健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

猫との引越し

監修:もみの木動物病院 村田 香織先生

今回の「獣医さんだから言えること」は猫との引越しをテーマにお話します。
 引越しする際に大切なペットをどうするかは大きな問題です。ペットが環境の変化に戸惑ってしまい、ストレスを溜め込んでしまわないように上手な引越しをしたいものです。

引越し・旅行をするときには

 「犬は人に、猫は家につく」という言葉があります。
 確かに猫は環境の変化を好まず、犬のように人について色々な場所に出かけることを楽しむ、といった習性はありません。ただし、これは猫が飼い主さんという人よりも、家という場所を大切にしている証明にはなりません。飼い主さんと猫とが深い絆で結ばれているのならば、猫も人につくものである、と私は思います。
 実際に猫は環境の変化に敏感で、場所が変わると食事をしなくなったり、排泄を我慢したり、隠れて出てこなくなったりといった行動を見せることがあります。ただし、これは最初の数日間で、日にちが経てばそれまでと変わりなく過ごすようになるものです。
 引越しに際しては、猫がそれまで使っていたものを持っていき、慣れない新居でも安心して隠れることの出来る場所を用意してあげるなどの思いやりが必要です。
 外出する猫ならば、しばらくは外に出さないこと、そして、必ずまいご札をつけることは重要です。また、外出する猫は近所に住む猫から”侵入者”として扱われ、ひどいケガをして帰って来たり、時にはそのケガのために帰って来れなくなるといったこともありますので、交通事故や伝染病の危険性も併せ考えれば、引越しを機に室内飼いにすることを考えてみるのもいいでしょう。
 短期間に旅行であれば飼い主さんと出かけるよりも、家で過ごさせてあげる方が良いでしょう。できれば、よく慣れている人に世話を頼みましょう。もし、動物病院やペットホテルに預けるのであれば、普段使っている敷物や慣れた食事を持っていってあげると良いでしょう。

「借りてきた猫」が慣れるまで

 一般的に猫は『非常に神経質で、頑固者で、新しい環境を受け入れにくい動物』と思われています。
 確かに「借りてきた猫」という言葉のように、猫は知らない場所に行くと固まったように動かなくなってしまいます。私の病院でも入院やペットホテルで猫をお預かりすることはよくありますが、最初のうちはやはり隅っこで動かなかったり、「シャーシャー」と言っています。それでも、数日経つと「ゴロニャン」と人(猫?)が変わったように擦り寄ってくるようになります。
 また私自身、猫を連れての引越しは何度も経験していますが、最初はおびえていたのが、1~2週間も経てば自分のお気に入りの場所を見つけて、のんびり顔を洗ったり、毛づくろいをしたりしています。人間である私は、知らない環境でも逃げるわけでも、隠れるわけでもありませんが、結構気を使ったりしてしまいます。結果的には新しい環境に慣れるのは猫の方が早いようです。
 私が思うには、猫は新しい環境への最初の反応が激しいだけで、意外と柔軟な心の持ち主なのかもしれません。