能性がありますが、皮膚や乳腺と違って、肺や胃腸、骨などの腫瘍は外から見たり触ったりできません。また初期には症状もほとんどないため、おかしいなと思ったときにはすでに進行しているケースも少なくありません。今回はそうした腫瘍のうち主だったものの特徴と、治療の選択の仕方、健康診断の重要性などについてお届けします。

外観からはほとんどわからない胃、腸、肝臓の腫瘍

 胃、大腸、小腸、肝臓、膵臓(すいぞう)、脾臓(ひぞう)、腎臓(じんぞう)、膀胱(ぼうこう)など、腫瘍は内臓のどこにでもできる可能性があり、初期にはどれもほとんど症状がなく、進行するに従って表れます。比較的わかりやすいのは胃腸の腫瘍。嘔吐(おうと)、血便、下痢などが治療をうけているのに長く続いたら疑ってみる必要があります。
 高齢になってからのはじめての血尿にも要注意です。腎臓、膀胱、尿道などに腫瘍ができると血尿が出ることがあります。初期は、膀胱炎と区別がつかないこともあり、やはり、治療を続けているのに改善しない場合は、疑ってみる必要もあります。
 症状がほとんどないのが肝臓の腫瘍です。一般的に7歳以上の老齢犬がなりやすく、症状は食欲がない、元気がない、少し痩せたかなという程度で見過ごしがちです。進行すると腹部の膨満が見られます。

脾臓にできた腫瘍を摘出 内臓の腫瘍の治療は、基本的には取れるものはすぐに手術をし、放射線や化学療法(抗ガン剤)を併用することを考えていきます。肝臓の腫瘍は手術だけでも、部位によっては完全に取り去ることができ、肝臓自体は再生力が強いので術後に長生きできる例も少なくありません。

メス特有の腫瘍として気にかけたいのが子宮ガンや卵巣腫瘍です。症状は不正出血。避妊手術を受けていないメスが発情期の周期からずれて出血したら、要注意です。これも手術で除去するのが第一選択です。一概にはいえませんが、根治する可能性もあります。

肺ガンの症状は咳 初期にはほとんど出ない

 肺ガンの症状としては咳があげられますが、初めはほとんど出ることはありません。咳が出るのはかなり進行してから。そのため飼い主が初期に発見できるケースはめったになく、定期検診や他の病気でレントゲンを撮った際に、たまたま肺の様子が一緒に写り込んだような場合に限られます。
 だからといって肺ガンになったらもう手の施しようがないというわけではありません。治療はやはり取れる場合はまず手術で切除することを検討しますが、単に大きさだけで手術で取り去りやすいかどうかは判断できません。初期でも切除しにくいケースもあれば、進行していても切除できるケースもあります。きれいに取ることができて転移していなかったら、術後に長生きできる可能性もあります。単純に咳が出たらもう終わり、とあきらめることはありません。


CTスキャンの画像に写った肺の腫瘍の一例


左の画像に写った腫瘍はこの部分


上から撮影した肺ガン


同じ犬の以前のレントゲンには腫瘍はなかった


激痛を伴う骨肉腫 犬には自覚症状あり

後ろ足の脛骨にできた骨肉腫を横から撮影 骨の腫瘍のなかで最も多くを占める骨肉腫は、大型犬に発生の頻度が高くなっています。骨肉腫になった骨はレントゲンで見ると腫れていたりスカスカに見えたりします。初期から連日骨折するような激痛を伴うので、実は犬には自覚症状があるのです。しかし、犬は少々痛くても大好きな散歩には出かけるため、かなり痛くなって脚を引きずったり、腫れるまで、飼い主が気付きにくいのが現実。歩き方に違和感を感じたときには、すぐに動物病院で診察を受けましょう。
 ねん挫や関節炎と患部が近く、初期症状が似ていますが経過が異なります。骨肉腫の場合は進行が速いので、最初にレントゲンを撮ってわからなくても、1、2週間おいて再度撮るとわかることもあります。

 治療法としては、すぐ断脚するか、放射線治療で痛みを緩和させます。アメリカなどではごく初期なら骨切除後の骨移植なども行っていますが、日本ではまだ一般的ではありません。断脚後には抗ガン剤を併用することもあります。断脚だけでは、術後の1年後生存率は10%ですが、抗ガン剤を併用すると50%になることがわかっています。断脚というと飼い主は少なからずショックを受けますが、もともと痛みのせいで歩行に使っていなかった脚なので、断脚することで痛みから一気に解放され、犬にとっては楽になります。

生活の質の向上を目指し治療方法を選択

 腫瘍の治療方法は、腫瘍の種類や進行度に加え、治療の目的によっても選択肢が別れます。動物病院で悪性腫瘍が判明すると、まず、外科手術を中心に、抗ガン剤や放射線などを組み合わせて、いくつか選択肢を提示。それぞれの治療の効果、リスク、費用などについても説明し、治療法を決定していきます。飼い主としてはこの段階で疑問に思うことはしっかり獣医師に確認し、納得して治療に当たることをおすすめします。

 ここで肝心なのは、たとえ治らなくても生活の質(QOL/クオリティ・オブ・ライフ)を上げるような治療を目指すことです。犬の場合、人間と違って、病院で寝たきり状態で延命するということはほとんどありません。あくまで家庭でご飯を食べて散歩し、家族の一員として少しでも快適に生活させてあげるのが大前提。手遅れだからすることはないとあきらめてしまうのではなく、たとえ痛みをとるだけでも、生活の質を上げる治療を選んでいただきたいと思います。

早期発見のためには7歳超えたら定期検診

 飼い主には見つけにくい腫瘍を早期発見するには、定期検診を受ける以外にはありません。特に発症率の高くなる7歳を超えたら年に1度、10歳以上なら年に2度程度、あるいはそれ以上の定期検診を受けることをおすすめします。血液検査、尿検査、胸部レントゲン、腹部レントゲンを基本とし、気になる部分はより詳しく検査します。 もちろん検診の際には、口や耳の中を診たり、体を触ったりしますから、腫瘍以外の病気の発見にもつながります。もし日ごろから少しでも気になるところがあれば、いい機会ですから気軽に相談してみることをおすすめします。