健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

子犬のしつけ教室

ペピイの読者の皆さん、こんにちは。
最近は子犬のしつけに関して親切にアドバイスをしてくれる動物病院が増えてきましたね。
もし、かかりつけの動物病院で子犬のしつけ教室(パピークラス)を行っているようでしたら、ぜひ参加してみてください。子犬の時期はあっという間に過ぎてしまいますので、できるだけ早い機会に参加される事をおすすめします。
かかりつけの動物病院でパピークラスを行っていなくても、健康診断やワクチンの際などに、獣医師や動物看護師に子犬のしつけに関して相談してみるとよいでしょう。
今回は我々の動物病院で行っているパピークラスの内容をご紹介しますので、ぜひ皆さんも愛犬との生活の中で取り入れてみてください。

1、こころのワクチン

 みなさんは犬の死因にはどのようなものが多いと思われますか?アメリカ国内でのデータでは、なんと犬の死因の第一位は事故でも病気でもなく安楽死なのです。そしてその安楽死の原因の半数以上が問題行動のためによるものといわれています。
 日本では問題行動のために動物病院で犬を安楽死させるということは多くはありませんが、飼い主が保健所に犬の引き取りを希望する場合は、やはり咬む、吠えるなどの問題行動が一番の理由だそうです。つまり海外でも日本でも多くの犬が問題行動のために命を失っているということになります。そして同時に、犬の問題行動のために苦しんでいる飼い主や被害に遭っている方が少なくないのです。
 現在はフィラリア症や様々な伝染病など恐ろしい病気の多くは、予防薬やワクチン接種などによって効果的に予防ができるようになりました。そして、これらの病気は一旦かかってしまうと治療することがとても難しいため、予防が一番大切なことを皆さんはご存知だと思います。
 同様に、咬む、吠えるなどの犬の問題行動も簡単に治療する方法はありません。何よりも予防することが大切です。多くの問題行動は子犬の時期に、適切な飼い方をしてあげることで予防することができますし、たとえ問題を起こしたとしても何もしていない場合に比べると解決もしやすくなります。ですから子犬の時期に、様々な病気の予防と同時に問題行動の予防を心がけておくことが大切です。これを「こころのワクチン」と呼んでいます。

2、まず自分の犬の性格を知ろう

 子犬の性格を大まかに分類すると、支配的な性格と怖がりな性格、その中間の性格の3つに分けることができるといわれています。
 まず支配的な性格(アルファータイプ)のワンちやんは好奇心旺盛で、知らない場所でも熱心に匂いを嗅ぎまわり、初めての人や犬に対してもものおじすることなく近づいていきます。明るくやんちやで恐いものなしというアルファータイプですが、やっていることを止めさせようとしたり、自由を束縛したりすると、強く抵抗することがあります。
 アルファータイプの犬は押しが強く、飼い主がしっかりとしたリーダーシップを取らなければ飼い主の号令に従わなかったり、自分の思い通りにならないと飼い主に対して唸ったり咬んだりするという問題を起こしやすい犬です。このようなタイプの犬は子犬の時期からしっかりと飼い主がリーダーシップを取り、日常生活の中で犬を上手くコントロールできるようにしておく必要があります。
 逆に臆病なワンちゃん(シャイタイプ)は、飼い主には従順ですが、知らない人や他の犬を怖がり、自分から近づこうとしないばかりか、逃げようとします。知らない場所に連れていくと緊張して震えたり固まってしまったり、そばから離れようとしなかったりします。
 飼い主が一緒にいろいろな場所に出かけたいと思っても、知らない場所では緊張してしまい楽しむことができなかったり、知らない人が撫でようとすると恐怖から吠えたり、咬んだりしてしまうという問題を起こしやすく、他の犬とも楽しく遊ぶことができない場合もあります。できるだけ恐い思いをさせないように注意しながら、他の人や犬と楽しいふれあいの時間を作り、犬に自信をつけさせてあげる必要があります。
 アルファータイプ、シャイタイプのいずれにしても両極端なタイプの犬は飼うことが難しいため、できるだけ避けた方が良いのですが、その中間の性格の犬達であっても多少はどちらかの犬の特徴を備えているものです。また両方の特徴を持っている犬もいます。あなたの愛犬はどちらのタイプに近いですか?

