健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

長く犬や猫たちとくらすために「泌尿生殖器系の病気について」

 大切な家族の一員として暮らしている愛犬・愛猫たちも、毎年、確実に加齢していきます。人間に比べてずっと早いスピードで生きている彼らをみていると、私たちの人生の縮図を見ているようで、身につまされます。

 自分がもしこうなったらこうして欲しい、と思うことをぜひあなたの大切な愛犬にもしてあげて欲しいと思います。

 なぜあの時、気がつかなかったのだろう、もっとしてあげられることがあったかも…、と思うことは少なからず残るものですが、できるだけ飼い主さんご自身もそういったことができなくなるように、病気の事、予防の方法、高齢になった際の注意点などを知り、早期発見・早期治療に努めてあげてください。

 一般に6~7歳を越えると高齢期に入ります。今回は高齢期に入った犬に起こりやすい泌尿生殖器系の代表的な病気についてお話しましょう。

慢性腎不全

 もっとも多い病気として、慢性腎不全というものがあります。この病気は、元々そういう病気になりやすい犬種であったり、腫瘍や免疫介在性疾患などから起こったりすることもありますが、若い頃からタンパク質や塩分の過剰な食事(たとえば、私たち人間と同じ食物など)を与えすぎていたことや、一日中だらだらとした食生活をしていたことも要因になります。
 こうした食生活を長く続けていると、若い頃は平気に見えても確実に腎臓の機能を損なっていっています。年を取ってから「腎臓が十分に働かなくなる」という事態を招いてしまうことをよく理解して欲しいと思います。

 この病気は、症状はかなり悪くなるまでわかりにくいため、よく気をつけて見てあげる必要があります。(腎臓は沈黙の臓器といわれており、その機能の3/4を損なって初めて腎不全の症状が現れてしまうのです。)

 まず尿の量です。室内犬ならいつもよりトイレシーツがよく濡れていてしょっちゅう換えなきゃならなくかったとか、夜中はおしっこをしなかったのにするようになったとか、そそうをするようになったとか…。思い当たることはありませんか?特に複数の犬を同時に飼育しておられる方は発見が遅れることが多いので、注意してください。

 次に水を飲む量です。いつも水を入れている食器の減り具合が速いとか、やたら水飲み場に行くとかはありませんか?腎臓が悪いと、たくさん尿が出てしまうので、喉が渇くため水を飲むようになるのです。

 そして、何となくやせてきている感じがしたり、抱いたら軽くなったような気はしませんか?腎不全の症状が進行すると、腎臓のはたらきがひどく低下し、本来なら尿中に排泄されるべき有害な物質(窒素化合物)がしだいに体にたまっていくため、尿毒症と呼ばれる身体に様々な悪い影響があらわれてくる状態になります。尿毒症の症状としては、口の中や胃、腸が荒れてきたり、ものを食べにくそうにしたり、吐いたり、黒っぽい下痢をしたりすることもありますし、食欲も元気もだんだん落ちてきます。

 慢性腎不全は残念ながら完治する病気ではありません。この病気とは一生つきあって行く覚悟が必要になります。理想的には早めに発見してできるだけ進行を遅らせるような治療をすることです。それは、点滴であったり、内服であったり、食餌療法であったり、これらの組み合わせであったりします。

 慢性腎不全はその病期の初期であればあるほど、食餌療法が重要です。人間でも、食餌療法をしっかりとやれば、血液透析に至る期間をうんと延ばすことができるとされています。食餌に関しては、いろいろな低蛋白、低ナトリウムの処方食が研究されていますので、動物病院で相談してみてください。

子宮蓄膿症

 次に雌犬の場合、子宮蓄膿症という病気が非常に多くみられます。予防する方法は避妊手術しかありません。出産の有無、交配の有無はこの病気の発症には関係ありませんので注意してください。子供を産ませたから大丈夫なんて思っていたら大変ですよ。避妊手術をしていない高齢の雌犬なら、ならない方が珍しいくらいとても多い病気だということを知っておいてください。避妊手術によって予防することができますので、動物病院でよく相談してみてください。

 これも腎不全と同様、水を飲む量が増え、尿も増えます。それに加えて、子宮の中に膿が溜まってしまうタイプでは、おなかがはってきたり、(溜まった膿からの毒素が体をめぐるため)目が充血したり、食欲や元気がなくなったり、先に述べたような免疫の異常を誘発し腎不全を起こすこともあります。

 膿が出てしまうタイプでは、おしっこの出口から黄色い膿や赤茶色の液が出てきたりします。膿が溜まるタイプよりは食欲や元気がなくならないこともあり、気付くのが遅れて、腎不全や敗血症で亡くなってしまうこともあります。発見が早ければ、手術をすることで助けてあげられる確立はうんと高くなります。

 今までに目の充血だけでこられて、子宮蓄膿症が見つかり、手術をして助かった例があります。犬も猫も自分では病院に行くことができないので飼い主が気付いて連れて行ってあげなければいけません。つまり、家庭での観察(細やかな愛情)がどんなに大切かということです。ぜひ観察のプロになってください。

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