健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

ズーノーシス~人獣共通感染症~part4

2004年11月6日から、新しい検疫制度がスタートしました。 狂犬病の侵入を防ぐ検疫制度

狂犬病については、これまでペピイも誌面で取り上げてお伝えしてきましたので、日本国内では1957年以降発生はみられていない狂犬病であっても、決して安心してはいけない「人と動物の共通感染症」のひとつであることは読者の皆様は既にご理解頂いていることと思います。


 世界を見るとアジア・アフリカなどの地域を中心に毎年4~7万人が狂犬病で死亡しています(WHO推定値)。

 隣国の韓国でも1984年に一旦は狂犬病を撲滅しましたが、1993年以降再発していますし、中国でも都市化とペットブームを背景に狂犬病の患者数が急増しています(中国疾病対策予防センター/感染症研究所)。

 さらに、日本では最近の小型犬ブームを背景に犬の輸入頭数が増加傾向にあり、特に流行地域から予防注射の効果が十分に期待できない幼齢犬の輸入が増加しています。

(※農林水産省では、我が国への狂犬病の侵入防止に万全を期すため、今回、検疫制度を改正しましたが、それに先立って2004年3月23日以降、ワクチンの効果が不十分な可能性のある狂犬病発生国からの4ヵ月齢未満の幼齢犬の輸入の自粛を要請するとともに、2004年7月20日には10ヵ月齢未満の幼齢犬及び幼齢猫についても輸入の自粛を要請しています。)

 これらの状況を受け、狂犬病の日本への侵入防止対策を強化する為に、犬、猫、きつね、あらいぐま、スカンクについての検疫制度が2004年11月6日から変わりました。

 今回は犬と猫に関する検疫制度の変更点を紹介します。

何が変わったの?


犬や猫を海外から日本へ連れて入国する場合、新しい制度で必要となる主な変更点は以下の通りです。

1日本へ到着する40日前までに輸入予定を届けてください。

犬または猫を日本へ連れてくる場合は、輸送の方法(貨物、携帯品)にかかわらず、到着40日前までに到着予定空港(港)を管轄する動物検疫所に次の事項を届け出てください。

 届出をする事項は、届出者の住所・氏名・連絡先、犬・猫の種類、頭数、用途、仕出国、輸入の時期・場所、荷受(送)人の住所・氏名、仕出(向)地、固体識別情報、などです。

2犬・猫にマイクロチップを装着してください。

日本到着後に、犬・猫に装着されているマイクロチップ番号と輸出国政府機関の発行する証明書に記載されているマイクロチップ番号とを照合します。マイクロチップで個体識別をおこないますので装着が必要になりました。

マイクロチップは皮下に埋め込む、固有の標識番号をもったICチップです。長さは約11mm、太さ2mmのカプセル状で、これをインジェクターとよばれる挿入機器で、首の後ろ部分の皮下に埋め込みます。皮下に埋め込まれたマイクロチップの標識番号は「リーダー」と呼ばれる機器を使って読み取り、個体識別に用いられます。
※マイクロチップの装着については動物病院でお問い合わせください

3輸出国政府機関発行の証明書を発行してもらう。

狂犬病の発生がないと
日本が認めている11の指定地域
(2005年6月7日現在)

台湾、アイスランド、アイルランド、スウェーデン、ノルウェー、英国(グレートブリテン及び北アイルランドに限る)、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム

これら以外の国・地域では狂犬病の発生が確認されています。犬や猫が日本へ入国する際の手続きはこれら狂犬病が発生していない指定地域からか、それとも狂犬病の発生が認められる指定地域以外の地域からかによって異なります。

日本へ帰国する時、出国する国が発行する証明書が必要です。
その証明書には

  • ●出発直前(できる限り出発2日以内)に検査を受け、狂犬病及び犬はレプトスピラ病にかかっていたり、かかっている疑いがないこと。
  • ●装着しているマイクロチップの標識番号が記載されていること。
  • ●狂犬病が発生していない指定地域(右の表を参照してください)から入国の場合は、その地域で過去180日間、もしくは生まれてからずっと暮らしていたこと。または指定地域だけで暮らしていたこと。そして、その指定地域では過去2年間狂犬病の発生が無かったこと。