3、子犬のために使う時間を確保しよう

 人間の子供は育てるのに長い年月がかかりますが、子犬は生まれてからたった1年で人間の高校生ぐらいに成長します。この1年は子犬の性格形成やしつけにとって一番大切な時で、これからの飼い主とワンちゃんの十数年を左右する大切な1年といっても過言ではありません。
 子犬を家族の一員として家庭に迎えたのであれば、この時期は多少の無理をしても犬のために使う時間を確保してください。忙しい人ならいつも時間の節約を考え、最短コースを選ぼうとします。でも子犬育てに関しては、これから十何年もの間、一緒に生活していくわけですから、楽をしようと近道を探したりせず、覚悟を決めて子犬に向き合ってください。時間を節約しようとすると結局遠回りをしてしまうことが多いのです。
 子犬を育てるには大変な時間とエネルギーが必要になります。忙しいけれども子犬をどうしても飼いたい、あるいは飼ってしまったという人は、今の生活を見直したり、時間の配分を工夫するなどして子犬と一緒にすごす時間を作ってください。
 一番大変なのは最初の1年ですが、その1年が過ぎれば放っておけばいいというわけではありません。犬の性格形成は2歳頃までにほぼでき上がり、だいたい3歳ぐらいで安定するといわれています。
 高齢犬特有の問題は別として、犬の問題行動は3歳を過ぎてから初めて起こることは少なく、ほとんどが3歳までにそのきざしが見られるものです。出てきた問題行動の芽を摘まずに放っておくと、その芽は根を張り、頑固な問題行動に成長してしまうことが多く、それを治療するには莫大な時間や労力が必要になります。子犬の時期に無理をしても犬に時間をかけておくことが、これから犬と暮らす長い時間を考えれば、結局はその後の時間や労力の節約にもなると思います。

4、自分でしつけることの意味とは?

 人間の子供なら、ほとんどの地域に保育園や幼稚園、小学校などの施設があり、子育てのための支援を受けることができます。しかし、子犬のために用意された同様の施設はほとんどありません。訓練所に預けるという方法もありますが、普通の訓練所は人間の子供の保育園や小学校とは根本的に異なります。
 保育園は家族と生活しながら毎日そこに通うものですが、訓練所に預ける場合は家族と別々に暮らすことになります。子犬の時期には飼い主との信頼関係を築くためにも大切な時ですので、できるだけ一緒に暮らして欲しいと思います。
 子犬の時期にはその犬が生涯暮らしていく社会、様々な人や犬、生活環境などに慣れるためにとても大切な時期でもあります。多くの場合、訓練所は郊外にあり、他の犬と接する機会はあっても、にぎやかな場所や人込みに出ていく機会は少ないため、どうしても犬舎とトレーニングするための限られたスペースでの刺激の少ない生活になりがちです。家族との絆を深め、犬が生涯生活する環境に慣らす必要があるこの時期に、家族や社会と隔離して生活することになるのはとても残念なことです。
 私はいわゆる訓練所を幼稚園や小学校ではなく、大学のようなものだと考えています。家族との絆をしっかり築き、地域社会の一員として成長した犬にもっと高度なことを学ばせるために入れるというのであれば良いかもしれません。
 犬をしつけるということはとても忍耐と根気のいることです。できることなら誰かに任せてしまいたいと思う気持ちもわからないでもありません。しかし犬と楽しく暮らすために一番大切なことは、まずしつけを通して飼い主と犬との信頼関係を築く事であり、それは他人任せに出来ることではありません。愛情を持って楽しくトレーニングできれば、犬と飼い主との絆を深めるためにも大変役立ちます。
 また、飼い主自身で犬を飼う上でのマナーや犬のコントロール方法、しつけに関する知識を学ばなければ、結局は日常生活で役立てる事はできません。訓練士さんにトレーニングされた犬が、その訓練士さんの号令にはすぐに従うのに、飼い主の号令には従わなかったり、月日が経つと何もできなくなったというワンちゃんはめずらしくありません。
 おすわりやふせ、まてなどの号令は、日常生活の中で飼い主さんが犬を上手にコントロールするために必要なものですので、日常生活のどのような場面でそれを活用するかを飼い主がわからなけれぱ、宝の持ち腐れということになるぱかりでなく、犬はせっかく学んだことをすぐに忘れていってしまいます。

