健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

自然災害とペット

自然災害とペット

久松動物病院(横浜市)
院長 獣医師 久松 紘一

 現在、全国で約1,100万頭飼育されている犬、その総数がつかめない猫(犬の数より多いのではないかと考えられています)、その他犬・猫以外の小動物(ウサギ、フェレット、ハムスター、モルモット)など数多くのペットが人と生活を共にしております。

 特に、最近犬の数は激増傾向にあり、その半数以上が室内で飼われ、テレビのコマーシャルなどの影響で小型犬の飼育が多くなっており、大部分は家族の一員として飼われ、飼育者は40代~60代くらいの女性が圧倒的に多いようです。

 日本は地震列島と言われるように各地で自然災害が起き、地震や火山の噴火などの災害で尊い生命や建物の崩壊などの被害を受けており、いつどこで発生しても不思議ではない環境の中で生活をしています。

 突然やってくる自然災害にどう対処したら良いのか考えたことがありますか?大部分の人たちは、自分の周りでは起こらないだろうと信じ、念じ生活しているのではないでしょうか?特に飼育しているペットのことを考えたことはあるでしょうか?

 新しいところでは、1995年1月17日に起きたマグニチュード7.2の兵庫県南部地震、北海道有珠山、三原山の噴火による自然災害があります。

 特に、兵庫県南部地震は大都市を直撃したために生活に必要な水道、ガス、電気、電話、交通システムが破壊され、神戸市の長田区や兵庫区では火災が発生し、その結果、5,368人の尊い人命が失われ、多くの建物の崩壊で避難を余儀なくされた人の数は、三十数万に昇りました。

 犬や猫などのペットもその渦の中に巻き込まれ、飼い主とはぐれたり怪我を負ったりし、被災推定総数は犬4,300頭、猫5,000頭余に及びました。

 発生後多くのボランティア団体や獣医師により、負傷動物の収容、治療、保管などが行われ、10日後には神戸動物救護センターが設置され、被災動物の収容、治療が本格的に始まり、飼い主に巡り会って帰っていったペットもいましたが、種々の事情で飼育不能または飼い主不明な状態のペットたちは全国のボランティアの人々の協力で里親に引き取られていきました。

 近代都市で起こった兵庫県南部地震は多くの教訓を私たちに残しました。それにより、国や都道府県、獣医師会がさらに災害時のペットに対してマニュアルの作成や備蓄および避難場所の確保など自然災害に対しての取り組みを構築しております。

 私の病院がある横浜市も147万世帯、人口353万人の大都市で、犬の登録頭数約13万頭、猫の数は全く不明ですが、犬の2~3倍近くはいるのではないかと考えられます。横浜市獣医師会が動物の災害時におけるマニュアル作成や一時収容場所の確保などに取り組んでおり、災害時に際し、可能な限りの準備をしているところです。

 いつどこで起きるか分からない自然災害、またその規模や状況により、ペットといっしょに避難できるかどうかはとても難しい問題ですが、少なくとも日頃からその心構えとできうる限りの準備をしておく必要があるのではないでしょうか。『そなえあれば憂いなし』という言葉をぜひ忘れないようにしたいものです。

日頃心がけておくポイント
  • ペットをどこに避難させるか確認しておきましょう。
  • 首輪に名前を付けるようにしましょう。
  • 首輪・リードを嫌がらず付けさせる習慣をつけておきましょう。
  • ケージに入ることに慣れさせておきましょう。
  • 写真やメモ(検査、既往症の記録等)を用意しておきましょう。
  • ドライフード、飲料水、常備薬の用意をしておきましょう。
  • ケージやキャリーバッグを用意しておきましょう。
  • ご近所とのコミュニケーションを常時とっておきましょう。
  • ワクチンの接種をしておきましょう。