が、確認できなければいけません。

指定地域からつれてくる場合、 以上の1、2、3がきちんと用意できていれば、日本への到着時の検疫検査~係留期間は12時間以内で通常は短時間で検査が終了します。

 指定地域以外からの入国の場合はこれらに加えてさらに以下の準備と作業が必要となっています。

4犬も猫も狂犬病予防注射を複数回注射してください。

マイクロチップを装着後、2回以上不活化ワクチンによる狂犬病予防注射(接種間隔は接種後30日を超え有効免疫期間内)がされていなければいけません。なお、90日齢以下の子犬や子猫、またはマイクロチップを装着せずに行った狂犬病予防注射は有効と見なされませんので注意してください。

5狂犬病予防注射の効果(感染防御抗体)を確認します。

2回目の狂犬病の予防注射後、日本の農林水産大臣が指定する検査施設で狂犬病に対する抗体価の検査を受け、その結果が血清1mlあたり0.5IU以上でなければなりません。

6入国は待機期間6ヵ月(潜伏期間相当)を経過してから。

抗体価の検査を行った採血日から、日本到着時まで180日間以上輸出国で待機する必要があります。狂犬病に対する抗体価の検査結果は2年間有効なので、採血日から日本到着までは2年を超えないよう注意が必要です。また、採血日以降、日本到着日までに予防注射の有効免疫期間が切れてしまう場合は、有効免疫期間内に狂犬病予防注射をしてください。

指定地域以外から犬・猫を連れて入国する場合は、3の輸出国の証明書にも4・5の項目が間違い無く実施されていることが記載されていなければいけません。

この他に気をつけないといけないことは?

!

この新しい制度では、到着時での一層のリスク低減を図ることを目的にしているのと同時に、検疫に必要な準備をきちんとしておけば日本到着時の係留期間は12時間以内となり、帰国時の検査を短時間で終了する事が可能になりました。

 しかし、事前の準備が十分でなく、これらの条件が充たされていない場合には、輸入時に動物検疫所における係留も長期(180日以内)の係留検査が必要となります。

!

これまで認められてきた自宅係留は廃止されましたので、係留場所は動物検疫所に限られます。そのため、係留中の事故や病気を防止するためにも、普段から病気の予防(狂犬病以外のワクチン接種や犬フィラリア症、ノミ、ダニなどの予防など)と健康管理には十分に気をつけておいてください。

!

ペットの海外への持ち出しについては、基本的に変更はありませんが、入国する相手国がマイクロチップの装着を義務付けるなどの条件を設けている国・地域もありますので、犬や猫と一緒に日本から出国して他の国・地域に行く予定がある場合も早いうちに準備をしておいてください。

日本から海外へ出て、日本へ戻って再入国する犬や猫についても、日本を出る前に必要な準備をしていけば帰国時の係留検査が短時間で終了します。

なお、今回の制度改正は2005年6月6日までを移行期間として、経過措置が設けられています。

狂犬病を防ぐために

万一、日本国内で狂犬病が発生した場合、犬が人へ狂犬病をうつす感染源となる可能性が一番高くなると考えられています。そのため、海外からの侵入を防ぐため検疫の強化と同時に、日本国内でもできるだけ多くの犬が狂犬病の予防接種を受けておくことが、狂犬病が日本に侵入してしまった時にも、人間への影響を未然に防ぐ手だてとなり、私たち自身も、愛犬も、そして社会全体を守ることにもなります。

どうぞ、皆様も狂犬病への関心を持っていただき、毎年1回の狂犬病の予防接種は必ず愛犬たちにも受けさせるようにお願いします。

この新しい検疫制度の具体的な手続方法や詳細については農林水産省動物検疫所のホームページに詳しく紹介されていますので、どうぞご利用ください。