健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

犬の毛のフシギ

人にはあまりなく、犬にはたくさんあるもの、それが被毛です。
犬の皮膚は鼻と肉球以外はすべて豊かな被毛で覆われています。
被毛は犬種によっても、犬一頭一頭によっても手触りが異なっていますが、どのような構造を持ち、どんな働きをしているのでしょうか?今回はこの犬の被毛についてお話していきましょう。

毛の構造

 犬の毛には、一次毛と呼ばれる2~5本の太い毛と、二次毛と呼ばれる複数の細い毛があります。人では一つの毛穴からは基本的に1本しか生えていないのですが、犬では面白いことに、これらの一次毛、ニ次毛はすべて同じ毛穴から生えています。つまり、一つの毛穴から平均して7~15本の毛が生えているのです。

  この一次毛を『上毛』(『剛毛』、『保護毛』、『オーバーコート』『卜ップコート』とも言います)、二次毛を『下毛』(『細毛』、『アンダーコート』とも言います)と呼びます。一次毛には一本だけ特に発達した太い毛があり、これを中心一次毛と呼ぶことがあります。

毛の成長周期(毛周期)

 被毛はずっと成長し続けるのではなく、一定の周期で発育と脱毛を繰り返します。この被毛の発育周期のことを毛周期と言います。毛周期は3期に分けることができます。

  • 成長期…被毛に栄養分を供給する毛乳頭の上で、毛の元となる毛母細胞が盛んに分裂し、それが次々と角質化していくことで毛を成長させています。
  • 退行期…盛んに分裂していた毛母細胞が突然死んでしまい、それ以上毛が成長しなくなります。また、毛根部は毛乳頭から離れ、徐々に上に押し上げられていきます。
  • 休止期…毛根部はさらに上に押し上げられ、毛包も縮んでしまいます。この時期、古い毛の奥には新しい毛が生え始め、これが成長するに従って古い毛を押し出し、脱毛させます。

知ってなるほどワンニャフル ●転換期について●

 春と秋に犬の毛は多量に抜け変わりますが、その抜け変わる時期を換毛期といいます。換毛に限らず、実際には犬の毛は一定の周期(毛周期)で日々抜け変わっています。この毛周期には犬種差や個体差があり、毛の抜ける量が多かったり少なかったりするので、すべての犬に換毛期がある、とはいえません。換毛期は一般的に温帯以北が原産の犬で認められます。日本犬などはその代表犬種となります。

 換毛期には日照時間と気温が関係しており、特に日照時間が大きく関わっています。冬から春になり、日が長く、また暖かくなってくると新芽が出てくるように、新しい毛が成長し始め、休止期にある古い毛を押し出し、どんどん脱毛させていきます。これが春の抜け毛となるのです。春から夏にかけて生えてくる毛は密度が少なく、 少し粗めの毛(夏毛)となります。夏の間もこれらの毛は少しずつですが、抜け変わりを繰り返しています。

 夏から秋にかけて、どんどん日が短く、気温が下かってくると、今度は夏毛が抜け、その下からアンダーコートの発達したふわふわの冬毛が成長してきます。この冬毛のほとんどは冬の間休止期に入ります。このため、冬の間は新しい毛が生えず、また古い毛も余り抜けずに犬の体を寒さから守る天然の防寒着の役割を果たしているのです。

 ただ、近年の室内飼育されている犬たちでは、照明や冷暖房装置のために、サイクルが乱れてしまい、一年中毛が少しずつ生え変わっているということが少なくありません。

獣医さんのワンポイントアドバイス

換毛は正常なことですが、抜けた毛が絡まってしまうと、その下の皮膚が蒸れてしまったり、汚れが溜まりやすくなってしまい、細菌感染を起こしやすくなります。特に尻尾の付け根や後ろ足の付け根当たりには抜け毛が絡み合うことが多いので、この部分はしっかり、優しくブラッシングしてあげましょう。

