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犬や猫の輸液療法について

入院中の猫に輸液療法が行われている様子 「輸液」というより「点滴」という言葉を用いた方がわかりやすいかもしれませんね。
 私たち人間の医療でも「点滴」は特別な治療方法ではありません。ひろく病気やケガの治療などに用いられていますが、主に電解質液などを静脈内に投与する治療を「輸液療法」といいます。
 動物病院での犬や猫たちの治療でも、輸液は頻繁におこなわれていますので、今回はその輸液療法についてご紹介しましょう。

どんなときに輸液をするのですか?

 下痢や嘔吐などによって脱水症状を起こした場合など様々な病気治療のひとつの方法として、主に電解質、水分の補給を目的におこなわれます。
また、食べものを口から摂ることができない、食べることができない、消化管の病気などで栄養が摂取できない場合に、輸液剤にビタミン類、糖質、アミノ酸、時には脂質などを混合して、体内に栄養素を補給します。手術の前後や重篤な病気の場合にも輸液による栄養の補給や血圧の管理などがおこなわれます。

体液・電解質って何?

 動物たちの身体は体重の約60%が水分です。身体を作っている細胞の中には水分が含まれており(細胞内液といいます)、その細胞と細胞の隙間にも水分があり、血液にも水分が含まれています(このふたつをあわせて細胞外液といいます)。これら身体の中の水分をひとまとめにして「体液」といいます。


輸液療法に用いられる輸液剤。治療の目的に応じた成分の輸液剤を利用します 身体を正常に機能できるように維持していくためには、この細胞内液と細胞外液の両方のイオンバランスが精密にコントロールされていなけれぱなりません。
 しかし、病気をしたり栄養や水分が十分に摂れていなかったりすると、イオンバランスが崩れ、さらに悪い状態に陥ることになります。そこで必要なのが輸液療法ということになります。
 このイオンバランスの主体となるのが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロールイオン、リン酸塩、硫酸塩などの電解質と呼ばれる成分なのです。

輸液の投与方法

静脈内投与

 静脈内投与は投与される水分、電解質などが直接血管の中に入り吸収されるため効果のあらわれるのも速く、膠質液(こうしつえき)や高カロリー輸液なども入れることもできます。また、重症で血圧が下がっているような症例では、急速に輸液することで循環の改善を図ることができます。このほか静脈からしか投与できない薬物やゆっくりと投与しなければならない薬物の場合にもこの方法は適しています。
 実施の方法は人間の場合とほぼ同じ要領ですが、動物の場合は人と違い長時間じっとしていることができずに動いてしまったり、針を外そうとしたりするので、たいていの場合、静脈留置針と呼ばれる、軟らかい樹脂製の針を静脈内に入れ、抜けないようにテープなどで固定して輸液を実施することになります。このように長時間安全に血管内に針を留めておくことを血管確保といい、犬・猫では前肢の橈側皮静脈、後肢の伏在静脈、頚静脈などいくつかの限られた部位の血管を用いて行われます。
 このように静脈内投与は血管内に投与するため時間がかかりますし、静脈輸液を受ける場合、入院が必要になることも多いので、さきほどの血管確保のための費用や入院費を含めると、それなりに費用のかかる治療となります。

 ■血管を確保し静脈内に輸液剤を投与します。

血管の位置を確認します。
写真は前足部分です。

その部分をバリカンで剃毛後、消毒します。

留置針(りゅうちしん)で血管を確保します。留置針は入院時や手術の時など、長時間に渡って輸液の投与が必要な場合などに用いられ、動物が動いても輸液が続けられるように針が血管を傷つけたり、抜けにくいよう工夫された注射針です。

留置針が抜けないようにテープを巻いて固定します。この場合、くり返し輸液剤や薬の投与が行えるよう、インジェクションプラグ(赤矢印の部分。わかりやすくいえばゴム栓です)を取り付けています。

さらに伸縮テープで抜けたりしないよう保護しておきます。

*留置針を舐めたり噛んでしまったりするようなら、エリザベスカラーなどを用います。

輸液剤を投与します。

犬や猫のサイズや状態、輸液の成分などによって、輸液剤を投与する早さも調節しなければいけません。輸液速度を一定に保つ場合などは装置を用いて滴下速度をコントロールします。
皮下投与

人間と比べると犬や猫は皮下にかなりゆとりがあるため、投与後、輸液剤がたまった部分は一時的にラクダのコブのように膨らみますが、静脈内投与に比べると輸液剤を短い時間で投与することができます。
 血管確保の必要もなく、何より動物たちを最低限拘束するだけで投与できますので通院でも実施が可能です。
 反面、皮下にたまった輸液剤は毛細血管から徐々にしか吸収されていかないため、その効果は緩やかで、血圧を維持するという効果は期待できません。
 また、重度の脱水などの場合には皮下の毛細血管の血流が非常に悪くなっていますので、なかなか吸収されない場合もあります。主として軽症の場合、水分と電解質の補給に適しています。

■皮下投与の方法

人間と違い皮膚にかなりのゆとりがあります。
引っ張ってみればよくわかりますね。

背中の皮下に投与します。

抜けたりしないようテープで固定します。

輸液剤を投与しています。

投与した場所が輸液剤で膨らんでいます(赤矢印の部分)。この一時的に貯まった輸液剤は徐々に腹部の方に下がり、時間をかけて体内に吸収されます
 
投与
腹腔内投与

 直接お腹の中に輸液を投与する方法です。輸液を入れるための血管が確保できないような場合で、皮下投与では吸収があまり期待できない時に行われることがあります。

骨髄内投与

 骨髄内に直接輪液を投与する方法です。輸液を入れるための血管が確保できない新生児や極小動物で、速い効果を必要とするような場合に行われます。小さい動物では吸収の速さは血管に匹敵するともいわれています。