5、子犬のしつけ教室(パピークラス)に参加しよう

 ここまででおわかりのように、しつけ教室は犬が勉強する場所というよりも飼い主さんが犬のしつけ方、犬と信頼関係を築く方法を学ぶ場所です。ですから犬だけが通っても意味はありません。
 ぜひ、飼い主さんと犬が一緒に参加できるしつけ教室を見つけて参加してみてください。

●いつから参加するのが良いか●
パピークラスに来るのは、ワクチンを接種した生後5ケ月までの子犬とその家族の方です。我々の病院では子犬の健康状態に問題がなければ少なくとも1回の有効なワクチン接種を行っていれば参加してもらっています。いつから参加して良いかは、伝染病の発生状況や子犬の状態によっても変わってきますので、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。
 もちろん伝染病を避けるという意味ではすべてのワクチンプログラムが終ってから参加するのが一番安全ですが、子犬がもっとも人や他の犬に慣れやすく、様々なことに慣らしやすい時期は生後3週齢から14週齢といわれていますので、パピークラスに入れるのは少しでも早い方が効果的というのもまた事実です。
 両方のメリットとデメリットを考え、子犬の性格や健康状態を考慮して決めるのが良いでしょう。
 パピークラスではリードを放し、自由に子犬同士を遊ばせる時間を持ちます。これは子犬達にとって一番楽しい時間であるとともに、子犬に犬同士のコミュニケーション技術を身につけさせたり、咬み加減を覚えさせるためにもとても効果的です。
 子犬の頃に犬同士で遊んだ経験が少ないと、他の犬を見て怖がったり、犬語がわからないため犬同士でもうまくコミュニケーションがとれず、けんかになりやすいのです。またけんかになった時にも、咬む加減がわからず、相手にダメージを与えるほど強く咬んでしまうこともあります。生後5ケ月をすぎると身体が大きくなるばかりでなく乳歯から永久歯に生え変わり、咬む力が強くなります。この頃までに咬み加減を覚えたり、相手の犬の様子を見ながら遊ぶことができるようにしておきたいものです。

●家族みんなで参加しよう●
 パピークラスへはお子さんも含めて家族全員で参加しましょう。家族の中でも参加していない人がいると、どうしても子犬に対する接し方が異なってしまい、子犬を混乱させてしまうことにもなります。家族全員が同じように子犬のしつけに取り組んでください。家族が揃って参加できない場合などは、子犬ヘの接し方を家族の間でよく話し合って統一しておきましょう。
 また、いろいろな年齢、男性・女性の方が参加することで、子犬が自分の飼い主の家庭にいないタイプの人と接する機会が得られます。たとえば女性だけの家族ですと、男性と接する機会がないため子犬は男性を怖がるようになる場合があります。また、子供のいない家庭の子犬は子供を怖がるようになることも考えられます。パピークラスで様々な人と楽しくふれあう機会を持つことで、このような問題を起こす危険性を減らすことができるのです。

●パピークラスで獣医師や動物看護師、しつけインストラクターと仲良しになろう●
 かかりつけの動物病院でパピークラスが行われていれば一番理想的です。
 我々が行っているパピークラスでは、まず子犬を診察台の上に乗せて、やさしく撫で、大好きなご褒美をあげるという練習をして、診察台に乗ることは恐いことではないということを教えます。
 動物病院に対してまだ警戒心を持っていない子犬はすぐに診察台の上に慣れ、そこでご褒美をもらったり、体を触られることを楽しむようになります。なかには緊張して診察台の上で震えたり、ご褒美を食べるどころではない子犬もいますが、回を重ねるうちに慣れてきて、最後には診察台の上でうれしそうにシッポをふってくれるようになります。また耳の中を見たり、口を開けたり、目を見たりというような本来犬が嫌がることもご褒美を与えながら嫌がらないように練習しておくことで、診察がとてもスムーズに行えるようになります。
 この経験は、ワクチンやフィラリア予防などの診察で病院を訪れた時、とても役に立ちます。犬はストレスを感じることなく診察を受けることができ、我々獣医師も暴れる犬を押さえつけたりすることがなくなりますので気持ちよく診察ができます。
 パピークラスに来ていたイングリッシュコッカースパニエルのホタテくんも、病院が大好きなワンちやんのひとりです。パピークラスを卒業し、しばらくして去勢手術にやってきた時、入院ケージの中で私を見つけてうれしそうにしっぽを振ってくれました。
 そのホタテくんが先日再び目の手術にやってきました。手術の後、私がケージに見に行くと痛そうに目をパチパチしながらも私の所にすりよってきてくれました。「おりこうだったね。」と声をかけながら頭を撫でるとうれしそうに私の顔をペロペロ舐めて、お腹を見せました。
 一方、アメリカンコッカースパニエルのルイちゃんは目の手術をして以来、病院が大嫌いです。診察台の上に乗せただけで低いうなり声を出して我々を睨みます。
 先日も外耳炎の治療にやってきたのですが、耳を触ろうとしただけで、咬みつかんばかりの勢いです。飼い主さんにさえ咬みつこうとし、口輪もさせてくれません。結局充分な診察も治療もできずに帰すことになってしまいました。
 ワンちゃんは生涯を通じて、様々な病気の予防や治療のために動物病院に訪れますので、子犬の時期に、動物病院は恐ろしい場所、痛いことをする怖い人がいる場所と思うのと、お友達と遊べる楽しい場所、おいしいものをくれるやさしい人がいる場所と認識するのとでは、大きな違いがあります。
 犬にとって動物病院での診察は自分自身のためという意識はありませんので、押さえ付けられたり痛いことをされれば、虐められていると思うのも仕方がありません。特に強い痛みを伴うような処置や手術を受けた後は、動物病院やスタッフが大嫌いになったり、場合によっては知らない人に対する不信感を植えつけてしまうケースもあります。
 子犬の時期に動物病院で楽しく過す経験をさせてあげることで、犬も飼い主もリラックスし獣医師や動物看護師も安心して診察ができるのです。