毛の働き

犬の皮膚は人に比べて薄い構造をしていますが、その代わりに豊かな被毛が皮膚を次のように保護する役割も持っています。具体的な毛の働きを幾つかご紹介しましょう。

1物理的なカから皮膚を保護する
…犬同士で喧嘩をしたときやちょっと転んでしまったときなど、毛がクッションと なって、軽傷で済むということがあります。
2雨や雪から皮膚を保護する
…一次毛は雨や雪をはじき、また二次毛は水分が染み込むのを防いでいます。
3光線からの保護
…被毛は紫外線やその他の光線を吸収し、皮膚まで届かないようにしてくれています。しかし、白色の被毛をもつ犬ではその効果が少なく、毛の薄い部分(耳や鼻)に皮膚炎をおこしてしまうことがまれにあります。
4体温調節
…毛の中で、ニ次毛は柔らかく、密集して生えているために、毛の間に多くの空気を含むことができます。この空気が断熱材の役目を果たし、体温の調節に一役買っています。

毛のタイプ

 犬の被毛のタイプは本当に千差万別、多種多様の一言に尽きます。基本的に長さによって、短毛型(ショート・コート)・中間型(普通型)・長毛型(ロング・コート)の3つに分類することができます。短毛型としてはラブラドール・レトリバーやバグ、ブルドッグ、長毛型としてはマルチーズやオールドイングリッシュ・シープドック、中間型としては柴などの日本犬やジャーマンシェパードなどがあげられます。中間型では、一次毛と二次毛にはっきりと違いが見られます。

 また、毛の長さ以外に一次毛と二次毛の状態でも分類することができます。

細短毛(スムース・コート)
トップコートを形成する一次毛のサイズが中間型に比較して小さく、反対にアンダーコートを形成する二次毛の数が多くなり、また良く発達しています。このため、手触りが滑らかに感じられるのでしょう。代表的な犬種にダックスフンド(スムース)やミニチュアピンシャーなどがあげられます。
粗短毛(ワイヤー・コート)
トップコートを形成する一次毛が盛んに成長しますが、アンダーコートを形成する二次毛が普通型より少ないために、全体的に固い手触りになっています。代表的な犬種に多くのテリア種、ロツトワイラーなどがあります。
羊毛状長毛(カーリー・コート)
トップコートを形成する一次毛の数が少なく、アンダーコートを形成する二次毛が良く発達し、数も多くなっていて、毛全体の80%を占めています。代表的な犬種にプードル、べドリン卜ンテリアなどがあります。このタイプの犬糧は他の犬種に比較して換毛が少ない傾向にあります。
 このほか長い年月をかけて様々に品種改良をされてきた結果、犬種によっては、毛のないへアレスドッグというタイプもあります。

毛のカラー

セーブル
黄褐色の毛先に黒が混じったもの
グリズル
ブルーがかったグレー
裏白
尾、腹、脚の裏が白いこと
ブラックマスク
頭部または口の周りが黒いもの
ハウンドマーキング
白と黒と褐色の斑
ハールクィン
白地に不規則な黒斑

先生教えて! Q&A

犬のヒゲにはどんな役割があるのですか?
Answer

ヒゲは犬の口の周りや顎の下、また目の上に顔の輪郭をなぞるように生えています。これも毛の一種で、『触毛』または『感覚毛』と呼ばれています。ヒゲ自体には感覚はないのですが、普通の毛よりも毛根部が皮膚の奥にあり、そこには感覚神経が豊富に存在しているため、犬はヒゲの動きを通じて暗闇の中でも障害物をチェックしたり、空気の流れを感じたりすることができます。といっても、猫ほど敏感とはいえません。

換毛期に一部だけはげてしまったところがあるけれど、これは何が原因ですか?
Answer

普通ではありません。犬の換毛は一部の毛が一気に抜けていくのではなく、あちらから少し、こちらから少しという風にモザイク状に少量ずつ抜けていきます。このため、目で見て判るほどのハゲ(脱毛部分)はできません。一部だけ毛が抜けてしまっているのであれば、皮膚に異常がある可能性が高いので、この場合には動物病院で診察を受けるようにしましょう。

換毛期でも、毛が抜けやすい犬と抜けにくい犬は、どこが違うのですか?
Answer

毛周期の長さがそれぞれ異なっているためです。長毛型の犬では、毛が伸び続ける期間である成長期が長く続くため、毛が生え変わる周期がゆっくりなので、抜け毛が少ないのです。反対に短毛型では毛周期の期間が短く、短期間のうちに毛が抜け変わってしまうので、抜け毛が多くなってしまいます。