健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

歯磨きをしよう

歯磨きをしよう! 獣医師 竹澤康子

「おタケ先生のじゃれ猫ルーム」のコーナーでおなじみの、おタケ先生、こと竹澤先生に、わんちゃん・ねこちゃんの歯みがきの大切さについて、お話をうかがいました。

毎日私たちが欠かさず行っている習慣となっているけれど、犬や猫では忘れてしまいがちなこと・・・それは、歯みがき。あなたとあなたの愛犬、愛猫が楽しく、長く暮らしていくために、歯みがきを始めてみませんか?

なぜ歯みがきは大切なのか?

 食事をすると、口の中に細かな食べ物のカス(残渣)が残ります。このカスは時間が経つと、唾液や口の中の細菌と反応し、歯垢(プラーク)を作り出します。プラークを放置しておくと、その中でどんどん細菌が増えていきます。(爪楊枝の先にちょっと付くくらいの歯垢の中にはなんと10億個以上の細菌が住んでいるのです!)

 プラーク内の細菌や細菌の作り出す毒素は口臭の元となるだけでなく、歯肉に炎症すなわち歯肉炎を生じさせます。

歯石のついていないきれいな歯

さらにこれを放っておくと、プラークは歯と歯茎の隙間に侵入していき、歯を支える歯周組織にも炎症を生じさせ、歯周病を引き起こしてしまいます。

また、プラーク中のある種の細菌はプラークを石灰化し、固い歯石を作り出し、その歯石の奥では、細菌が活発に増殖し、さらに歯周病を悪化させてしまいます。

 こんな口の中の悪循環を断ち切るのが、歯みがきです。

定期的に歯を磨くことで、食べ物のカスやプラークを取り除くことが可能となります。それによって、口臭を減らし、歯肉炎や歯周病の予防を行っていけるのです。歯磨きをする度に口の中をチェックし、口の中の異常(歯肉炎・歯周病だけでなく口の中の腫瘍など)を早期に発見していくことができるようにもなります。

歯の病気はこんなに恐ろしい

口臭がひどくなった?

よだれが普段よりも増えている?

グルーミングをしなくなった?

以前より固いものを食べなくなった?

ご飯を食べたそうにしているのに、ちょっと食べると止めてしまう?

上記の事に思い当たることはありませんか?

これらの症状は歯肉炎や歯周病があることを愛犬や愛猫が訴えているのかもしれません。

たかが、歯肉炎・歯周病と侮らないでください。これを放置しておくと、痛みで唾を飲み込むことも出来ず、さらにまったく食事を取れなくなりどんどん痩せてしまうことすらあるのです。ごはんが目の前にあるのに痛みで食べられない、というのはとても辛いと思いませんか?

また、歯周病はまさに万病の元にもなりかねず、歯周病がどんどん酷くなると歯が抜け落ちたり、顎の骨が溶けたり、歯の根元に膿が溜まり、ついには破裂してしまう眼下膿瘍という病気にもなりかねません。

 これだけでなく、歯周病の原因となった細菌や細菌の出す毒素によって、心臓疾患や腎疾患を起こして、命に関わってくることもあるのです。

歯磨きの上手なやり方

歯みがきの大切なポイントは優しく根気良く、です。自分の体ではないと、ついつい力を余分に入れすぎてしまいます。痛い思いをさせないよう、力加減に注意しましょう。

0 歯みがきをする前に、あなたの愛猫・愛犬に歯石は付いていませんか?もしも歯石が付いているのでしたら、まずは動物病院で歯石の除去を行う必要があります。歯みがきでは歯石は取れないため、歯の表面、歯周ポケットの部分をしっかりチェックしてもらい、すべてきれいにしてもらいましょう。
1 愛猫・愛犬に口の周りに触れることに慣れてもらうことから始めます。機嫌の良いときや少し眠そうな時に口の周りをそっと撫で、これに慣れてくれば円を描くように優しく撫で、さらに唇をめくり上げてみましょう。短時間から始め、できたら褒めてあげるようにします。
2 ガーゼを用いた歯磨き 1のステップが終われば、指や歯ブラシを口に入れることに慣れさせます。少しずつ徐々に慣れさせていくために、まずは口を閉じた状態で唇をめくり上げ、前歯(切歯や犬歯)だけを磨きます。塗らしたガーゼを指に巻き、それで前歯の表面を軽く撫でるようにします。もしくは、それぞれの口の大きさにあった動物用歯ブラシで軽く撫でるようにしましょう。
☆ 1や2のステップを行った後は必ず一緒に遊んだり、褒めたりして、愛犬・愛猫がうれしいことと結びつけるようにしましょう。
☆ 歯ブラシを使う場合は、ペンを持つように歯ブラシを持ちます。そして、歯に歯ブラシを押し付けるのではなく、歯ブラシの毛が表面を撫でるようにして動かしていきます。
3 2のステップを数日続け、これに慣れてきたら今度はさらに唇をめくり、奥の歯(臼歯)も前歯と一緒に磨くようにします。歯と歯茎の境の部分をよく磨くようにしましょう。歯ブラシを使う場合には、歯の表面と歯ブラシが45度の角度を保つようにし、左右に細かく歯ブラシを動かすと良いでしょう。  
 歯ブラシの毛先が曲がったりしない程度の強さでそっと磨くようにします。休みながらでも、何回かに分けてでも良いので、全ての歯の表面をブラッシングするようにします。
歯ブラシを用いた歯磨き
☆ 歯ブラシの基本は歯の表面についたプラークを取り除くことです。慣れてきたら一本一本の歯をしっかりと磨くよう心がけてください。
4 3のステップに愛犬・愛猫が慣れたら、口を大きくあけて歯の裏側を磨くようにしてみましょう。ただし、猫では、かなり難しいことになるので、無理には行わず、歯の表だけでも続けることを心がけましょう。
歯磨きは一日一回でも、難しいなら2~3日に一回でも、とにかく定期的に行い、日々のお手入れの一つとして習慣付けていくと良いでしょう。
 歯みがき粉を使う場合は必ず動物専用のものを使用します。人間用の歯みがき粉は飲み込むのではなく、うがいをして、吐き出すことを前提としています(=食用ではありません)。しかし、犬や猫にうがいをさせることは難しいので、人間用の歯みがき粉は使わないでください。

歯磨き嫌いのわんちゃん・ねこちゃんの飼い主さんへ

 歯みがきが嫌いになるには、理由があります。強く磨きすぎて痛い思いをしたか、今現在歯周病や歯肉炎があり、痛いか、ということになります。口臭があるような時には動物病院で診察を受け、治療をしてもらいましょう。
痛い思いを以前させてしまったのでしたら、『歯みがきの上手なやり方』の0のステップから一度始めてみましょう。
どうしても歯みがきができない時には、歯石の付きにくいフードや、口臭や炎症を抑えるデンタルジェルなどでコントロールしていってあげるのも良いでしょう。