●かかりつけの動物病院でパピークラスがなかったら●
 かかりつけの動物病院でパピークラスを行っていない場合でも、ワンちゃんの病院嫌いは、多くの場合飼い主さんの心がけ次第で予防できます。
 まず健康診断やワクチンの時にはとびきりの好物を一緒に持って出かけてください。待ち合い室や診察台の上で子犬にやさしく声をかけながら好物をあげてみましょう。また病院内で飼い主さんが緊張してしまうことで犬を不安にさせてしまう場合も多くあります。まずは飼い主さん白身がリラックスして、子犬に笑顔で接しましょう。同時に病院のスタッフと楽しく会話ができれば子犬も安心するでしょう。
 動物病院のスタッフに協力してもらえるようであれば、獣医師や動物看護師にも撫でてもらったり、ご褒美を与えてもらうと良いと思います。病院で楽しい経験をすればするほど病院が大好きになるでしょう。

6、最後に

 最近では権勢症候群やアルファーシンドロームという言葉が一般的になり、犬が上下関係を重視する動物であること、飼い主が犬を甘やかしすぎて犬より下位に見られると犬がいうことを聞かなくなる、といったようなことがよく知られるようになりました。
 確かに飼い主さんに犬をしつけるという意識がなく、猫かわいがりしてしまっているワンちゃんが様々な問題を抱えていることは事実ですが、一方ではこの言葉が犬のしつけに対して意識のある人に逆の意味で誤解を招いてしまっている場合もあるようです。確かに飼い主は犬にとって良きリーダーにならなければいけません。しかし、これを勘違いして必要以上に犬に厳しくしすぎてしまい、犬との関係を悪くしてしまっている場合が少なくないようです。リーダーシップを取るということは、犬を厳しく叱るということとは全く違うのです。
 確かに子犬が人の家の中で生活していると、子犬のやることなすことすべてが私たちにとっては都合の悪いことばかりです。でもそれをいちいち叱っていると子犬は飼い主を恐い、うるさい存在としか思いません。自発的な行動をすべて叱られたら、子犬がまっすぐに育つはずがありません。
 子犬を叱る前に、されて困ることはできない状況にしておくことが大切です。たとえば噛まれてこまるものは子犬の届くところに置かないようにし、子犬に噛んでも良い安全なものを与えるというのが基本です。
 飼い主がリーダーであることを教えるために、大声で叱ったり、叩いたりする必要はないのです。日頃から「おすわり、ふせ、おいで、まて」などの簡単な号令を教え、食事やご褒美、おもちゃを与えるまえに必ず号令に従うようにさせること、子犬と楽しく遊び、遊びの中で飼い主が主導権を握ることなどを通じて、飼い主はやさしく信頼できる存在であることを教えてあげてください。
 大切なことは、犬の上に立つことではなく、犬と良い関係を築いていくことです。この部分に関しては今後、もう少し詳しくふれていきたいと思います。